AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と模造天使 中篇



 聖具ナシェク、その正体は模造天使を宿す劣化神器。
 分かりやすく言うと、異世界人に与えられる特典の一種だ。

 解析した際から違和感はあったが、姿を視認したことで詳細がはっきりした。
 すでに俺は何人か、転移者や転生者を目にしているからな。

 全力で大剣を振るう俺を、模造天使であるナシェクはただ飛んで回避する。
 抵抗はしない……いや、今は情報処理に追われて何もできないだけか。


「なぜ、それを知って……」

「時代は移ろい、今の世界は大きく変わっている。前にも話したが、俺同様に気軽に聖属性への適性を付け外しできる連中。それこそお前のお友達、聖人様と同じ世界の奴らだ」

「いったい、何者なのですか? 私の友あのこは、魔法も無い世界だと言っていましたよ」

「今の世界は神様が代替わりして、そいつらの方針的に異世界人を特殊な方法で多く招いている。蘇るのも元の世界に戻るのも自由、文字通りこの世界を遊戯として楽しんでいる連中さ」


 自由民からすれば、祈念者の認識はこんなところだろう。
 もちろん善い人はいる……しかし、それ以上に知られているのはヤバいヤツらだ。

 過去の遺物とも呼べるほど、永い間どこかで眠っていたナシェクは知らないだろう。
 まあ、例の聖人様とまったく同じ世界から来たとは思えないので全部言う気は無いが。


「さて、ここまで言っておいてなんだが、これ以上は沈黙する」

「なっ……!」

「言わせたければ勝て、とでも言えばやる気になってくれるか? まあ、少なくとも自主的に言う気は無いぞ」


 大剣を振り回すのを止め、いったん地上へと戻ってくる。
 振り回している間に、やるべきことは済ませてあるからな。


「安い挑発ですね……ですが、あえて乗ってあげましょう。魔武具、それも悪魔を宿すような代物を見逃しはしません」

「けどまあ、このままだとそっちの自滅で終わりそうだしな──“魔力譲渡マナトランスファー”っと。これでしばらくは持つだろうよ」

「ひゃっ! な、なんですか……って、これは……魔力が!」

「駄賃だ。全力が出せなくて負けましたー、とか言われても嫌だしな。それだけあれば、多少は力を使っても持つだろうよ」


 見た目とは裏腹に、ずいぶんとまあ可愛らしい悲鳴を上げたものだ。
 そんな俺の内心を読み取ったのか、彼女は炎を燃やす──いや、物理的に。

 髪も瞳も、燃えるような赤色と化した。
 その手に握るのは俺と同様大剣、ただしこちらは聖なるエネルギーによって火を燈す、聖剣としてではあるが。


「──『天熱の剣使』。ええ、いいでしょうとも。そこまで言うのであれば、こちらとて本気で挑ませてもらいましょうか」

「はっ、掛かってこいよ──お嬢ちゃん」

「死ね」


 煽り耐性が俺並みに低いナシェクは、これまた炎の翼をはためかせて飛んでくる。
 俺はそれを真っ向……からは無理なので、軽く大剣にノックしてから跳躍。

 すると、俺の背に生える悪魔の翼。
 向こうの想定以上に飛距離を伸ばし、とりあえず斬撃を凌ぐ。

 気紛れな悪魔はこれ以上何もせず、代わりになぜか高まる魔武具内のエネルギー。
 殺す気満々の量なので、俺の方で操り余剰分を非殺傷用コーティング剤として使う。


「どうしたのですか。まさか、打ち合わないのですか?」

「物理的に闘志を燃やしている相手と、剣戟なんてできるか! ──“耐性強化ブーストレジスト”」


 俺の持つ無数の耐性スキルの効果を、魔法によって一時的に強化。
 支援系の魔法も多く使っていたお陰で、強化魔法を習得していたのだ。

 先ほどの魔力供給からも分かる通り、俺はそれが可能なぐらいに縛りを外している。
 どうせ魔武具を使いこなすためには、代償となる魔力がたっぷり要るからな。

 身力操作で身体能力を満遍なく強化し、腕輪が嵌っていない腕に魔術デバイスを装着。
 さらに大剣へ魔力を注ぎ込み、代理で魔法の行使を強要する。


「──“上位悪魔召喚サモン・グレーター・デーモン”!」

「愚かな──『天嵐の弓使』」


 炎の大剣を消失させると、その手に嵐を渦巻かせる大弓を顕現させた。
 それと同時に、燃えるようなナシェクのカラーリングが薄緑色に変化していく。


「チッ、早くやれ!」

「遅い……死になさい」


 無数の悪魔たちがナシェクを襲うよりも早く、撓んだ弓に注がれた力が解放される。
 聖なるエネルギーを帯びた風が、矢の形となって悪魔たちを穿つ。

 そして、その余剰分が俺の下へ──


「──『失絡の硬貨』」


 届く寸前、大剣が硬貨のようなデザインが刻まれた巨大な円盤に防がれる。
 魔力によって増えたコイン、それらは矢がぶつかると今度はナシェクの下へ向かう。

 カウンター機能搭載されているおり、速度もレールガンのようになぜか電磁加速付き。
 雷を帯びた硬貨の到来に、ナシェクは弓を大盾に切り替えて防御を行う。


「──『天岩の盾使』」

「……何種類あるんだよ、六種類か?」

「不正解です。それらも含め、貴方にたっぷりと教え込みましょう」


 赤、緑と来て今度は黄土色。
 ここまで来れば何となく分かる、自在に属性と武器種を変えて担い手をサポートする。

 それこそが聖具ナシェク……いや、聖武具・・・ナシェケエル・・・・・・としての力なのだろう。



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