AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド後篇 その05



 その身に纏うのは、俺が一からデザインした少女向けのワンピース。
 その上からケープを羽織るその少女は、揺れるような黒い炎を髪と瞳に宿している。

 手には魔法少女が持っていそうな可愛らしい杖と、これまた子供向けにデザインされた銀色の剣が握られていた。

 そんな少女は、俺には見えないナニカを見るように、目を右往左往させながら言葉を紡いでいく。


「えっと……そうだ──あとのことはわたしに任せて、おにーちゃんは先に行って!」

「……居たらダメかな?」

「ううん、大歓迎! 本当はおにーちゃんに見てほしかったの!」

「うん、しっかり見ているよ」


 ……じゃないと世界が崩壊するし。
 いつの間にやら、周囲には強固な結界が展開されている。

 たとえ星に大ダメージを与えるような攻撃でも、まあなんとかなるだろう。
 眷属はどんな容姿であれ、天下無双の力を持っている……彼女──カグもまた然り。


「カグ、カカはどうしたのかな?」

「おにーちゃんによろしく、だって」

「そうか……本音は?」

《すまないね。しかし、私は誰よりもカグの味方でありたいんだ。危険なことでもない限り、最大限意思を尊重させてもらうよ》


 ボソッと最後の辺りを呟くと、どこからともなく声が直接脳に伝わってくる。
 その思念の主こそが、カグをチートたらしめん正体でもあった。


「よーし、頑張ろうー!」


 キメラ種たちは、動きを止めている。
 状況に理解が追い付いていないとか、幼女相手にハスハスといった理由ではなく──逆に理解したのだ、圧倒的力量の差を。

 彼女の体内に宿るのは、こことは違う世界の神だった存在。
 神格を落とされ、堕とされたが……キメラ種如きが敵う相手ではない。

 それを一部ではあるが、己の意思で引き出せるようになったカグ……とは別に、俺以上に過保護な神様が威圧をしているのだ。


「おにーちゃん、見ててね!」

「うん、応援してるよ」

「ありがとうっ──えいっ!」


 カグが振るったのは魔法少女の杖。
 魔法名は言っていない、かといって思念による魔法起動を行ったわけではない。

 彼女が繋がっている神──カカは火の神。
 先ほども語ったが、その力を一部だけ己の力で使えるようになっている。

 それにより、火属性に関わる事象ならば彼女の意思だけで自由に発動可能だ。
 そこへ杖の魔力伝導の高さも相まって、効果は絶大──キメラ種たちが一気に燃える。

 カグの実力がその最たる理由ではあるが、原因の一部に杖の性能も関わっていた。
 まあ、名前からして凶悪さが出てる──銘は『崩滅誕杖[コラグラプニス]』である。


「カカが生産に関わったせいか、異様に仰々しい名前になったよな」

《君が必要以上に素材をふんだんに注ぎ込んだからだと思うけどね》

「……まあ、どっちもどっちだな」

《そういうことにしておこう》


 カグを守るために、俺たちが全力を尽くした結果があの短杖と銀剣だ。
 名前からお察しだが、眷属が持つ武器の中でも最高位の性能を誇るぞ。 

 なお、カグはその武具名を知らない。
 俺とカカの合作すべてに、そうして細工を施してある……あくまでも、丈夫な武器ぐらいの認識なはずだ。


「えい、えいっ、えいっ!」


 杖を振る速さに応じて、カグの掛け声が強くなっている。
 そしてそれに比例するように、火力がどんどん上がっていた。

 最後の辺りは塵すら残さず焼却されているので、かなりのものだろう。
 耐火性だってかなりのもののはず……俺たち、やり過ぎちゃったのかもな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ポイントによる眷属召喚なので、一定時間が過ぎたところでカグは帰還している。
 最後の最後まで俺を心配してくれ、回復魔法(火)まで施してくれた。

 お陰で俺は元気溌剌、休んでいたので魔力の方もしっかり満タンになっている。


「……けど、特にやることが無いんだよね。エクラお姉ちゃんは送り届けたし、何かまだやることってあったかな?」


 帝国の方に目を凝らして視ると、眩い光が燦然と輝いていた。
 間違いなくエクラの仕業、【呼光英勇】の力で光を集めて強化されているのだろう。


「ああなると、辺り一帯の処理が終わるまで動くことは無いだろうからね。僕だけで、どこかに行くっていうのもいいけど……どこに行けばいいんだろう?」


 一番面白そうなのが、やはりナックルの居る母体が眠る地だというのは間違いない。
 しかし、今の俺の身分はほぼ初心者……そもそも入れてもらえないはず。

 縛りを止めればいいだけの話だが、それはなんともつまらない。
 やるからにはとことんやって、そのうえでダメだったらという最終手段にするべきだ。


「何より、一度行った場所にまた行くのって新鮮さに欠けるんだよね。うん、これが一番の理由な気がしてきた」


 なんとも自己中な台詞セリフを吐きながら、俺は宙を駆ける。
 空歩スキルのお陰で魔術は使っていない、だから代わりに別のことで魔術を起動した。


「分からないなら、見つめ直せばいいだけだよね。二重起動──『過程演算シミュレート』」
《並列思考、高速思考、行動予測》


 スキルを三つ同時に使い、発動したのは未来を式によって導き出す思考強化の魔術。
 本来なら脳が一瞬でオーバーヒートを起こすであろう演算を、強引にスキルで補う。

 過労、情報、苦痛といった耐性スキルのお陰で気絶はしないで済んでいる。
 俺はこの後何をすればいいのか……加速した時間の中で、ゆっくりと考えるのだった。



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