AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド直後 その05



 ──至高の斬撃、その追求。

 かつて、そしてこれからも振るうであろう彼女の剣技を想起した。
 イメージは形となり、生みだす事象の起点になり──結果となる。

 フーの力で因果が捻じ曲がっていることもあり、それ自体は容易い。
 過程が結果を生むのではなく、結果があるからこそ過程が追い付いてくる。

 ──気が付けば、『万蝕』の随所に斬撃が浴びせられていた。


『……いったい、何者だ』

「ただの偽善者」

『……断言しよう。貴様が魔物であったならば、必ず私は危険因子として葬っていたであろうと。そして、人族を裁く者もまた貴様に目を付けると』

「はっ、偽善の何が悪い? 俺は行いに悦を得て、行われる者は幸せを得る。善人が身の丈に合わない救済を与えようと望み、偽善者は己の牙城が崩れない程度に振る舞うだけ。身の程がよく分かっていると思わないか?」


 四肢を切り落としてなお、『万蝕』は無限の再生力で体を生やして戦っている。
 能力値的に、俺は触れられただけではじけるレベルの差がある……それでも技術は上。

 やはりなぞっているのがティルの剣技ということもあり、防御系のシステムすべてを無視して斬撃が効果を発揮している。

 まだ本気になろう、というレベルにならないのかと考えながら、再びイメージを行う。
 生えてきた足を切り落とす──だが、それは成らずに足は健在だった。


「っ……!」

『いつまでも好きにさせると思うか? 今の力でできる最大限、ちょうど剣を当てた場所にのみ力を注いで防いだ』

「……もし他の場所だったら?」

『…………。それよりも、宣言の履行が始まるぞ』


 そのとき、突如腕が消失する。
 しかもあのときに『片腕』と言わなかったせいか、一気に両方。

 当然、そんな隙があれば攻撃を仕掛けるわけであって──全身に強い衝撃を受け、俺は意識が一瞬弾けた。

 何かしらの能力があったのだろう。
 秘蔵していた絶対防御スキルも機能せず、衝撃を外部に漏らすこともないまま、体のすべてでダメージを受けることになった。

 ついでとばかりに脚も失っていた。
 全身へのダメージに加えて、狙い撃つように脚部まで喰らうとは……お陰で今の俺は、さながらダルマ状態だ。


「かはっ……!」

『殺す勢いでやったのだが、やはり死なぬようだな……本当に人族か? しかし、これはやはり……あの方の──』

「見ての、通りだよ──“受体反撃セルフカウンター”」

『っ……報復系の能力か。しかも、減衰なしの固定ダメージ。なんとも厄介な!』


 強化用の【傲慢】と【嫉妬】に対し、回復と反撃に使えるのが【憤怒】。
 かつて使った“湧き立つ衝動イクスエナジー”と違い、デメリットは攻撃を受けることそのもののみ。

 ただまあ、『万蝕』なりに加減はしていたようなので、大したダメージは届いてない。
 ここで全エネルギーを籠めていたなら、それなりに追い込めただろうに。

 傷ついた体を、予め宙に展開していたチーの矢が癒していく。
 ただし、一度にすべての矢を消耗するほどの致死ダメージだったようだが。

 それでも腕は生えてこない。
 脚は生えてくる辺り、誓約の効果だろう。
 わざわざ宣言した物が、そう簡単に生えてくるほど世の中都合はよくないのだ。

 だが、俺は諦めない。
 フーの籠手を直接腕に付け、意識するだけで手を動かせるようにする──足が生えなくなっても、同様にやるだけだ。


「それで、賭けはどうするんだ? まだ本気にはなってくれないと?」


 理解しているだろう、先ほどの交わしたのは口約束だがそれ以上に意味があるものと。
 複数の『力』から察したはず、契約の際に生じたものもまた同様だということを。


『……資格は満たされているな』

「おいおい、さすがに嫌だぞ」

『…………。そうだったな、あくまでも試練は己が意思で選ぶモノ。数百年、挑む者が居なくなっていたから忘れていた──永い時の中で、目を濁していたのは私だったか』

「急にそんなことやられても、全然感情移入できないから。ほら、速く答えろよ」


 獣の姿であるにも関わらず、器用にジト目でこちらを見てくる『万蝕』。
 だが、俺の態度は変わらない……暴風が起きるレベルの溜め息を吐いて──


『これ以上は本気で無いと止まらなくなりそうだ。ああ、この賭けは私の負けだ』


 そう、口にするのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 俺は今、物凄い光景を見ているのだろう。


「お久しぶりですね、『万蝕フルライラ』」

『貴様か……『還魂アイドロプラズム』。いつの間に、そんな生娘のような姿になったのだ?』

「需要に応えるべく、合わせただけですよ。幸い、参考になる方を何人か目にしていましたので」

『……そうか』


 巨大な獣と話す聖女……これだけでもう、童話みたいな感じなのだが。
 彼らは共に『超越種スペリオルシリーズ』、この世界でも最高峰の実力者たち。

 顔を合わせることなどめったにない。
 ……例外は、『覚成ニィナ』が修行のために時折『還魂』の下へ行くときぐらいだろう。

 そして、これもまたある意味例外だったのだろうか。
 少なくとも、彼らが顔を合わせる機会は数十年無かったと聞く。


『ところで……なぜアイドロプラズムがここに居る。あとで寄る予定ではあったが』

「メルス君に呼ばれたからです」

『……メルス君?』

「彼のことですよ。試練を果たし、私を貰い受けて主となった方です」


 このときの『万蝕』──フルライラの驚いた様子を、俺は[世界書館]を使わずとも思い出すことができるだろう。

 体からいろんな魔物の性質が飛び出したりして……面白いけど、怖かったです。



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