AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と大規模レイド後篇 その07
そんなこんなで、今度は帝国から昏き冷洞までの旅路だ。
ただし、移動手段を考えなければならないので──ポイントに頼ってみた。
「あのー、ノゾム君。これって……?」
「うん、魔法の絨毯だよ。浮いてるから、地形の影響はあんまり受けないよ」
「そうじゃなくてね。えっと、これってそんなに速いのかな?」
「速度で言えばそんなにだと思うよ。でも、だからこそお姉ちゃんにも力を借りたい」
不要そうなスキルを長めに封印して、レンタルした特別製の絨毯。
某超大作RPGに出てくるような、山岳地帯以外は自由に飛んでいけるアレだ。
もちろん、それだけではつまらないのでネタ要素も含んでいる。
それゆえに、眷属たちからやり過ぎと言われて封印されていた品だ。
「私にできることがあるの?」
「うん。この絨毯、実は移動系のスキルの延長として使えるんだ。走る補正で加速ができるんだけど、お姉ちゃんは【勇者】だからアレが使えるよね?」
「…………まさか」
「うん、そのまさかだよ。“光迅脚”、あの能力で一気に飛ばしていくんだよ!」
すでに実験中、ミシェルに上位版である聖や邪などの“○迅脚”を試してもらった。
実験は成功、さらに言うと短距離転移などにも使うことができる優れモノ。
デメリット……というか、使わない理由は使う必要が無いから。
うちの眷属、絨毯+補正の加速よりも自前の足で走った方が速いのだ。
だからこそお蔵入りされていたが、本日ようやく日の目を見せてやれた。
不安がるエクラを絨毯の上に載せ、魔力操作の要領で移動を始める。
「しっかりと掴まっててね」
「えっ、どこに?」
「うーん…………まっ、好きなところでいいから!」
「ちょ、待っ──きゃぁああああ!」
待ったなし、ノンストップの超特急だ。
彼女にはどうにか絨毯の生地でも掴んでもらうとして、そのまま勢いを……痛たたっ!
「な、なんでそんなことに!?」
「と、とにかく速度を落として!」
「……そうなる人、初めて見ました」
創作物でよく見る、飛ばされてどうにかしがみつくというアレ。
彼女は見事にそれをやり遂げた……俺の毛根を掴む、という部分まで。
眷属にからかわれるのも嫌なので、すぐに回復魔法を頭に施しながら速度を落とす。
余裕ができたようで、とりあえず元の体勢には戻れたようだ。
「し、死ぬかと思った……」
「この程度じゃ死なないと思うけど。そ、それなら、やっぱり速度を──」
「ノゾム君、もっと詰めてください」
「えっ、エクラお姉ちゃん!?」
彼女が何をしたかと言えば、それは絨毯の端を摘まんだだけのこと。
ただしそれは前方、そして何より俺ごと抱き込むという形でだったが。
一歩間違えれば倫理コードが働きそうな光景、しかし無自覚なのか反応は無い。
……まあ、装備の硬い感触しか無いので、当然と言えば当然だけど。
一周周って思考も冷静になった。
意識的に{感情}を使い、リセットしたところで再び速度を……今度は段階的に上げる。
「大丈夫そう、お姉ちゃん? 今は魔法で向かい風を抑えてあるけど」
「こ、これなら大丈夫です。えっと、どのように“光迅脚”を使えば?」
「できるだけ絨毯に脚を付けた状態で、発動してくれればいいよ。あとは、こっちの方でやっておくから」
「分かりました──“光迅脚”!」
彼女がそれを発動したのを確認し、絨毯に編み込まれた術式を起動。
纏われたそのエネルギーを絨毯が増幅、推進用のエネルギーとして転用する。
世の技術者が見たら、目玉が飛び出るほど驚くのかもしれない。
現に学者であるリュシルも、そんな感じで技術云々のお説教をしてきたし。
スキルに作用し、それを増幅したうえで使える機構は過去にしかない産物らしく。
復元はともかく、再構築などは知り得る限りできなかったようだし。
……なお、このとき今の時代ならと言いかけたらお説教が長引いた。
いや、俺が悪いのは分かってますよ、ただちょっとからかいたかったんで。
閑話休題
そんなこんなで、【勇者】の加速能力で移動する俺たち。
この間、ずっとエクラが身力を消費するのだが、その分のポーションは渡しておいた。
常時維持していることもあり、物凄い勢いでフィールドを駆け抜けている。
すでに場所はタロム十路、エリアボスを避けるために一直線ではないがかなり進んだ。
しばらく乗っているので、だいぶエクラもこの感覚に慣れてきたようで。
途中からキメラ種を見つけると、遠距離系の技で攻撃するようになった。
「──“光迅剣・進展”!」
複数の光の剣を生み出し、それらをキメラ種に向けて射出する。
魔物特化の【勇者】の光だからか、キメラ種たちにかなり効いていた。
それで倒し切ることはできずとも、戦う者たちが優位に持っていくことができる。
そうして人助けをしながら、どんどん北西へ向かっていった。
「凄いね、エクラお姉ちゃん!」
「ふふーん、見直してもらえましたか?」
「うん! だから……この体勢、もうそろそろいいんじゃないかな?」
「?」
不思議そうな表情を浮かべるのだが、それはこちらがしたい表情だ。
いつまで彼女は、ショタ姿の俺に抱き着いているのだろうか……。
しかも先ほどの射出のため、体を前方に傾けていた。
つまりはそう、より体を密着させているわけである。
だが、本人がそれでいいなら俺が止める必要も無いだろう。
他意など無い、まあ無自覚だろうと望みに応えるのが偽善者の役割だからな!
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