AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド中篇 その06



 N9-N10 阻みの峠


 渓谷での無双っぷりは続いているが、それはそこだけで行われているわけじゃない。
 北の最果て、そこへ至る道すがらでも同じような光景が広がっている。

 そこは『阻みの峠』と呼ばれる迷宮。
 誰かが生みだしたわけでもなく、その地に溜まっていた自然の魔力が、集まり過ぎた結果迷宮になったのだ。

 もちろん、ここを眷属の派遣場所にしたのには理由がある。
 無限に魔物が出てくる迷宮を奪われるわけにはいかない、魔物だけでなく核もだが。

 何よりここ、寒いから祈念者がまったく来ていない。
 魔物もここより北へ進軍するより、この場で力を蓄えるぐらいには需要が無かった。


「うぅ、寒い……メルスめ、あとで絶対ぎゃふんと言わせてやる」

《──ぎゃふん!》

「……わーい、目的達成だー(棒)」

《はいはい、そこまで口頭で言っていただいて嬉しいですっと。じゃあ、もっとそこで喜びを噛み締めていてくれよ、アイリス》


 なお、眷属たちにはしっかりと防寒対策の魔道具を渡してあるので寒くはない。
 彼女が言っていたのは、あくまで気分的なものだろう……見た目がな。

 機械チックな装備を身に纏うアイリス。
 アッシュブロンドの髪や金色の瞳も特徴なのだが、銀世界のそこにおいて、何よりも違和感があるのは寒々しい格好だ。

 ボディスーツの上から、ヘッドギアやらドレスアーマーを着ている彼女。
 そりゃあ傍から見たら、何とも言えない見た目だよな。


「……はっ、ワタシの恰好のことを何か言っている気がする。でもこれ、作ったのメルスで完全に趣味じゃん!」

《…………ナンノコトヤラ》

「そりゃワタシだって、ノリノリでコスプレでも何でもしてやるとは言ったけどさ……いつまでが寿命なんだか」

《そういうこと、言ってやんなよ》


 なお、この会話における寿命とは生きられなくなる方の寿命ではない。
 ……あっでも、ある意味──社会的という意味では間違ってないか。


《ほらほら、もう閑話休題っと。アイリス、そっちの方はどうだ?》

「えっ? うーんとね、全員がバラバラにキメラを見つけては狩ってを繰り返してるよ。いっしょにやってると、やっぱり飽きが生まれちゃうから」

《普通なら独断専行とかアウトだけどな》

「あはは、この集団だしね……たぶんこんな場所に居られないって帰っても、普通に返り討ちにしそうだし」


 定番の死亡フラグを例に挙げ、眷属たちの強さを語らう。
 こういうのも、やはり元ネタを知っていないと難しいな。

 何人かの眷属は、地球の情報も知ろうとたくさんの本を読んでいる。
 俺やアイリスなどの地球人(元含む)の記憶頼りなので、会話に使えるネタは多い。

 それでも、まあ普段使いしているわけではないからな。
 そういう点では、やはりアイリスたちの方がバカ話はしやすいというものだ。


《そんなことよりほら……来たぞ》

「本当だ……せっかくだし、一気にやっちゃおうかな?」


 警戒網に引っ掛かったキメラ種を報告すると、彼女は戦闘準備を開始する。
 用いるのはもちろん、着込んでいる機械仕掛けの装備。

 彼女が纏うそれは、『天能』シリーズと呼ばれる機械とファンタジーの融合作。
 そこに彼女自身の固有スキルが乗ると、誰にも真似できない事象を引き起こせる。


「──『模倣魔王イミテートデモニック』!」


 かつてこれと似た能力で、『模倣勇者』という力を発揮していた。
 アレは聖気の再現を主にしていたが……今回はそれを、邪気バージョンに。


「模倣変化──『闇の覇者リュウオウ』!」


 肉体ではなく機械の上を邪気が巡る。
 そのため彼女にはいっさいの悪影響を及ぼすことなく、その禍々しい力の残滓をこの地に轟かせていく。

 機械は形を組み替え、彼女の命令通りに変化を遂げる。
 その紫色の巨大な竜こそ、彼女が望んだ暴虐の権化なのだろう。


《……いろいろ、大丈夫なのか?》

『まあ、ルビはカタカナとして登録してあるからいいんじゃない? それよりほら、レッツ無双タイム!』


 彼女の声が、竜の内部から聞こえる。
 あくまでも彼女は、彼女のままだ。
 イメージとしては、ドラゴン型のロボに登場しているようなものだろう。

 ただ、いっさいの手動操作を必要とせず、自分の体のように動かすことができる。
 普通、まったく異なる体躯を動かせば違和感が出るだろうが……その辺はチートだ。

 息吹を吐いたり、尻尾で吹っ飛ばしたり。
 ……原作だと必ずと言っていいほどに討伐されていたが、キメラ種程度に敗北するほど弱くはない。


『フハハッ、圧倒的ではないか我が軍は!』

《孤軍奮闘だけどな。しかしまあ、かなり強いよな。ああ、レベル的な問題か》

『勇者相手に魔王って、どれくらいのレベルで戦っているんだろうね。身体的スペックからして、カンストさせたら絶対に勇者に負けるはずないよね』

《だからこそ、最近の勇者は魔王特攻みたいな能力を持っていることが多いようだし。勝てないなら、勝てる仕様にしておこう……強引にやらないと勝てないんだよ》


 この世界でも、似たようなものだ。
 たとえば悪逆非道の限りを尽くしたネロには、英勇脆弱スキルが与えられており、彼らの攻撃が致命的なまでに届く。

 彼ら自身の特攻補正、そして敵対者自身の脆弱化によってそれらは成立する。
 勝てないなりに、工夫を凝らされたやり方と言えよう。

 そうしてどんどんキメラ種を屠れば、感知していた分はすぐに全滅する。
 眷属の戦いは、そうしてサーチ&デストロイを繰り返すだけの簡単なお仕事です。


「解除っと……レパートリーを変えないと飽きるね、これ。メルスはこれからどうするのかな? 話していると、割と退屈しないんだけど……」

《なら、副思考を一つ残しておこうか? 主思考はまだやることがあるから無理だけど、ボケに対するツッコミぐらいはできるし》

「そういうことじゃないんだけど……まあ、メルスだし仕方ないよね」

《酷い言いよう!?》


 そろそろいい具合に時間も経つし、あちらに意識を戻すとしよう。
 アイリスに他の眷属へよろしくと伝えてもらい、俺はノゾムへ戻るのだった。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品