AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド前篇 その02



 始まりの街


 再び意識を戻し、周囲を見渡す……すでに初期地点である噴水はがら空きだった。
 時折祈念者が現れても、すぐに戦場へ向かうため居なくなる。

 それを見越して商売を図ろうとする者たちもいるのだが、彼らは非戦闘職なので省く。
 要するに、真面目に戦う者はもう噴水で待機する必要が無くなっているた。


「気配も……うん、あるな。ちょっと気になるし、行ってみるか」
《駆足、耐久走、健脚、持久走、空歩、身体強化、脚力強化、立体機動、指力強化》


 地面を勢いよく蹴りだし、脚を一歩前に踏み出し──地面に着く前に切り替える。
 その足は宙で踏み止まり、一歩また一歩と上へ登っていく。

 ギリギリ街を守る防壁を超えない高度で、そのまま空を走る。
 ……今は非常時なので、少しでも速く向かうための手段がだいたい合法になっていた。


「つまり、風魔法だったり飛行スキルだったりで飛んでいる奴らが至る所に居るってことだな……みんな速いな。はっちゃけているわけだ、誰も彼もが」


 こう、ファンタジーでありがちな魔女の済む場所みたいな感じか?
 生身の人間が空を飛び、自在に駆けているというのは。

 俺と同じように走る者もいるので、さして目立つことは無かった。
 そのまま向かうのは東のフィールドへ繋がる門、その上部へと着地する。


「今の俺は傍観者、みんなが頑張っている様子をしっかり見届けないと」
《魔眼、遠視、俯瞰、拡視、視力強化、感覚強化、暗視、霊視、並列思考、高速思考》


 強化した眼で辺りを、フィールド全体を見渡していく。
 祈念者たちが直接キメラ種の魔物と戦い、自由民は遠くから援護をしている。

 やはり死んでも蘇る祈念者は、こういう時に重用されるのだろう。
 特殊な手段を除き、一度切りの生しか無いのが自由民……それこそが普通である。


「とはいえ、ここらは初心者向けだからか出てくる魔物のレベルも低いな。それでも平均的に、10ぐらい……ソロでやるなら20ぐらいは必要な個体ばっかりだ」


 イベント限定版キメラ種の魔物たちは、総じて鋭い牙を生やしているのが特徴だ。
 そして、何より一番の特徴──それは死骸であれば何でも捕食するということ。

 人族や普通の魔物だけでなく、同種の魔物たちまで死ねば糧になっている。
 そして、食べるとそのキメラ種の性質まで取り込みパワーアップしていく。

 無論、食えばその分だけレベルが上がり、祈念者が対処するにも苦労が掛かる。
 数はだいたい一定量で収まっているが、減るわけでもないので大変さは上がっていた。


「うーん、今はまだアイテムの補強と魔法による支援でどうにかなっているみたいだが。それもいつまで持つのやら……」


 自分たちが成長するように、彼らもまた時間経過で強さを増していく。
 果たして、この後彼らがどういった結末を迎えるのか……しばらくお待ちくださいな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 シャッゴン大穴洞 山人の隠れ里


 さて、初心者の祈念者たちが集団でキメラ種と死闘を繰り広げる中……たった一人で防衛を行う場所がある。


「はいはーい、みんな危ないからアリィたちの指示に従ってねー!」

「戦闘員は武器の製造に努めてちょうだい。非戦闘員はそのサポート、具体的には安全な場所への移動よ。何もしないわけじゃない、貴方たち自身でこの里を守るの」


 山人がひっそりと隠れ住むこの地だが、異なる種族が三人だけここに居た。
 一人は獣人の姿をした祈念者、そしてもう二人は瓜二つな顔をした普人族の自由民。


「アリィさん、アリスさん……その、反応がありました」

「オーケーだよスオーロ君。あとは万事、このアリィ様にお任せあれ!」
「はいはい、あんまり無茶しちゃダメよ……そうは言っても限界はあるの。貴方の人形の方はどう?」

「は、はい! 今のところ損壊はゼロ……ですが、かなり特殊な牙を持っているようで、修復が必要な物が何体かあります」


 天真爛漫を地で行く笑顔の少女と、冷静沈着を地で行く無表情の少女。
 まったく同じ顔でまったく異なる表情を浮かべ、互いに互いを支え合っている。

 この地を守護する獣人の祈念者スオーロもまた、今回彼女たちの指示に従う。
 すでに戦いは始まっており、斥候隊の人形がキメラ種の魔物から攻撃を受けていた。


「うーん、とりあえずアリィたちがやっておいた方がいいか──“形無き兵軍トランプソルジャー”」
「戦力差をきちんと把握しておいた方がいいわ──“順位付けランクセット役無き者たちナンバーズ”」


 それを聞いた彼女たちは、どこからともなくトランプを生み出して宙に放る。
 二人が背中合わせに手を繫ぐと、体に1から10の数字が刻まれた兵士が出現した。


「うん、これでよし!」
「倒された数字で相手の力量をだいたい把握できるわ。こんな感じで、そっちの人形も温存しながらにしなさい」

「わ、分かりました!」


 ずいぶんとまあ尻に敷かれているが、紹介してから数日が経っている。
 彼女たちがどれだけ強いのか、彼も充分に理解しているようだ。


《──なら、俺がそこまで長居する必要は無いみたいだな》

「あー、メルス、いつ来てたの!?」
「そうね、後で頑張ったご褒美をアリィにあげてちょうだい」
「そ、それならアリスにもあげてよね!」

《了解っと。いっしょにゲームでもしてみようか、内容はそっちにお任せで》


 ここが激戦になるのは、10の兵士たちがやられた後だろう。
 1でもレベル100相当なのに……うん、だいぶ後になりそうだ。



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