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山田 武

偽善者と弟子特訓 その08



 第四世界 狂者の巣窟


 前に会ったとき、彼女たちは【傲慢】を模した迷宮に居た。
 それは彼女たちの片方に貸し与えられたスキルが、【傲慢】だったからだろう。

 今回はもう一人が与えられた方、すなわち【憤怒】の迷宮に来ているようだ。
 大きく道が開けた巨大な洞窟を進むと、奥の方で爆発が起きる。


「……絶対居るな、あそこに」


 ここのイメージは『想いのぶつけ合い』、つまり思想の討論ならぬ闘論だ。
 意思が強ければ意志となり、意思が弱ければ遺志となる……残酷だよな。

 だがそれこそが、【憤怒】の根幹とも言えよう。
 他を捻じ伏せるほどの強い意志、それは他のどの{感情}よりもソレを必要としている。


「だからこそ、向いているんだよな……アイツにはそれが」

「あっ、師匠! ……なんでここに?」

「まだ連絡は来てなかったか。今、弟子を見に行くキャンペーン中でな。ユウと、ついでにアッチも見に来た」

「そういうことかぁ……でも、今はあんなだから無理だと思うよ」


 ユウは弟子を名乗っているが、彼女──アルカは弟子ではなく仇敵を討つ復讐者ライバルみたいになっているからな。

 助言は聞き入れてくれるが、すべては俺を倒すため。
 並大抵の者なら、彼女の執念を前にあっさりと倒されるんだけどな。

 ……話がこじれたのはひとえに、俺が全然死なずに粘っているからだろう。


「じゃあ、ユウからでいいか。とりあえず、確認したいことが──」

「…………むぅ」

「その、いかにも不満ですって態度。いや悪かったよ、からでいいとか言っちゃって。ユウがいいです、ユウじゃないと嫌ですよ」

「ハァ……もういいよ。それより、何を確認したいのかな?」


 自分から不服を無言で申し立てたのに、妙に演技っぽい振る舞いをするユウ。
 まあ、ある意味俺の言ったことは本音ではある……アルカと先に絡むのは面倒だし。


「身力の操作技術だな。感知と制御、両方できるよな?」

「うん、と言うより『ユニーク』の初期メンバーはほとんどの人が、『エニアグラム』は全員出来るよ」

「……えっ、マジで?」

「うん、マジで」


 スキルを使わない身力操作は、自由民でも体得している者はそう多くない。
 感じ取る、制御する、操るといった感覚的なものを自在に扱えないのだ。

 なのに、『ユニーク』のメンバーはともかく、まさか『エニアグラム』こと祈念者眷属の全員ができるようになっているとは。

 あの三人組(暗殺者×2・厨二)は知られていないので対象外だろうが、それでも確実に八人は使えるわけで……凄いな。


「他に聞きたいことは?」

「……手の掛からない弟子で助かるよ。じゃあ丹力の方はどうだ?」

「うーん、そっちは人それぞれだね。僕とかシャインとかはもう使えるんだけど、基本的に他の人はファンタジー種族だから」

「魔法を使える時点で、普人族もそうだけどな。でも確かに、体得難易度は亜人族の方が高いんだよな」


 子供たちを通わせている学校で、調査をしたので間違いないはず。
 丹力はいわゆる亜人族の方が、性能が特殊な分扱いづらいのだ。


「……ちなみにだが、アルカは?」

「いちおう使えるみたいだけど、魔法だけ使うなら魔力だけの方がいいみたい。混ぜるよりむしろ、魔力を精錬することを頑張ってるみたいだよ」

「それはそれで怖いな……できないとやらないは違うからな。なんかこう、追い詰められたら自爆とかに使ってきそう」

「あー、たしかにありそうだね。アルカって負けず嫌いだし、プライドよりも勝利を優先するからね」


 あるあるトークで盛り上がる俺たち。
 だからこそ気づかなかった、いつの間にか爆発音が収まっていることに。


「──ずいぶんと楽しそうね、二人とも」

『…………』

「私も混ぜてもらえるかしら? えっと……何の話をしていたのか、とりあえず教えてもらえる?」

「…………(スッ)」
「…………(ガシッ)」


 逃走を図ろうとするユウを、俺は逃がさんとばかりに掴む。
 妙に抵抗するのは、間違いなくこの先の展開が見えているからだろう。

 アルカは笑みを浮かべているが、それが間違いなくアルカイックスマイルであることは間違いな──危なっ!?

 突然飛んできた魔法に驚き、回避を優先。
 掴んでいた手が解かれ、ユウは即座に逃走し……ようとしたが、アルカが発動した魔法によって阻まれる。


「なんだか、妙に腹が立ったわ……とりあえず二人とも、的になってもらえる?」

「り、理不尽な! ふざけるな、俺は部屋に帰らせてもらう!」
「ぼ、僕は関係ないよね!? 無実だよ、弁護士を呼んでくれ!」

「……仲が良さそうで何よりだわ。死亡フラグを自分たちで立ててくれたみたいだし、お望み通りに殺してあげるわ」

「いやー、助けて! 殺されるー!」
「酷いよアルカ! 僕たち友達でしょ!?」


 ユウ……情に訴えかけても無駄なの、お前が一番よく知ってるだろ。
 俺の予想通り、彼女は変わらぬ笑みのまま杖を構える。

 ああうん、[オル・マジク]じゃん。
 彼女と共に成長する杖は、今なお可能性を秘めている……これを使うときの彼女は、全力全開で魔法をぶっ放してくる。

 ユウもこれを見て察したようだ。
 理由はともかく、今回は自分も普段見慣れた死闘に巻き込まれたのだと。


「……ユウ、こうなったら共闘だ」
「ぐ、具体的にどうするの?」
「どうせ何をしてもバレるから、目的だけ決めるぞ」

「いつまで待たせるの? それが作戦なら、もう始めてもいいわよね」

「──ってわけだ、成功させるぞ!」
「分かった!」


 野生の生物も、圧倒的強者を前に弱者は協力して生存を図る。
 アルカを前に俺たちも、同じ選択肢を取るしか無かった……なんとしても生き残るぞ!



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