AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と橙色の謀略 その10



『……『勇者』、『賢者』、『守護者』。すでに三つを確保していたのか』

「そして今回、『魔王』もな。とはいえ、仮に試練へ挑むのであれば、見つけた持ち主とちゃんと交渉しないといけないけどな。そこら辺はまあ、今の時代の連中で話し合ってもらうけどな」


 これまでここに来てやったことを話せば、初代魔王はやや驚いた声を上げる。
 それらの『装華』の存在を知っていることに、俺もまた少し驚いた。


『なんだその顔は……そうか、今の者たちは知らないのだな。かつて、『装華』が無い頃からそれらの役割はあった。しかし、それらが形を変えて残っている、ただそれだけの話なのだ』

「そうなのか? じゃあお前は、もともとは『魔王』の力を『装華』無しで使うことができていたってことなのか」

『…………いや、当時の我は『魔王』では無かった。花による地上征服が行われた際、最後の『魔王』が亡くなった。そして、新たに『魔王』となったのが我だったのだ』


 役割としての、おそらく赤色の世界と同じ形式の『選ばれし者』はもういない。
 花に理を奪われ、正しく世界が運用されなくなったために、力が使えなくなったのだ。

 代わりに生まれたのが、『種思』を発芽させて『装華』を身に纏う新たな世代。
 ──と偽り、世界に欺瞞を施すことで成立させた新たな『選ばれし者』たち。

 彼(女)らの『装華』だけ他と異なっているように思えたのは、そういう理由だろう。
 元よりそう見せるだけで、中身は別物……意思ではなく遺志で咲いた華だったのだ。


「なるほどな。前と後、両方を知っているからこそか……やっぱり、まだ殺すのはもったいないだろう。それで、俺の話には乗ってくれるのか?」

『──そこまでのことをして、貴様はいったい何を望む?』

「すべてを繋ぎ、至るだけだ。こんな仕組みができた理由は偉大なる女神様のお陰らしいからな……ぶっ潰して、世界を作り替える」

『世界を……ハハッ。なるほどな、そこまでデカいことを狙っているのであれば、それだけの戦力があるのも当然か』


 笑うもすぐに冷静に戻され、その思考でこちらの意図を汲み取った。
 会ったばかりの狂王然とした振る舞いはどこかに消え、初代魔王は静かに話す。


『──世界を開くまでだ』

「仮契約って、ことか?」

『それまでの間、我が保有する知識でも何でもくれてやる。戦闘面でも、補助ぐらいはできるだろう。だから見せてみろ、世界を渡ってまでやろうとする意志とやらを』

「はっ、そりゃあいい。なら、俺もできることをやってやる。扉の下に全員集めて、いずれはこの世界から他の世界へ行けるようにしてやるよ」


 まだまだ隠し事もあるだろうが、それでも便利な知識源を得られた。
 それ以外にも使い道はあるし、有用に活かしてやろうじゃないか。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 重要な案件ができたということで、魔王とシュリュの待つ謁見の間に戻ってきた。
 やることはただシュリュの後ろに居るだけなのだが、彼女的にはそれでいいらしい。


「──サフランワーより、会談に関する話は出ていた。しかし、君たちが何故それを知っている?」

「この程度のこと、知ろうと思えばすぐにでも知れるわ。それよりも、アスタリペはどう出るのだ?」

「……これまで魔族はそういった会談には参加していなかった。ですが、僕はこれからの魔族に交流は必須だと考えています」

「ふむ、その言い回し……簡単には成し得ぬことというわけか」


 シュリュの問いに、首を縦に振る魔王。
 まあ、実力主義を自身も掲げさせられていたのだから、それを訂正しようにも面倒な手続きが要るのだろう。

 もともとは帝王として、竜族たちを統率していたのがシュリュの生前。
 その経験を基に、まだ王として足りていない魔王といろいろ話し合ったと思われる。

 食客として、これ以上無いくらいにちゃんと仕事をこなしているシュリュ。
 だからこそ、周囲の四天王も彼女の意見に異議を申し立てたりしないのだろう。


「はい。これまで通り、魔族だけでも生きていけるという主張は、決して間違ってはいません。それでも、少しずつ『花』の脅威度は増している……やがて限界は訪れます」

「そうか…………ならば話は速い。今は、まだ実力主義なのだろう? 郷に入っては郷に従え、つまりはそういうことだ」

「やはり、それしかありませんか」

「──選挙、いや戦挙と呼ぶべきか。主張があるのであれば、その場ですべて吐かせてしまえ。単に力で捻じ伏せるのではなく、正しく聞き入れ、そのうえで潰す。そこで意見をすべて通すのだな」


 シュリュの進んできた道は、覇の理によって成されてきた修羅の道。
 なので、ある意味このやり方しかできないとも言える……『交渉(物理)』である。


「というわけでな。まずは、そこの不服そうな二人の四天王。これまでの地位を壊されるのが不満なのであれば、魔王か朕、どちらかに挑むが良い」

『──ッ!』

「勝てば貴様らのどちらかが魔王だ、その意もまた容易く通ろう。無論、そうなれば朕も動くわけだがな。さぁ、どうする?」


 すでに力比べは済んでいる。
 少なくとも、真っ向から挑もうと彼女に勝つことはできない。

 誰も逆らうことはできない、故にこの意見はあっさりと通った。
 ……問題はこれから、魔族たちが受け入れるかどうかだな。



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