AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド前篇 その11



 S7W14 大砂海


 ワールドクエストは短期的には終わらず、すでに二日目となっていた。
 キメラ種は昼夜問わず攻撃を行うため、祈念者たちも力を合わせて防衛している。

 彼らに疲労のようなものは感じられない。
 そりゃそうだ、休むのは死ぬときであり、その死は同種の糧となり状況をより悪化させるという負のスパイラル。

 死体回収を専門とする部隊を祈念者が編成して頑張っているものの、やはり無限に強化されていくキメラ種は、成長速度を落とされてもなお進化を続けていた。


「暑い……耐暑スキルだけじゃ耐えられそうにないよ──“耐暑付与エンチャントレジスト・ホット”」


 そんな中俺は現在、途方もなく広い砂漠を彷徨っている。
 ある理由で突如として砂漠と化した、なんて歴史を持つ自然型迷宮らしい。

 呟いた通り、ここはだいぶ暑い。
 乾いた空気が熱をダイレクトに伝えてくるし、空には雲一つ存在しない……迷宮なせいか、そういう地形効果もあるのかも。

 付与魔法で自身の耐性を強化し、環境の厳しさに耐える。
 いちおう火・苦痛・環境への耐性は持ち合わせていたが……まだまだ足りないようで。


「情けねぇな……もうちっと、我慢を覚えた方がいいんじゃないか?」

「……イイよね、チャルは。その気になればいつだって体の感覚を無視できるんだから」

「そりゃあ戦いに邪魔だしな。っと、雑魚は出直して来な!」


 無論、この砂漠にもキメラ種は居る。
 しかも祈念者はある特定の位置に集まっているため、それ以外の場所ではキメラ種たちが今なお増え続けていた。

 だが、俺に襲い掛かるキメラ種は居ない。
 なぜならここまで辿り着く前に、すべて拳一発で地に伏せられているからだ。


「しかしいいなぁ、アンタのそのスキル。魔物から来てくれるなんて最高じゃないか」

「誘因体質か? まあ、これはチャルが共有しても使えないスキルだしな」

「ったく、創造主様は何を考えてんだか。お陰で二度手間じゃないか」

「……機械にわざわざ体臭を組み込むほど、狂っていたわけじゃないんだろうよ」


 彼女の種族は機人族メカニア
 通常種より特別な個体なのだが、今は置いておくとして……総じて機人種には、機械には不要な人体の機能が存在しない。

 三大欲求、発汗、そして苦痛。
 情報としては認識していても、意図してそれらがもたらす影響を反映させないことが可能なのが機人の利点。

 そして、機人のデメリットになる点として挙げられるのが──身力の自己生成ができないこと。

 魔力だけでなく、一度失った生命力も必要な手順を踏まなければ補えない。
 必然的にその手段を用いるためのスキルなども必要なため、祈念者には不人気だ。


「チャルの種族『魔導機人』がいかに特別だとしても、機人ができないこと全部をできるようにはしてないってわけだ」

「魔力も自分で用意できるんだから、体臭ぐらい用意できるようにしとけってんだよ。そうアンタも思うだろう?」

「……ノーコメントで」


 どうせチャルの目を経由して中継されているのだろう、その手には乗らん。
 俺にそういったフェチは無いが……まあ、はぐらかす程度にしておいてやろう!


「それよりチャル、今回やるべきことは覚えているよね?」

「アンタを守りながら、襲いかかってくるヤツ全部壊滅……だったか?」

「まあ、大まかには間違っていないけど……念のため、ちゃんと言うよ。今回はキメラ種の相手をしながら、僕たちを殺しに来るPKたちも同時にやっつけるんだ。ついでに、味とかも分かればなお良し」

「やっぱり合ってんじゃねぇか」


 周囲がキメラ種の殺気に包まれているからか、常時戦闘モードのチャル。
 きっとPKたちも、この空気に混ざって殺しに来ることだろう。


「彼らに目的は無くて、おそらく失敗したらどうなるかやっているだけだと思う。特にここは、周りが砂漠に囲まれている場所に街が有るからそれが起きやすい」

「陽炎都市……だったな。なら、そっちの近くの方が良かっただろ?」

「目立つし、あえて外回りをしながらの方が処分しやすいって思ってくれるよ。それよりほら、また来たよ……来るまでは、絶対に歯車はダメだからね」

「はいはい、分かってますよっと」


 彼女だけの力として組み込んだ歯車だけでなく、武技などもいっさい使わずに純粋な技量のみでキメラ種を捻じ伏せるチャル。

 やはり、強すぎて手を出せないかな……と思うので、俺なりにサポートはしていた。


「──“過大評価ハイレート”、“過小評価アンダーレート”」


 魔法名の通り、相手のことを客観的に捉えられなくする呪与魔法。
 前者を俺に、後者をチャルに付与することで襲われる確率を操作しているのだ。

 同時に、どこかで見ているであろうPKもこれに騙されてくれていればいいけど。
 時折デバフ系の魔法を魔物に施し、コツコツレベリングをしながら待っている。


「このまま一段階目の派生まで、魔法を成長させられればいいけど……難しいかな」

「なあ、いつになったら来るんだよ!」

「いろんな場所を転々としているみたいだから、情報があんまり無いんだ。けど、今日の内に来るのはたぶん間違いないから、それまで待って」

「……後で絶対何かシてもらうからな」

「どういう致死方イタシカタをやらされるのやら」


 それからしばらく、俺の魔法スキルに若干の彩りができるほど待つことになった。
 ……チャルを満足させる戦いを、用意しないといけなくなったよ。



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