AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とオススメ紹介 中篇
案内されたその部屋には、なんというか聖なる空気が充満していた。
部屋が教会とか神聖な場所……というよりも、清浄化されてそうなっているのだろう。
前にディーを見た部屋もそうだったが、Z商会は特定の商品のみの部屋が存在する。
今回の部屋もそう、入ってすぐに視界に収まった唯一の品が今回見せられる物だった。
「アレこそが、かつて聖人がその手にしていたとされる聖具『ナシェク』。複数の形状が存在し、そのすべてで存在した天使の権威を振るえるとされております」
「……」
「おや、お気に召しませんでしたか?」
「ううん、この姿の僕には充分過ぎるくらいだよ。でも、どうやって会頭さんはこれを見つけたの?」
感じる波動からして、うちの聖武具っ娘には劣るが間違いなく聖具ではある。
だがまあ、そんな代物は教会の本堂やら総本山にでも崇め奉られているはずだ。
それをかっぱらってきたというのであるなら、それはそれで問題である。
もちろん、そんなことは無いと思う……のだが、営業スマイルが一際強まった。
「…………」
「あ、あの……」
「では、さっそく入りましょうか」
「Zさん、これ大丈夫なんですか!?」
謂われを理解しているのは、それに特化したスキルがあるからかもしれない。
だがそれ以上に、存在した現場や置かれていた組織から情報を得た可能性もある。
非常に心配だ、もしかしたらどこかの宗教団体と揉めているのかもしれない。
しかし、それとは別に気になるのもまた事実……うん、気にしないでおきましょう。
「…………」
「あ、あの……」
「はい、どうかされましたか?」
「えっと、どうして入らないんですか?」
さて、ようやく入室……といったタイミングで、微動だにしないZ。
意味は分かる、ディーのときもそうして見守っていた。
だがしかし、なぜディーの時と同じ対応なのか……ここが問題である。
うん、つまり宗教団体とはまた別に揉め事があるかもしれないわけだ。
「ご安心を。一定距離まで近づかない場合、我々の構築した結界によって防ぐことができますので」
「……具体的には?」
「他の方々の場合、聖具を使わせたい者に触れさせておりましたね。残念ながら、適合者は居りませんでしたが」
「つまり、触れなければ大丈夫なんですね」
うん、信じないぞ。
今の俺にできることは少ないが、それでもこれまでの縛りで得たスキル(とそれを封印して得られるスキル)を駆使しよう。
◆ □ ◆ □ ◆
近づけば近づくほど、その聖なる力を強く感じられる。
宗教的にも、知られれば聖遺物的な扱いをされるのは間違いなしだろう。
結界がカバーしてくれる限界距離まで近づいてから、再度自分の状況を確認する。
定番の聖耐性、そして属性適性・聖というスキルをレンタルしての挑戦だ。
聖具というだけあるので、前者を本命として、後者をおまけで借りている。
実際、聖耐性の方は熟練度が近づけば近づくほど激上がり状態だ。
「よし、行く──」
《近づかないことです》
「! い、いったいどこから……」
《これ以上近づけば敵と見做し、強制的に排除します。私に触れていいのは、あの娘だけですから》
分からないふりをしてはみたが、当然念話の主は聖具ご本人ならぬご本体。
内容から察するに、本来の担い手以外を拒絶しているのだろう。
「……このままなら、話を聞いてもらえますか? 貴方はいったい、何者ですか?」
《私の名は『ナシェク』。神より聖人に授けられた、聖具そのものです》
「ナシェク様。その聖人様とは、どのような御方なのですか?」
《……話せません。以後、神と聖人に関する問いはしないことですね》
後ろをチラリと確認するが、Zはただニコニコしているだけ。
……すでに会頭が聞いたあとか、じゃあこれぐらいは確認しておこう。
「どうしてナシェク様はこちらに? どこかの場所に奉納されていたのですか?」
《……忌々しいあの娘。自分は商人などとふざけたことを言う輩によって、強制的に連れ出されたのです!!》
「も、もしかして、そこでは何かの信仰が行われていたのですか?」
《……いいえ。信仰に関する話も禁じます》
うーん、分かったことは二つ。
さまざまな制約を以って、聖具が封印されていたこと。
そして、会頭が女性だということだ。
聖具の年齢感覚が分からないので、言った通りの娘かどうかは不明ではあるが。
ともあれ、やっぱり会いたくないなぁという感覚がより強まった。
なんてことを考えていると、何やら聖具から念話が送られてくる。
《──貴方、少しその結界から手を出してみなさい》
「はい……こう、ですか?」
《……微弱ではありますが、なるほど。適性はあるようですね。そして、罪にも染まっていない……徳を積めていないのは減点ではありますが、それは今からどうにかすればいいでしょう》
「あ、あの……どういう意味で」
それを問うのが遅かったのだろう。
聖具が目を覆うほどの光を生み出し、俺たちの視界を奪った。
その中で、俺は不思議な感触を覚えた。
まるで何かと繋がったような……ちょうど武具っ娘たちを振るっていた時の感覚に、少し不快感を混ぜたようなもの。
『──改めて。私の名は『ナシェク』、担い手にして友である聖人を追う者。貴方に力を与えましょう、その代わり、貴方には──』
「え? やりませんよ。だから、さっさと離れてください」
『…………はっ?』
「…………えっ?」
いつの間にか強制装備されていた、天使の羽を模した腕輪に返答する。
聖なるアイテムのはずなのに……これじゃあ、呪いのアイテムだな。
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