AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド前篇 その19



 黙々と……とは言えないものの、周りには声が漏れないように作業を続けていた。
 並列思考があるため、呟く内容とは関係なく必要とされるポーションは出来ていく。

 そのついでに、上級錬金スキルを得るために必要な数と種類をこなしている。
 これまで無駄に作ってきたポーションを思い出せば、自然とそれらは達成可能だ。


「これで完成と。さて、お姉さんの方はどうなっているのか──うわっ!」

「…………」

「えっ。あっ、結界……解除っと。ど、どうしてここに?」

「気になったから」


 時間を空け、それから彼女──ヘルメギストスともう一度話そうと思っていた。
 目的のスキルを獲得し、ちょうどいいかと後ろを振り向くと……彼女が見ている。

 ジーっと、ついでにメモ帳と筆記用具まで手にして俺の背後に。
 いつの間にか仕切りは外されているが、それよりも気になることばかりだ。

 爛々と金色の瞳が、俺を……というより俺の成果を観察している。
 結界に申し訳程度の対物理性能が無かったら、もっと近くにいたかもしれない。

 とりあえず声が通るように、一時的に防音性を解除してから質問する。
 返ってきたのは、ある程度は予想していた返事だった。


「気になった?」

「そのポーション、どれも見たことが無いような物ばかり」

「……さっきのレシピと同じように、僕自身で編み出した物ですから」

「詳しく。く・わ・し・く」


 もし眷属にこんな風に迫られたら、あっさりと言うことを聞いていたかもしれない。
 だがそれではさまざまな危機に見舞われることもまた、彼女たちから学んでいたのだ。

 そうした経験からNO……とは言えなくとも、YESとはっきり答えない、いわゆる天邪鬼か性根が曲がったような答えをできるようになっていた……これ、成長なのか?


「と、取引しようよ。お姉さんの持っているレシピと、僕の持っているレシ──」

「好きな物を選んでいい。速く」


 手渡す……ことはできないので、地面に置かれた大量のレシピ集。
 軽く一番上の物に目を通すが、とても参考になる物だった……ヤバい方向に。

 忘れてはいけなかった、彼女との初邂逅は麻薬騒動の時だったと。


「お姉さん、ポーション以外にもいろんな物が作れるんだね」

「錬金術は薬を作るための物じゃない。不完全な物から完全な物を作る術全般を指す」

「なるほど、だから魔道具なんかの便利なアイテムのレシピもあるんだね。それじゃあ、これ全部を貰うから……はい、これ」


 結界を解除して、手渡しするレシピ。
 先ほどのようにすぐに目を通す……のではなく、パチクリと瞬きをしてこちらをジッと見てくるヘルメギストス。


「いいのか?」

「うん、お姉さんの大事なレシピを見せてもらったんだもん。僕の物でよければ、いくらでも。対価に見合う物じゃないかもしれないけど、それこそ錬金術っぽいよね?」

「…………」

「……あっ、えっと、今のは軽い冗談のつもりだったんだけど。そ、そこまで無反応だと恥ずかしくなっちゃうよ!」


 そう言いながら、俺の思考は冷静に彼女の作り上げたアイテムのレシピを調べている。
 ……相変わらずネーミングセンスはアレなようだが、作られたものは本当に凄い。


(基本は市販の魔道具の改良、だけど所々にオリジナルの式が組み込まれている。最適化の途中ってところかな? 麻薬を作るような人だけど、作っている過程自体に禁忌に触れるような物はないね)


 彼女はあくまで、錬金術がどこまでやれるのかを試しているだけなのだろう。
 ただその成果の中に、麻薬などの非合法に含まれる物が存在しているだけで。

 また、麻薬も使い方次第というのは誰の言葉だったか。
 正しい処方を守れてさえいれば、多くの人の命を救うことに違いはない。

 そういったことを証明できる情報が、レシピには記されていた。
 なんせ、可能な限り等しく誰でも使えるよう、工夫を凝らしているみたいだったし。


「……分かるか?」

「お姉さんが錬金術が大好きだってことはよく分かったよ。僕も、初期に選んだスキルは錬金術だったもん。他の生産スキルにも手を付けてはいるけど、やっぱり錬金術が一番ロマンのある生産だよね」

「分かる」


 何かに納得した様子で、ヘルメギストスはレシピを読み始める。
 俺もまた、回収し終えたレシピを一枚一枚じっくりと覚えていく。

 そして、互いに気になる点があれば相談もしあった。


「えっと、この魔道具の術式なんだけど。ここをもう少し上手く弄れば、効率が上がると思うんだけど──」

「……あとで教えてくれ。それより、こっちのポーション。同じ効能ならもっといい薬草がある。どうして抽出したこれを──」

「それはね、そっちの薬草よりも成分的に必要要素が多くて──」


 彼女に足りないのは知識。
 ある物を応用してなんとかしてはいるようだが、やはり生産神が教える叡智級の情報と比べれば劣ってしまっている。

 なので今だけ、俺がその足りない情報を補うことにした。
 要するに、教科書だけで自習していた子供に参考書を渡すような物だろう。

 解き方さえ分かれば、間違いなく彼女は自分でどんどん成長していく。
 それは異なる分野で多大なる成果を叩き出している、ツンドラ少女が証明した。



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