AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド直前 その10



 俺が彼女たちを探していたところ、辿り着いたのがここだった。
 青い空に白い雲、防波堤に波が打ち付けられる音が迎え入れてくれるこの迷宮。

 そこで見たのは、彼女たちが釣りをしている光景。
 なお、バケツの中はいっぱい……ちょうど魚を釣り上げたタイミングだった。


『──釣りをしましょう』


 どうやら予めペルソナを誘っていて、それに応じた結果なんだろう。
 その理由はさっぱりだが、俺もお嬢さんに誘われて釣りを行っている。

 それから俺も釣りを始めたのだが……ここで一つ問題が。


「なんで俺が釣ろうとすると、さっぱり釣れなくなるんだか」

《め、メルスさんの気配が強すぎる、からかもしれませんね》

「……なら、俺が距離を取れば釣れるようになるのか? それなら、すぐにでも移動した方がいい──」

「あら、ワタシは三人で釣りがしたいのよ。離れないでちょうだい」


 だが、俺が来てから釣れなくなったのは事実……いちおう気配などは極限まで遮断しているつもりだが、魚が本能で俺を回避している可能性もゼロではない。

 チラリとペルソナの方を確認するが、まあ見た目は全身甲冑なので表情など不明だ。
 だが、この世界で長年(数年ほど)の付き合いになるので、苦笑いしていると感じた。

 要するに二人ともここに居ていいと主張している以上、無理にこの場を離れるというのも変なことになる……大人しく釣り針を海に沈めると、お嬢さんは再び自分の竿を見る。


「…………」

《「…………」》

「……釣れないな」


 周囲を見渡すと、釣り人たちが気まずそうにこちらを見ていた。
 そりゃそうか、世界の創造主(笑)が現在進行形で坊主(成果0)なんだもの。

 なのに自分はしっかり釣っていて、その内容に満足している。
 ……若干ながら、釣れてない側の俺も罪悪感を覚え始めたよ。


「……お嬢さん、一つ宜しいかな?」

「何かしら?」

「釣れなくても会話はするし、むしろ連れた方が会話は円滑になるって知ってますか?」

「あら、知らなかったわ」


 俺がこんな意味不明なことをお嬢さんに話した理由は、嫌にでもすぐ分かる。
 なぜならお嬢さんが俺の主張を理解したその瞬間、ペルソナの竿が引いたからだ。


《き、来ました──釣れました!》

「やっぱりか……お嬢さん」

「……知らないわ」


 思い出すのは彼女と初めて出会った頃。
 俺たちの釣れ具合は、まるで彼女の意思通りに変化していた。

 それもまた、『選ばれし者』の特権なのだろうかと疑ったほどだ。
 事実、彼女が鼻歌を奏でた辺りは、異様なほど魚が海中で待機していたし。

 なので今回も、そういうことなのではと思い口に出して伝えてみた。
 その結果がこれ……本当、何かしらの運命が動いている気がする。

 ──こんなところで動かずともいいのに。

 それからは時々魚がヒットしながら、彼女たちと会話を楽しむ余裕ができた。
 お嬢さんもそれに納得したのか、以降は釣れなくなる事態も起きていない。


「──なるほど、ペルソナはどこでも問題ないわけだな。なら、俺の言う場所を守ってもらいたい」

《分かりました》

「お嬢さんだが……細かい部分はあの親衛隊に任せておこう。むしろ、お嬢さんの支援ができる魔道具でも用意しておくから、本番はそれを使ってくれ」

「楽しみにしているわね、お兄さん」


 そんなこんなで釣りをしながら、今後の予定についても纏める。
 それから釣りが終わるまで……俺の成果は指の数ほどしか無かった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「……そうか、二人は忙しいか。ノロジーとセイラはそっちのクランとして、自由民たちの救援を頑張ってくれ」

《すみません。『ユニーク』としても、今回の防衛はなんとしても成功させないといけませんので》

《クエストの前哨なのか、すでに発生源から逃れる魔物たちの対所に追われていまして》

「気にしなくていい。何かあったら、すぐに連絡してくれ。正直、暇なことの方が多いからな……ポーションとかもだいぶ余っているから、頼ってくれて構わない」


 感謝を述べてくる二人との連絡を切り、別の相手との連絡を繋げる。
 ただし便利な念話ではなく、今回はウィスパーでの連絡だ。

 座標が分からない以上、念話を繋げることができないからである。
 そう、それはつまり連絡先が眷属では無いということだ。


「──かくかくしかじか。そんなこんなで、三人は今回は自由。やるもやらぬも君たち次第ということで、好きにしてくれ」

【前半がまったく意味不明なんだが? まあ最初から、連絡が無ければこっちで好き勝手するつもりだったけどよぉ】

「まあ、俺も今回は忙しくてな。そこまで暗躍はできないんだ。なら、待機させておくのも勿体ないし、自由にさせた方がいいんじゃないかって考えだ」

【……了解しました……】
【では、こちらも自由に動きますね】


 ツッコミ役一人に暗殺者が二人。
 彼らと音声で連絡を取り合い、すぐに予定は決まった。

 ……気になるのは暗殺者の片方、念話は下手だが[ウィスパー]なら問題ないようだ。


「自由にしてもらうってのも、ある意味依頼みたいなものだからな……まあ、今回は無難に金銭ってことで。あっ、自由民を殺すのだけは無しだからな」

【へいへい、了解ですよ】

【……心得ています……】

【私も祈念者はともかく、自由民を殺す気は無いのでご安心を】


 うん、いつもより聞き取りやすいや……失礼なことを考える俺だった。



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