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山田 武

偽善者と弟子特訓 その09



 アルカの持つ杖──[オル・マジク]。
 正式名を『魔創杖[オル・マジク]』と言い、いかにも魔法特化といった雰囲気を醸し出している。

 名に違わぬだけの性能を誇り、祈念者随一の魔法使いたるアルカのためだけに存在していると言っても過言ではない。

 彼女の望むままに、彼女が必要とする要素のみで構成された文字通り魔法の杖。
 常人では使うことすらできない、担い手であるアルカと共に成長する逸品である。


「けどまあ、敵になるからな……しかも凄い頻度で。あーあ、もうやだー」

「師匠、早く早く!」

「了解っと──『圧縮支援』」
《──“射程拡張アウトレンジ迅加変速ギアヘイスト身力欺瞞パワーチャフ操力指導ガイドライン高速短縮テンポアップ持久走者ランナーズハイ武装破壊アームブレイク命中補正ポントヒット強撃溜込アサルトチャージ防護纏装プロテクトコート不可干渉アンタッチャブル均一調整バランスアジャスト感覚鋭敏センス・アラートネス演算処理カルクプロセス限界突破ブレイクスルー回癒補助サポートキュア並列思考アクセルシンク・パラレル”》

「す、凄い……師匠、これなら!」

「…………いや、無理だろ。並大抵の相手ならともかく、アルカだし」


 言語機能を弄り、[魂源告訴]スキルで行った意味圧縮。
 詠唱した際と同等の効果で支援を施せるのだが……その程度、アルカには及ばない。

 彼女はただ杖を突いただけ。
 それだけで、俺がユウに行ったような大量のバフ乗せを瞬時に行った。

 仕組みは単純、杖の持つスキルが魔法に限りすべてのキャストタイムを0にする。
 準備要らずな魔法を、思念だけで統制して支配する──それが【賢者】アルカだ。


「なあ、ユウ。俺ってば、とんでもない化け物誕生に手を貸してないか?」

「大丈夫、師匠の方がイカれてるから!」

「……遠慮しないな、お前は。まあいいや、そこは否定しない。だからこそ、俺はこうしているわけだし──来い、『模宝玉ギー』」


 名を呼ぶと、隔てられた次元の壁すら突き破り現れる俺の武具。
 ありとあらゆる力を模倣する、そんな水晶玉を掴みイメージを注ぐ。


「“完全再現”──[ドラゴンレイ]」


 ボスモンスターがドロップした双剣。
 ギーはそれらに分裂してから変化し、俺の手の中に納まる。

 オリジナルではなくギーを使う利点。
 それはどんな武器でも神器となり、通常の方法では破壊することができなくなること。

 そして、神器ゆえの性能の高さが、本物よりも武器そのものの性能を高める点。
 事実、地面に刺すと身力の回復が行えるのだが、オリジナルよりもその効能は高い。


「ユウは前に出て時間稼ぎを。俺は……っとと、なんとかして準備を終わらせる」

「気を付けてよ、師匠!」

「分かってる。まったく、不意打ちなんて卑怯じゃないか?」

「──勝てばいいのよ、勝てば。正々堂々と戦ってほしいなら、まず一度負けてから言いなさいよ」


 地脈からエネルギーを吸い上げていた俺に対し、アルカはその地脈へ干渉──中止が遅れていたら、エネルギーが暴発して酷い目に遭うところだったよ。

 アルカ当人は、近づいてくるユウを牽制しながら魔法を発動し続けている。
 魔力が持つか? と思う貴方、技術的にもシステム的にも異様なほど彼女は上手い。

 身力操作はもちろんのこと、魔力は放出後に循環させて再使用までしている。
 また、【賢者】の魔法創造でそれらを一つのプログラムとして常用していた。

 魔法発動→魔力放出→外部回収→精錬加工といった流れを魔法だけで済ませている。
 その結果何が起こるか……十の魔力を使おうと、九ぐらいは還元されるのだ。


「これでまだ、【憤怒】を未使用とか……どこまで強くなるんだか」

「決まってるじゃない、アンタを倒すまで」

「……ははっ、こりゃずいぶんとまあ嫌われたもんだな。なら、俺だってやってやる──“完全再現:魔弾連鎖無限砲台”」

「っ……厄介ね」

「そりゃこっちの台詞セリフだよ。いつからだ──魔導を得たのは?」


 魔導、限られた者にしか使うことのできない魔力による理不尽。
 その者の資質に合わせ、千差万別の効果を発揮する。

 ただし、『すべ』でも『のり』でもなく、ただ強引に魔を『みちびく』だけの所業……完成にまで辿り着くことはめったにない。

 そのはずだが、アルカはたしかにやった。
 俺が使った“魔弾連鎖無限砲台”とは、彼女から模倣した魔導なのだから。


「それ、言う必要ある?」

「知りたいけどな……まあ、後でいいか」

「ええ、そうよ。せっかくだし、教えてあげるわよ。ただし──私が勝ったらね!」

「定番だな……ユウ!」


 共に行動していたユウにすら、隠していたであろう切り札。
 それが露見したことで、意図して隠す必要も失われた。

 彼女の杖が発動準備キャストタイムを0にするなら、起動していた魔導は待機時間クールタイムを0にする。

 つまり、どれだけ凶悪な魔法でも瞬時に発動できるし、すぐに再使用可能と化す。
 最上位魔法を連発し、そこに混ぜられる彼女オリジナルの魔法の数々。

 それらをユウがたった独りで捌く。
 俺はただ後ろでそれを眺め、準備を整えることに徹する。


「いつまで待たせるのかしら?」

「師匠、早くしてよ!」

「ユウも頑張ってるし、割と長持ちしそうだからいいかなぁって」

「結構限界なんだよ!!」


 当然アルカからの妨害も入るが、そこはユウが駆けつけてすべて防御していく。
 俺も庇ったうえで自分も守るため、少しずつダメージが蓄積されてしまう。

 アルカの魔導を使っている以上、俺も一時的にすべての魔法がすぐに使える。
 回復系の魔法を、体が受け付けなくならないよう気を付けながら施し続けていく。

 俺もアルカも、まだ隠している札があり、それを最後まで隠し通そうとしている。
 ユウには悪いが、アルカがそれを使うまでは……もうしばらくこのままだな。



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