AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と大規模レイド直後 その09
俺の現状は至ってシンプル──噴水の縁でまったりとしている。
しかしまあ、周囲でカップル共がイチャコラしているのはなんというか……キツい。
こちら両腕を(自業自得で)失い、偽装していなければ痛々しいものを見る目で眺められそうな状態だというのに。
その傍で恋人を甘やかし、周囲に桃色の空気を散布する連中は何なのか。
アレだな、世界を守った意味があるのかと悟るダーク系の主人公みたいな心情だ。
《メルス様の行動に、そのような意味も意図も無かったのでは?》
「まあ、その通りだけどな……ただリュシルたちが威圧されたからキレた、それだけだ」
《威圧程度でそれでは、もし魅了系のスキルが使われた場合は──》
「ん? 殺す一択だろ」
理不尽とも自己中とも言われるだろうが、誰もが自分の都合で生きている。
偶然、ソイツの生き方が俺にとって邪魔でしか無かった……それだけの話だろう。
ソイツにとって、魅了スキルが簡単に女を得る手段であるように、俺にとっての眷属が手を出した相手を殺す意味が有るほどに価値がある存在だった……これに尽きるな。
「解釈一つで身内を大切にする人間、暴虐なる鏖殺公、自分に自信の無いカス野郎……いろいろと取り方はあるよな。でもまあ、なんとなく自分が人として狂っている気はする」
《メルス様の世界の倫理観に照らし合わせれば、一部の者は賛同しても、たしかに大衆としての意見は批判的なものでしょう》
「まあ、俺も第三者ならそう思うし、調査で訊かれたらそれっぽいことを言うだろうな」
《ですが、ご安心を。この世界であれば、基本的にだいたい合法ですので──殺っても問題ありません》
──全然問題があるんですけど?
たしかに魅了系のスキルはこちらでも、使い方次第であっさり犯罪認定である。
当然、一般人に使えばアウト──スキルを抹消したうえで重労働の刑に遭う。
俺の(亜空間の)世界でもそれは同じ、というかそれ以上に厳重な罰が課せられる。
だからこそ、初期を除けばそういった事件は一度として起きていないのだ。
「……で、何が言いたいんだ?」
《過剰であれ、それはメルス様の思いやりの発露です。束縛系でもありませんし、その力強さに好感度が上がる場合もありますよ?》
「急にそんなメタ的な……じゃああれか? さっきの自分で思い返すだけで痛くなるよな台詞で、好感度が上がるってか?」
《──はい。現在進行形で》
まさか、と意識を沈めてみると……繋がってたよ、さっきまでの会話が全眷属に。
おまけに一部の眷属からは、恥じやら照れのような想いが伝わってくる。
「アン……いつの間に」
《隠すことでもありませんので》
「……あとでお仕置きだからな」
《ええ、ぜひとも》
こっそり何かを仕込まれるというのが嫌いな俺だが、そういうことも言えなさそうな空気なので諦めた。
せめてもの反撃もあっさり返されるし、やはりアンには敵わない。
副意識が眷属への対応でヘルプコールを出してくるが……うん、俺も助けてほしいよ。
◆ □ ◆ □ ◆
噴水が夕日に染まっていく。
時刻もだいたい夕方、しかし喧騒は今なお増え続けている。
眷属たちが時々食べ物を持ってきて、俺に食べさせるという時間があるくらいだ。
その都度先ほどの話を持ち出され、脅されるのもパターン化されていたけど。
「──見つけたわよ」
「げっ……どうしてここに」
「げって何よ、げって……ただの勘よ」
「賢者様が勘に頼るなよ。まあいいや、それでなぜここに?」
さて、それなりに時間が経過すると、さすがに居場所がバレる。
いろんな魔法を使えるアルカは、そうして俺を特定して──隣に座った。
「どういう心境の変化だ?」
「……別にいいでしょ。今日ぐらい、勘弁してあげるわ」
「勘弁されるのかよ。はっ、ならそうさせてもらうか」
「……ふんっ」
眷属が買ってきてくれた料理の数々を、並べていく。
それをアルカに進めるのだが……まあ、彼女なら気づくよな。
今の俺はフーこと『反理の籠手』を腕から切り離し、別の方法で腕を再現していた。
そのうえで、周囲からは普通に腕が動いているように見せていたが……丸見えか。
「その腕、どうしたの?」
「ちょっと代償にな。回復魔法も効かないから、しばらくは眷属にお世話されることになりましたっと。けど、こうして──魔力の腕でも生やせばどうとでもなるから、不便にはならないぞ」
「……超高密度の魔力、でも魔法じゃない。面白い使い方ね」
「技術的には『塊魔』と言うらしい。魔力の効率が非常に悪いから、具現魔法でやった方がいいけど……普通は習得が難しいからな」
無属性魔法を極め、純属性と重力属性で物に重みを与えることができれば具現属性を習得できる……が、普通に属性魔法を極めるよりも難易度が高い。
とはいえ、すでにアルカは具現魔法も習得している。
それ以上に、特定の種族以外が習得しづらい魔法を除き、大半は習得しているな。
「その調子なら、【大賢者】もそのうち就けそうだよな……あー怖い、このままじゃいつか殺されそうだよ」
「なによ、本望でしょう? 次に会うときには、もう死ぬ覚悟をしときなさいよ」
「全然本望じゃないし、死にたくも無いんですけど……むしろ、アルカの成長を楽しむだけの機会にさせてくれよ」
「……まあ、期待していなさい」
今回は祭りに免じて、俺は殺されなくて済むようだ。
しかし、アルカによって俺の場所はバレてしまったし……ああうん、もう来ているな。
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