AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と橙色の謀略 その02



 華都 アスタリペ


 なんとも面白い華都である。
 ここアスタリペはこれまでの華都と違い、花そのものが傾いているのだ。

 どういうことかと言うと…………俺にも旨い説明ができないのだが、たぶんそういう品種だったのだろう。

 雄蕊や雌蕊といった重要な区画は、ひっくり返って斜めになっている。
 そのため、人々が過ごすのは裏側、中央に近い各花弁の反対部分に街が築かれていた。


「──魔族の国か。そういえば、俺は自由世界じゃまだ魔族に接触はしていても、国には行ったことが無かったな」

《そうであったか。同朋であれば、すでに征服しているものかと》

「……なんでだよ。まあ、別大陸ならいちおう、魔族? というか魔物ならぬ魔者の国を陥落させてはいるけど」

《さすがは我が同朋であるぞ!》


 シュリュは情報収集に忙しいため、俺は武具っ娘と話をして気を紛らわせる。
 お察しの通り、今回は【傲慢】の魔武具っ娘であるゴーといっしょだ。


「しかしまあ、いきなり現れたどこの馬の骨とも分からない輩を、初っ端から中枢区画に招き入れる理由……俺には思い浮かばん」

《ふむ、我が思うに、陰謀があるのでは? ここは魔族の都、伏魔殿パンデモニウム……相応の歓待が行われても不思議では無かろう》

「……考えすぎじゃないか? まあでも、想定はどれだけしておいても問題ないか。それにしても、俺たちはいつまで待たされればいいのやら」

《向こうはお主が自滅することを望んでいるのでは? ここは実力主義、失敗すれば首も飛ぶだろう。シュリュが止める間もなく、また庇うこともできないような責を背負ってしまえば……大義名分を得たも同然》
 

 ゴーの考えはいわゆる『お約束テンプレ』。
 俺だけで考えていれば、荒唐無稽だろうとすぐに捨ててしまうような主張だが……改めて言われると、その可能性は高い。

 だが、今の俺は自分で言うのもアレなのだが──シュリュの逆鱗のようなもの。
 簡単に手を出して、ロクでもない結果を招くつもりなのだろうか。


「シュリュ、ブチギレるぞ」

《向こうもそれを織り込んでいるのだろう。関係性は、ここに来るまでに把握している。そうして、目論見通りに何かを仕掛ける……不思議ではあるまい》

「な、なるほど……」

《下手な真似をする必要はあるまい。同朋が何もせずとも、事は進んでいく。今は座して待ち、ときが訪れるのを待とう…………うむ、なかなかわれ・・的にイイ台詞だな!》


 途中まではイイ感じだったのだが、最後でやや残念になってしまうゴー。
 しかしまあ、俺的には満点だったので何も言わないでおこう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 中枢区画 魔王城


 いつの世も、偉い人は他の者たちよりも高位の場所を求めている。
 最上階、最高級、そういったステータスが彼らの身分証明なのかもしれない。

 そして、魔王には相応の城が求められる。
 シュリュと共に案内されたそこは、ひっくり返った花の雌蕊に当たる場所だった。


「シ、シュリュ様……あの、あちらの皆さんがボロボロなのはいったい……」

「其方のことを『奴隷』、『荷役』と貶すのでな。少しばかり、教育をしてやったのよ」


 さて、そんな場所への道案内は、誉れある探索部隊の精鋭……だったのかな。
 武器も防具も破壊され、本人も顔が腫れているのが現状だ。

 俺をバカにされて怒ってくれる、それ自体は嬉しいんだが……やり過ぎである。
 そもそも、そういう風に演じているんだからお門違いにも程があった。


「や、やり過ぎでは?」

「……そうか。ではメルス、癒してやれ」

「分かりました──『癒療ユリョウ』」


 というわけで、俺が治療することに。
 この世界特有のシステムである『装華』によって、人々は魔力を魔術へと変換することができる。

 俺もまた、それに則って自身の──ではなく模造品の『装華』を使って魔術を起動。
 魔力を装置が濾過し、純属性の魔力へと変換することで人族でも魔術が使用できる。

 籠めた魔力は温かな光となり、傷ついた魔族のダメージを癒していく。
 光が細胞の治癒能力に働きかけ、通常以上に回復しやすくしているのだ。


「これは……治癒魔術!?」

「俺は戦闘の方はあまりです。ですが、シュリュ様の御傍に居ることを認められているのはこの力のお陰です」

「何を言うか。朕が其方を侍らせるのは、そのような力の有無ではない。誇れ、朕にとって其方は必要な存在なのだ」

「あ、ありがとうございます、シュリュ様」


 演技の合間に、こっそり本音を出している気がするんですけど。
 お陰でただでさえ下手な演技が、もっとあからさまになったじゃないか。


「……これまでの数々の非礼、大変申し訳ございませんでした。探索部隊の隊長として、代表して申し上げます」

「あ、謝らないでくださ──もごっ!?」

「次は無いと思え。この者に手を出すということはすなわち、朕の逆鱗に触れることと同意と思え」

『はっ!』


 ……この前、俺に平気で逆鱗を触らせようとしてきた奴の台詞なんだろうか?
 しかし、この空気でそう言いだす気にもならないし……我慢である。


「では、魔王とやらの下へ案内せい」

「畏まりました──こちらへ」

「うむ」

「は、はい!」


 そうして俺たちは、『魔王』の待つ謁見の間に向かうのだった。



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