AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と大規模レイド前篇 その01
≪──『ワールドクエスト:混乱の獣、荒れ狂う大牙』が始まります≫
その日、その声は響いた。
人々は驚き戸惑い、行動に迷う。
いかに分かっていたことと言えども、実際に起きたという認識は覆せない。
祈念者たちが事前に広めていたものの、それがどれほど危険な物なのか……曖昧な受け止め方しかしていなかった。
しかし、ソレは人々がもっとも分かる形でその証を示す。
世界に響いた声、それは限られた自由民や祈念者だけが聞き取れる声……ではない。
──────ッ!!
鼓膜が破けると思えるほど、耳に痛みを感じさせる咆哮。
それは大陸中……否、世界中に響き渡るほどの声だった。
人々は知る、己が鳴らす警鐘で。
本能が、生存欲求がただ叫ぶ、命が惜しければただ逃げ惑えと。
ここに始まりは告げられた。
世界すら喰らいかねない獣たちの食事は、名もなき誰かの産声と共に。
□ ◆ □ ◆ □
始まりの街
「……ついに始まったか。さて、みんな張り切って防衛してくれよ」
今回、俺が表立って魔物たちを処理するつもりはなかった。
眷属たちが頑張ってくれるので、俺はいつも通り縛りプレイでふらふらする予定だ。
周囲の祈念者は盛り上がっている。
それは初心者も熟練者も関係なく、一種のお祭り騒ぎだ……俺は知らなかったが、いろいろと配布されているんだとか。
クエスト中しか使えないポーションだったり、魔道具だったり……まあ、ごく一部を除いでそこまでレアではないそうだ。
「けど、経験値の増加が見込めるポーションは凄いよな。生産神の加護でも製法が分からない、運営がシステム的に用意した物ってリオンが言ってたけど」
理屈は教えられないと言われたが、直接アバターに作用させているアイテムらしい。
なので祈念者専用なのだが、それでもレベルがすぐに上がるのは誰でも嬉しいだろう。
そんななので、現在街ではとある魔道具が善意の人々によって配布されている。
それは微量ながら、固定ダメージを発生させるという代物……経験値稼ぎ用だ。
事前に称号獲得に影響を及ぼすかもと言っているが、大抵の初心者は受け取っている。
……ちなみにだが、例の生徒たちには使わないように言ってあります。
すでに不要な程度にはレベル上げが終わっているので、持たずとも問題ないのだ。
これまでの教え子たちと違い、特別な武器なども渡していない……頑張ってくれ。
「さて、しばらく遊んで待つとしますか──“万色魔力”」
一人でヒャッハーしても、目を付けられるだけだろう……なのでしばらくは、霧の都でやったように属性魔力を練り上げて時間を潰す予定だ。
周囲からは隠蔽系のスキルで気配を掴ませず潜み、ただ黙々と魔力を練っていく。
ただし、意識はだんだんとこの場から遠のいていき──別の場所へと向かっていた。
◆ □ ◆ □ ◆
サルワス 近海
港町であるサルワスから海へ出て、広い海へ意識はやってきている。
今回のクエスト中、ここではキメラ型の魔物たちが海から街へ侵攻を行う。
なので今回、町の人々は有る船を可能な限り海に出して防衛をする……のだが、未だに持ち込んだ弾薬の一つも、彼らは使っていない──正確には、使う必要ができていない。
その理由は彼らの眼前……いや、上空で不敵な笑みを浮かべる少女──グー。
狐耳と九つの尾をふりふりと揺らし、眼下の魔物たちを見下ろしている。
「ふむ……なかなかタフな個体だね。使う魔法に縛りがある以上、試すことのできる組み合わせが少ないのが残念だよ」
指を鳴らせば、彼女の前方のみが凍り。
目線を動かせば、その先に地面が現れる。
海に適合したキメラ種の魔物たちは、打ち上げられてもなお町へと突き進む。
だが、彼女の気まぐれが降りかかれば、その本願を達する前に息絶える。
「代替詠唱は成功。少々必要魔力が増えるけど、本来唱えるべき詠唱を省略できるのは戦闘向きだね。マスターの民たちには、覚えさせた方がいいかな? ふむ……動きの大きさと消費魔力に関連があるみたいだね」
そう言いつつ、サッと手を振るグー。
すると今度は海水の一部が巨人となり、体内に多くの魔物たちを捕え始めた。
逃げようとする個体も居るが、中心部に引きずり込まれていく。
また、海水の巨人は抱擁するような挙動で魔物を追いかけ、新たに取り込んでいった。
「あとは海水を調整して、魔物たちの核部分だけを抽出……『さぁ、始めてくれ』」
魔法で声を届け、彼女が視線を向けるのは待機していた船。
言葉を聞き、船長たちはすぐに指示を──砲撃の準備を行わせる。
「ふぅ……これでミッションは達成かな? どうだい、マスター?」
《ああ、グッジョブだなグー。まあ、少しばかりやり過ぎた感も否めないが……細かいことは気にするな!》
核が露呈した魔物に砲撃が当たり、次々と絶命していく。
撃つだけの単純な作業……心なしか、彼らのこれじゃない感を察知してしまう。
まあ、命あっての物種だ。
そこまでカバーしてやる気も無いので、我慢してもらおう。
「こっちは海だからね。初期からレベルの高い個体が多いみたいだけど、その分後続の魔物のレベルもあまり変わらないようだね。第二段階とやらがあるのなら、話は別なんだろうけども」
《とりあえず、あるって前提で警戒を。それ以外はグーのやりたいようにしてくれ。そうそう、さっきのヤツがカッコよかったからやり方を教えてくれ》
「了解したよ、マスター」
意識体だけでグーと会話を行い、キメラ種の解析情報を教わる。
……おそらく俺、今回のクエストの展開を誰よりも知ってしまったな。
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