AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と大規模レイド直後 その15
時刻はすでに夜。
宴もシメの時間……というか、ほとんどの祈念者が[ログアウト]をしている。
単純に、一定時間[ログイン]し続けた弊害なのだろう。
ずっと来ていると、ペナルティを受けてしまうのでその前に戻るのだ。
俺はそういうしがらみから解き放たれているので、気にせず楽しんでいる。
自由民たちもまた、彼らなりに平穏が守られたことを祝い宴を行っていた。
そんな街並みを見ながら、俺はアンに運ばれている。
……交渉の末、車椅子に乗ることが許されたからだ。
「改めまして、クエスト達成おめでとうございます。今回もまた、眷属の貢献分もポイントが得られるはずですので、多くの報酬を得られるかと」
「だろうな。しかし……いったいどうすればいいのやら。なんせ、もうGM姉妹たち全員と会っているんだしな」
これまでイベント報酬で得たポイントは、すべて彼女たちと接触するために使っていたのだが……すでに全員と接触し、いつでも会えるようにした以上、それは不要となった。
燃え尽きた感覚、何でもやり遂げるとそれが無くなったときに喪失感が生まれる。
すぐに切り替えることもできず、これからどうしようかと頭を悩ませてしまう。
「困ったときのアン頼み、ということでよろしいでしょうか?」
「……自分で言うか、それ?」
「お嫌いですか?」
いいえ、最高に可愛いです。
俺の趣味嗜好を完全に詳らかにできる彼女なので、こういう勝負をされると速攻で負けてしまう。
とはいえ、数日も経たずに集計が終了して選択を迫られるだろう。
そうなればやはり、アンや他の眷属たちの意見が重要となるはず。
「お任せください。全眷属を代表、必ずや回答をご用意いたします」
「……アンが代表者なのか?」
「何かご不満でも?」
「それは無いぞ。ただ、任せっきりは思うところがあるからな。けど、褒美とかそういうのはアレだし……そもそもこれがそうだって意見がチラホラ出ているぞ」
各地で俺たちのやり取りを聞いている眷属たちが、そんな非難の声を上げていた。
たとえ俺を近い場所で支えてくれたアンでも、大目に見てもらえないこともある。
今回もまた、そういうことだったのか。
まあ、この辺りは眷属同士でなんとかしてもらわないと……俺が介入すると、余計に事態がややこしくなるからな。
「ポイントに関しては、またそのときに考えればいいだろう。それよりほら、どこかいい場所に案内してくれるか?」
「……ホテルでしょうか?」
「何を言いたいのか分からんが、それは無しで。普通に夢現空間の方が居心地いいし」
「それはもちろん、全眷属がそう思うことでしょう。ですが、この場合満たされるのは、心ではなく体ですので」
「……って、そういうことかよ。行きませんよ、そういう場所には。ほら、ちゃんと別の場所に案内してくれ」
そう伝えると、進路を変えてまたどこかへと向かっていく。
うん、これ言わなかったら本当に連れ込まれていたパターンかも。
◆ □ ◆ □ ◆
道中、俺たちは言葉を交わし続ける。
長い道のりはそれだけ、互いの意見を深めていく。
「──メルス様は、自身の評価が過少です」
「そうか? 俺って実際に凡人だし、大したことなんてできていないと思うが?」
「人に役割が与えられている、そんな言葉はまやかしです。最終的にそれを選ぶのは、その人自身。そう見えないのは、それまでの軌跡が選択権を与えていないからです」
「……つまりなんだ、本当にやりたいならバカでもアホでも行動しろってことか?」
「その通りです。この世界において、メルス様はさまざまな行動を取っています。それによって救われた者、逆に失敗した者など居るでしょうが……それもまた、力及ばず自由な選択をできなかったが故の結果ですので」
「うーん、力及ばずねぇ。まあたしかに、実際の俺だったらそうなっていたか。どんなに高い理想があっても、それを実行するだけの力が無い。なるほどな、それが選択権を与えられていないってことか」
「……そうではありません。矛盾してるようですが、力が足らずとも選ぶことはできますよ。それこそが、これまでのメルス様が行い続けてきたことなのですから」
そう言い終えると、彼女は車椅子を停止させる。
つまり目的地なのだろう……そこは、俺も見覚えのある場所。
「──いや、噴水なんだが? えっ、わざわざ一周したかったの?」
「こここそが始まりの場所。紛れもなくメルス様は、こうして力を得る選択権を獲得されました」
「大神……あのリフィリング様のお陰だけどな。それだって、俺に選択じゃない」
「──選択権を与えられることもまた、その者の行動による結果です。強者に……自由な選択権を有する者に選ばれることもまた、立派な行いです。それはメルス様が、この世界で知ったことではありませんか?」
そう、俺はこの世界で与えられ、与えてきた……偽善者として。
忘れていたわけではない、ただ意識していなかっただけだ。
「……これ、何の話だっけ?」
「シリアスをぶち壊すようなボケですね。一定時期で自身の行動を不安がるメルス様ですので、先ほどのクラーレ様たちとの会話がそのトリガーになっていると予測しまして、予め伝えておこうかと」
「なるほどな……結論として、俺は間違っていたのか? 上から目線で、あんなことを言うヤツに──あの子たちはまた遊ぼうと、笑顔で声を掛けてくれるのかな?」
そして、言われて気づいた。
やはり俺の根幹はそこだ、彼女たちに求めているもの──身勝手で悪いが、それは癒しなのだろう。
あの関係に不満など無かった。
だが、彼女たちがそれを変えたいと思ったからこそ俺はあんなことを言った……だがその先、対応が変わることが怖くもある。
それが不安だった。
どれだけ力を有していても、最後にそれを選ぶのは彼女たちだ……俺に選択権などあるはずもない──自由は彼女たちの下にある。
「信じましょう、今はそれだけで充分かと」
「信じるって……何をだ?」
「彼女たちを、そして──これまでのメルス様を。何もしてこなかったわけではない。共に紡いできたものが、互いの望む方向へ導いてくれます。これまでわたしたちと、眷属たちとやってきたように」
「……凄いシリアスだな。ああ、これはアレだな。俺から好感度もカンストを超えて、さらに急上昇中だ」
そうボケると、アンも口角が緩まったような気がする。
そして再び車椅子を動かし、またどこかへ俺を連れていくのだった。
「──おい、ホテルの方向は無しだぞ」
「チッ……」
「あっ、今舌打ちしたな! 止めろ、方向を変えてくれぇぇぇええ!」
「少しお説教をしましょう。ええ、ちょうど他の眷属もお待ちしていますので」
……なんてこともあったのだが、それはまた別のお話で。
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