AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド後篇 その17



 スオーロは向かう、決戦の地へと。
 付き従うは人形とトランプの軍勢、長距離の転移魔法がほとんど使えない現状なので、数で圧し切り向かう予定なのだ。

 だからこそ、アリィたちの手駒を一部派遣している。
 キメラ種はスオーロが居なくなれば数も減るので、さして困らないからな。


「──まあ、そんなわけでいずれ来るとは思うぞ」

「なるほど……分かりました」

「着いたら六人集結で、なんか凄い展開になり勝利……みたいなことになるだろう。そうなったら、例の計画を実行しようか」


 すでにこの地に──二人の『勇者』、『聖女』、『英雄』、『魔王』候補が来ている。
 そして、『賢者』候補であるスオーロが来れば、何かが起きることは間違いない。

 数いる『選ばれし者』の中でも、色付きと仮称している重要な役割の担い手たち。
 特に強い注目を運営神たちから受けている彼らには、相応の力が備わっている。

 他にも『選ばれし者』は居るが、まあ成功率が上がる程度の話だろう。
 だが彼ら六人が居れば、いわゆるご都合主義を体現することが可能だ。


「うーん、最終決戦ともなればかなりの犠牲者が出るかな? ほら、イベントでわざわざモブを残す必要って無いし。リュシル、どう思う?」

「……言い方はアレですが、実力が伴なわなければそうなることもあり得ますね」

「ポーションはそれなりに用意してあるし、回復魔法も魔術もある。サポートもできるから、こっそり混ざることも可能だな」


 さらに言うなら、リュシルとマシューが参戦するだけで戦況は……というより、六人以外の生存確率は大幅に上がるだろう。

 母体への攻撃をせず、基本的に四足型、居なくなったら人型を攻撃する程度にしておけば、運営神もさして気づかないはず。

 なんてことを考えれば、戦場へ向かうことはおかしくないはず。
 他にもいくつか浮かんでいることはあるのだが、一番の理由はこれじゃない。


「何より──飽きたしな」

「……飽きた?」

「いやほら、俺って偽善が好きだろ? でも別に、暗躍が向いているわけでも裏方に徹するだけの演技力があるわけじゃない。頭を空にして、ただ動く……なんか、もういろいろと疲れてきてさ」


 うん、自分でも言っていることがだいぶ支離滅裂なのは分かっている。
 けど、誰でも一度は思うだろう──楽がしたい、美味しいところだけ欲しいと。

 しかも、このクエストが始まってから、俺は普段以上に真面目にやっていたと思う。
 ……第三者が見たらそうは思わずとも、少なくとも本人はそう思っています。

 主人公のような人格者なら、もっとまじめにできるだろうが……うん、もう限界。
 そろそろ狂戦士並みに、やりたい放題して楽しみたいです。

 ──なんてこと言えば、当然軽蔑の眼差しが向けられる世の常。

 だが、リュシルは……眷属は違う。
 それなりの期間、共に過ごして毎度のように思うこと──


「まったく……しょうがありませんね」

開発者ディベロッパー、予定の組み立てを始めましょう」

「そうですね。メルスさん、こちらも全力でサポートしますので。もう、好きなだけ暴れてみてください」

「……なんか、すみません」


 ──うちの人たちけんぞく、神対応過ぎる。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 子供が暗がりを駆け抜けた。
 そのことに気づいた獣たちは、牙を剥こうとする──が、抗う間もなく地に伏せる。

 メルスとしての姿を解除し、再び縛りプレイ時の姿であるノゾムとして動いた。
 その手には魔術で生み出した剣を握り締めて、ひたすら首だけを落としていく。


「ヒャッハー!」


 リュシルに支援魔法を施してもらい、こっそり隠れながら暗殺プレイ。
 堂々と目立つのはアレだと、二人から忠告されてのやり方だ。

 要するに俺は、溜め込んだ衝動を発散できるなら何でもよかったようで。
 キメラ種たちには悪いが、知られぬ間に悉く死んでいってもらおう。


「──“地人天卑ディスパイス・オブ・ミー”!」


 瞳の色を緑色に染め上げ、告げるその力は【嫉妬】の権能。
 嫉み、恨み、妬み、憎しみ……劣等感の総称とも呼べる【嫉妬】。

 今回使った“地人天卑”は、中でもレベル差に【嫉妬】した能力と言える。
 前に使った【傲慢】の“天人地尊”とは真逆、強者を潰すための力だ。


「このためにわざわざレベルもスキルも下げたんだから、楽しんでいかないと!」


 現在の俺のレベルは1。
 これまでに得た膨大な量の経験値をすべて捧げ、たった一つのスキルを得た。

 それとは別に、あるスキル以外を長時間封印することで、【嫉妬】の中でもこの能力だけを発動できるようにしている。


「──“限界突破”!」


 制限を外すこのスキル。
 本来ならば、肉体の限界を超えて動くための効果だが……今回はそのためではなく、文字通り制限を外すために使っている。

 このスキルは発動中、システム的にも一時的にカンストの概念を外す。
 表示的には『+α』とか『+EX』というような形で、擬似的にではあるが。

 これによって俺は、“地人天卑”の効果を十全に受けられるようになる。
 すなわち、レベル差による強化を最大限以上に──体が崩壊するレベルまで。


《絶対に無茶しちゃいけませんからね!》

《そのような傾向が確認された場合、即座に回収いたします》

《了解だよ、二人とも。でも、今の僕は何でもかんでも【嫉妬】しちゃうからね。できるだけ近づかないでよ》


 敵対する存在が自分より高レベルなら、一定時間ごとに能力値を減らす。
 そのうえで、減らした能力値をスキルレベルで計算した後に加算する。

 そして現在、限界突破スキルによってレベル1換算で行われるはずだった補正を、遥かに超えるレベルで能力値を増やしていた。

 武技も魔法も、武器生成以外は魔術だって使わない……純粋な暴力を用いて、誰が見ても暗殺とは思えない暗殺を始めるのだった。



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