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山田 武

偽善者と大規模レイド前篇 その04



 コールザード王国 付近


 先ほどまで意識を向けていたスリース王国のさらに北、極寒とも言えるような吹雪が荒れているこの地。

 ほんの少しだけ祈念者が居るものの、この地を襲うキメラ種のレベルは高い。
 来ることのできる祈念者と比べても、質では負けるが数では圧倒している。

 かつてはスリース王国の公爵云々で揉めた国ではあるが、国民に罪はない。
 将来有望な子供も見つけているのだ、道半ばで諦めさせるわけにはいかなかった。


《──そういうわけだから、頼むぞ》

「……さ、寒すぎますわ。こ、こんな調子で本当に勝てますの!?」

《おお、好いノリツッコミだ。安心しろ、俺もリー一人で勝てるとは思ってないから。だからそこは二人なんだろ? ギー、リーの分まで頑張ってくれ》

「バッチこい」


 担当するのは二人、(デ)バフ特化のリーと何でも模倣なリー。
 こっそり祈念者たちを支援しながら、完全防衛を達成してもらうべく待機させていた。

 これまで見てきた地帯よりも、少々発生に時間が掛かっていた。
 まあ、スリース王国よりも強い寒さへの耐性が無いと、来れないもんな。

 キメラ種たちの場合、もともと耐性の無い種も居ただろうし……発生地点的にも、結構苦労したのかもしれない。

 スリース王国と被らせないためか、両者の中間地点からは魔物は発生していなかった。
 そのため、スリース王国の場合は少しマシな南から……こちらは極寒の北から来る。

 祈念者たちも、相応の準備をしなければいけないので数が少ない。
 だが、キメラ種は……時間と糧さえ用意されれば、充分に戦えるようになる。


「それでは、施しますわ──“身力欺瞞パワーチャフ”、“耐寒エンチャントレジ付与スト・コールド”」


 リーが付与したのは、放つ存在感を抑える魔法と寒さへの耐性を付与する魔法。
 通常の効果より、彼女が発動する支援魔法の効果は高い。

 神器の武具っ娘であるリーは、その身で神気を生成することができる。
 ある意味、支援に特化した彼女はその力を魔法に施すことで、効果を強化できるのだ。

 ……俺は知らなかったが、本来神は自分に関わることにしか神気を使えないらしい。
 俺が何にでも神気を供給できたのは、何を担うのか決めていなかったからなんだとか。


 閑話休題ようちょうさ


 神の力でブーストされた支援魔法の効果は凄まじく、誰も二人に気づかない。
 なので、何食わぬ顔で祈念者たちの近くを通ってキメラ種の下へ向かった。


「リー、合わせて──『追いかけ貫けグングニル』」

「分かりましたわ──“強撃溜込アサルトチャージ”!」


 ギーは分裂スキルで自分を増やし、形状を槍に変化させる。
 必中の性質を宿した槍は、確実に魔物たちの下へ向かう。

 リーの魔法で威力は強化され、風の壁を突き抜けていく。


「──『降り注げゲイ・ボルグ』」

「ああもう、対象を急に増やさないでよ──“命中補正ポイントヒット”、“操力指導《ガイドライン》”!」


 槍はその形状を変え、弾け、キメラ種の魔物たちに降り注いでいく。
 必中の性質は失われたが、そこはリーが補うことでクリア。

 当たれば即死の槍が降り注ぎ、その数が一気に減っていく。
 祈念者たちの知覚範囲よりもさらに奥、誰にも知られない殲滅戦が始まった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 W1 迷いの森


 始まりの街から西側、入り組んだ森の中で一人の少女が立っている。
 これまでの眷属と違い、彼女はまだいっさいの戦闘行為をしていなかった。


「……暇ね」

《まあ、だからこそ派遣云々も全然話していなかったわけだし。そっちで交渉してくれて助かったよ》

「自己判断で動くことにしたけど、なかなか上手いわね。地形も利用して、侵攻をどうにか抑え込んでいる」


 ここは現地人である森人──月詠森人ルナエルフたちが強く、彼ら自身でどうにかなっている。
 祈念者の中でも、いわゆるエルフスキーな人種も集まっているので防衛は可能だ。

 あくまでも、初期段階ではだが。
 今後どうなるのか、それによっては彼女が動くことになるだろう。


《けど、そう長くは持たないだろうな。戦うことはできるだろうが、いっさい侵入させないのは……難しい。キメラ種は食えば食うほど成長するから、絶対に限界が訪れる》

「そうなる前に、なんとかしたいわね」

《同感だ。だから、ヤバくなると感じたら対処をお願いしたい。頭の固いお偉い様はともかく、話の通じそうなヤツがいただろう?》

「……彼もメルスに目を付けられて大変ね。分かったわ、彼に話を通しておく」


 この森でもっとも速く月詠森人へ進化したイアンという森人、彼ならば彼女の手助けをすることができるはずだ。

 自分たちだけでどうにかなると思っているお偉い様は、死んでも困らない祈念者を働かせればイイというところで思考が停止している……彼らでも防ぎ切れないことはある。

 先ほども言ったが、どうにかなるのは初期段階までの話。
 個体によっては無限に成長できるキメラ種たちに、その理屈は通じない。


《頼んだぞ、ティル──【獣剣聖姫】様》

「急に何よ……ええ、獣聖剣に誓って守り抜いてみせるわ」


 腰に下げた聖なる剣は、カタカタと呼応するように震えている。
 ……が、威力が尋常ではないので、使われるのはだいぶ後になるだろうな。

 使うにしても、間違いなく終盤。
 極限まで力を蓄えれば、今回の特殊なキメラ種たちは使うに値する実力を示してしまうわけだ。



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