AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と大規模レイド前篇 その09
瞑想や呼吸などのスキルでどうにか誤魔化しているが、自然回復だけでは追いつかなくなってきた……俺のやっていることは非常に燃費が悪く、無駄が多いからな。
だが、縛り中なのである程度自由にやると決めている……具体的には、普段は使っていない消費アイテムなども使うつもりだ。
「っと、ポーション補給して……『槍』──“穿撃”」
生命力・魔力・精気力の三つを同時に回復できるポーション──劣化エリクサー。
劣化版なので肉体損傷の回復などはできないが、今は必要としないので問題ない。
俺は称号の効果で生産品質がB以上が確定なので、適当に作ってもそれなりの価値まで底上げできる。
足腰に力を入れ、武器自体を捻ることで螺旋回転を生み出す刺突系の武技。
宙を移動している俺だが、『遊歩ノ靴』の効果で着地点を自由に選択できる。
補った身力で準備を整え、再びキメラ種たちの首を落としていく。
あえて心臓や魔核は残し、今後の活用をできるようにしたのは──双方のためだ。
「キメラ種は食ってパワーアップ、祈念者は回収して素材ゲット。どっちにせよ、戦いを終わりに進められるな」
最初は同種を殺した相手を探していたキメラ種だが、自分で活用できる部分の豊富な死骸が増えていくにつれて、だんだんとそちらの方に意識が向きつつある。
祈念者たちもその隙を突いているが……あまり効果は出ていなかった。
熟練者の攻撃は効いているが、総数が少ないためキメラ種の数に追い付いていない。
「うーん、やっぱり根っこの部分を叩かないとダメかー。『弓』──“放射”」
《魔力付与、射線把握、視界把握、悪知恵、暗躍、挑発、再現、妨害、悪戯、魔眼》
今度は目を凝らし、引っ張った弓で狙いを定めて射った。
矢に魔力を籠めるのだが、先ほどの魔力体の効果はそちらにも宿る。
そのため、雷が迸り俺の狙った場所──目玉へと矢が直撃していく。
肉の柔らかい部分から体に電気が浸透し、狂え悶えるキメラ種たち。
「ディー、やってよし」
『♪』
宣告すると、今まで待機していたディーがキメラ種の下へ突撃。
自身の体を液状のスライムに変えると、できたばかりの穴を通って体内へ。
血を啜り、魔力を溶かし、心臓を喰らう。
体内からあらゆる要素を吸収し、それからしばらくしてディーは中から飛び出す。
傍から見て、キメラ種の姿に変化は無い。
だがその瞳だけは違い、非常に虚ろな目で辺りを眺め──同種の死骸へと喰らい付く。
これまで動くことを渋っていたキメラ種たちだが、先導者が現れたことで行動を開始。
周囲の様子など度外視し、息絶えたキメラ種の肉を貪り始めた。
その間もディーは暗躍し、次々とキメラ種たちの内部を侵蝕。
だんだんと虚ろな目になる個体が増え、半数以上がそうなったとき──動き出す。
虚ろな個体が突如として、生きている個体にも牙を剥いたのだ。
さすがに反撃をしているものの、初撃を受けた影響は明確に出ている。
「同士討ちなんて……やるね、ディー」
『♪』
「これなら次の分も安全そうだよ……だからもう一度、潜ってくるね。その間の護衛、頼もうかな?」
『♪』
任せとけ、と再び器用に親指を立てるので俺も一安心だ。
血で血を洗う戦いが繰り広げられる中、俺は目を閉じて意識を飛ばすのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
N5W5 昏き冷洞
ここに眷属は派遣されていない……が、関係者が居るためやってきた。
膨大な数のキメラ種相手に拳を振るう男もまた、そんな俺に気づく。
「うおっ……焦った、新種のキメラかと思うじゃねぇか」
《人のことをキメラ呼ばわりって、結構酷いと思わないか?》
「そう思うヤツは、わざわざ顔を醜悪な魔物に変えたりしない」
《おっと、気分で変えていたんだった。悪い悪い、次は気を付けるとも》
これまでと違い、霊体を生み出してこの場へ飛ばしていた。
意味もなくやっていた変身魔法を解き、改めて会話を──
「……おい、まだやってるのかよ。いい加減そういう顔は止めろって」
《…………帰る》
「冗談、冗談だって! いつも通り、普通の顔立ちだから安心しろって……だからなんで帰ろうとするんだよ!」
《うるせぇイケオジ! テメェなんかオークのキメラにくっ殺されやがれ!》
冗談なのは分かっていたが、後半がトドメの一撃だった……いいもん、普通でもうちの眷属は優しくしてくれるもん。
心の中でもんもん言って心を落ち着かせてから、やっとこさ話に戻る。
《まったく、ナックルのせいでとんだ無駄な時間だった》
「誰のせいだ誰の……で、何の用だ?」
《現状を教えてくれ。あと、もう少し数が欲しいって伝言だ》
「了解……後半はマジで助かるわ」
隔離空間で無双している眷属たちが、お代わりを所望していることも伝えておいた。
ストレス発散にちょうどいいらしく、その数も多い方がいいそうだ。
俺は俺で、ここに来た理由の情報収集を忘れないで言っておく。
ナックルも戦いながらではあるが、息一つ漏らさず余裕そうに語りだす。
──ここは昏き冷洞。
凍てつく冷気によって保存された多くの魔物の情報を基に、とある学者が禍々しい狂気の研究を繰り返してきた地。
それゆえに、彼の生みだした始まりのキメラ種が眠る場所。
……つまり、こここそがワールドクエストの発生原因となった舞台だった。
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