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山田 武

偽善者と大規模レイド前篇 その03



 スリース王国 付近


 雪が降り積もる白銀の世界、凍り付くような冷気が漂う中で少女はハッと息を吐く。
 希われ、何かをするのはこれまでと変わらない……だが、その表情はどこか楽し気だ。

 彼女──リラはこの国の公爵に、雇われる形で派遣されている。
 星のように輝く銀色の衣装を身に纏い、聖なる剣を振るい戦闘を行っていた。

 すでに戦いは始まっている。
 何十、何百ものキメラ種の魔物が、氷の大地に沈んでいた。

 ──そのすべてが、氷に閉じ込められた後に砕けていく形で。


「──“氷槍アイスランス”」


 周囲に展開する氷の槍。
 それらを向ける先は、当然魔物たち。

 しかし、魔物たちはすでにこの地の魔物を喰らい氷に対する耐性を得ている。
 ただ氷の魔法をぶつけるだけでは、さしたる効果も出ない。


「──“導風エアガイド”、“電磁砲レールガン”」


 だが、リラはそこに魔法を重ねる。
 方向を調整する風魔法と、電撃の速度で射出する雷の魔法。

 加えて、氷魔法一つずつに多くの魔力を注いで強化をしたうえで、魔法を発動。
 凍てつく冷気を放ちながら、膨大な熱量を帯びた氷の槍が的確に魔物へ命中していく。

 魔物たちの肉体を貫通し、彼女の視界からは認識できないほどの距離へ消えていく槍。
 やがて、穴の開いた魔物は、そこから徐々に氷に覆われ──氷像と化し、砕け散る。

 魔物たちは次々と殺される仲間の姿に、怒りを覚える……ことはない。
 だが、別の要因──餌を砕かれる光景に激怒していた。

 彼女を敵だと強く認識し、周囲のキメラ種たちを利用しながら攻撃する。
 仲間意識など存在しない、彼らは与えられたプログラム通りに同種を攻撃しないだけ。


「──“霜華フロストフェイス”、“氷断ちアイスカット”」


 辺りに霜でできた花が生まれると、そこに触れた魔物たちが凍り付いていく。
 そして、そこに当てられるのは彼女の振るう聖なる剣。

 氷を砕く補正が入った武技により、掠っただけで魔物たちは肉体強度に関係なく死ぬ。
 それでも恐怖を感じない……否、知らないキメラ種たちは彼女へと攻撃を続ける。


「厄介……」

《ははっ、たしかにな! いっそのこと、後ろの兵士さんたちにも手伝ってもらうか?》

「……いつの間に……」

《ついさっきだけどな。ところで、どうしてほとんど氷限定なんだ?》


 リラはこれまでと同じ作業を繰り返しながら、俺への対応も欠かさずにしてくれた。
 氷を展開し、魔物たちを凍らせ、それを砕くことで死体を残さず処理していく。

 彼女は統合系のスキルなら異様なほど習得しているので、小規模なことならほぼ何でもやることができるのだ。

 魔法なら基礎属性を全部使えるし、武器なら何でも使うことができる。
 ついでに言えば、空さえ曇っていなければもっと凄いことができた。

 まあ要するに、火魔法で焼却することも、少し張り切れば武器で木っ端微塵にすることだって可能なのだが……なぜなのだろうか。


「そう、依頼されたから……せめて、分からないように氷以外は使ってほしいって」

《そんなこと、俺は言われていなかったんだが……理由は言ってたか?》

「普通、そんなにスキルが無いから……貴重な人材だから、他の貴族が何をするか分からないからって」

《ああ、そういう理由か……ここの貴族、あの人を嵌めようとした奴とかもいるし、いろいろと複雑なんだな》


 祈念者が簡単にポイントでスキルを習得しているとの違って、自由民は意図したスキルの習得なんてほとんどできない。

 そのため、統合系のスキルを持っている人はかなり珍しいのだ。
 もちろん、一点特化の方が優れている場合もあるが、目の前の光景を見るとな。

 無双する統合スキル使い、まさに大器晩成型を地で行く姿を見れば欲しくもなるか。


《あー、事情は理解した。ただまあ、リラがピンチになったら絶対に使ってくれ。偽善相手の願いより、俺はリラの命を優先する》

「…………分かった」


 少し反応は遅かったが、おそらく願いを叶え続けた彼女なりに葛藤があったのだろう。
 なんて考えている俺には、今の彼女の表情など分かっていないのであった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 始まりの街


「……あんまり変化は無いか」


 少し、周囲を見てみるが、そこまで大きな変化は無い。
 しいて挙げるのであれば、祈念者の死亡数が増加しているぐらいか。

 キメラ種の魔物たちは、食べれば食べるほど多くの性質を獲得して強化される。
 生き残りが居ればより強くなり、死んでも糧となれば強さは継承されてしまう。

 そのため、だんだんと祈念者一人が殺される速度が上がっているようだ。
 ある意味、無限に成長していく魔物たち、初心者では対処は難しいだろう。


「大きな変化が起きるのは、それを捌き切れなくなった時……どの段階で、それが露呈するかによるな」


 今は火力を上げてごり押しすることで、まだどうにか処理効率を保てている。
 しかし、誤魔化しが効かなくなれば、祈念者だけでの処理は不可能となるだろう。

 まあ、この街そのものが崩壊することはほぼありえないだろう。
 ボスならば、そんな危機でもどうにかするはずだしな。


「じゃあ、改めて別の場所を見ますか」


 再び意識を遠くに飛ばし、眷属たちが活躍する姿を観戦することに。
 さて、次は誰のどこを見てみようか……正直、見るのが怖い場所もあるしな。



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