AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド直前 その06



 始まりの街 冒険ギルド


 ワールドクエスト勃発ということで、有力なクランが呼ばれての会議が行われている。
 前回新人たちのために集まっていたが、そのとき以上にクランの数が多い。

 関係者の居る街などはだいたい巡り、暇になっていた俺はその会議に混ざっていた。


「えーっと、いつまでこうしていればいいのかな?」

「……もうしばらくです」

「さ、さっきも聞いたんじゃないかなー?」

「…………」


 広い会議室でクラン同士で話し合っている中、俺(妖女)はクラーレに抱かれていた。
 ……ぬいぐるみのように、ただ抱っこされていると言った方が良かったか。

 思い返してみれば、最近は彼女たちも強くなり俺を必要としなくなった。
 なので俺の方から訪れない限り、こうして顔を合わせなくなっていたような気がする。


「ねぇねぇ、シガンお姉ちゃんや」

「なに、メル妹や」

「……。どういうこと?」

「クラーレのことなら、メルニウムが足りないって前に言っていたわよ。呼び方はただのノリよ」


 まあ、俺も時折眷属成分が足りなくなるので、それ自体は構わないんだけども。
 なんというか、周りの目が気になるというか……生暖かいんだよな。

 男がやっていれば殺意がいっぱいだっただろうけど、見た目的にはどちらも女。
 女の子が人形を抱えている風な絵面は、心が癒されるというものだろう。


「……メルは、わたしたちと居たくはありませんか?」

「そんなことないよ。ますたーたちはとっても優しいし、いっしょに居て楽しいもん」

「でも、全然来てくれなくなりましたし、それに……」

「それに?」


 ひどく言いづらそうに含みのある顔をするクラーレ……だがしばらくして、ゆっくりと口を開く。


「……メルちゃん、新しい女の子たちを見つけたんですよね?」

「…………ん?」

「だから、わたしたちとはもう会わないことにしたんじゃな──ッ!?」

「“静寂サイレント”……ますたー、あんまり大きな声で話しちゃダメだよ」


 このままだと叫びそうだったので、その直前でどうにか音漏れを防いだ。
 お陰でこちらを見ていた人たちも、別の方向を見始める。

 いったいどこから聞きつけたのか、研修を受けた三人組のことを言っているようだ。
 しかしクラーレの顔は真剣で、正直泣き出しそうなものだった。


「……えっとね、ますたー。私って、そんなダメな人に見られているのかな?」

「グスンッ……はぃ」

「じゃ、じゃあ、私じゃなくて、あっちの方はどう思って──」

「最低の変態です」


 パッと泣くのを止め、そこだけ真顔で応えるクラーレ。
 メルスとメルの評価が、思いっきり分かれているよな……。


「ますたー、私としてあの娘たちに会ったことはまだ一度も無いし、そもそも誰からその話を聞いたの?」

「……ユウさんです」

「それ、絶対にからかわれているから。私はナックルとしか話してないし、知っていてもちゃんとは分かっていないと思うよ。あの娘たちはとりあえず一月だけ教えるだけだし、そもそも私はますたーを捨てたりしないよ」


 どうして俺が、彼女たちを捨てるという考えになるのだろうか。
 彼女たちが俺を捨てることはあっても、その逆は無い……偽善者は割り切れないのだ。


「私はますたーを欲しい、だからその証をますたーに刻んだんだよ」

「……眷属の印ですか?」

「たとえますたーが逃げたって、その印がいつまでも私とますたーを繋ぐんだよ。もしこの台詞、あっちの姿で言ってたら気持ちが悪いって言われそうだよね。あははっ、忘れてくれていいよ」

「いえ、忘れませんよ」


 ますたーと感無量な声を出したくもなったのだが……その前に一言。


「──録音しましたので」

「ますたー!?」

「いえ、なんとなくいいことを言ってくれそうでしたのでつい……安心してください、永久保存版にします!」

「本当に止めてよね!? あーもう、言わなきゃよかった!」


 最悪、レイさんかリオンに土下座して消してもらった方がいいだろうか?
 だが彼女の笑顔を見る限り、しばらくは様子を見た方がいいのかなぁと思うのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 他のクランに比べ、シガン率いる女性限定クラン『月の乙女』が優れている点。
 それは出自不明な空飛ぶクランハウスにより、どこへでも安定して移動できるところ。

 今回のレイド中、様々な問題で長距離の転移が行いづらくなる。
 個人の魔法であれば可能だが、装置の場合は混雑や暴走時を考慮して停止するからだ。

 ……魔物に壊されたとき、エネルギーが暴発すると街が吹っ飛ぶからな。
 ならば一時的に使えなくしてでも、その危険性を排除するという考えらしい。

 当然、陸路での移動にはレイドの魔物たちが立ちはだかるのですぐには不可能。
 そうなれば、陸路よりは安全な空路での移動ができる彼女たちは目を付けられる。


「──そういうわけで、メルとクラーレがイチャコラしている間に遊撃の担当に私たちはされたわ。足代わりにするって考えも挙がりはしたけど、さすがにそれだとクエストに参加できないもの」

「い、イチャイチャなんてしてません!」

「はいはい、自覚が無いならそれでいいわ。ともかく、当日は臨機応変な行動が必要になるわ。全員、心しておくように」

『了解!』


 そんなわけで、彼女たちがやるべきことも決まったようだ。
 俺は……どうしようかな、他の眷属たちの様子も見ておきますか。



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