AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド直前 その04


 山人の隠れ里


 アリィと共に訪れた大洞穴にて、奥に広がるのは山人たちが細々と暮らす里。
 今ではそこに土でできたとは思えない人形たちが働き、彼らをサポートしている。


「久しいな、スオーロ。アレから何か進展はあったのか?」

「魔王……どうしてここに」

「間もなくレイドイベントがあるだろう。おそらくここも狙われる、故に援軍をと思ってな。紹介しよう、アリィだ」

「──ふっ、よろしく」


 少々アレ……もとい、患っちゃった系な構えを取るアリィ。
 彼女にとっての冷淡さとは、こういった振る舞いをするということなんだろう。


「……大丈夫なの?」

「客観的事実さえ言ってしまえば、アリィに貴様は勝てぬ。いざ戦闘になれば、真面目に振る舞うであろう」

「であろう」

「……そう、なのかな」


 里に到着したときから、こんな感じで少々アレな感じになっている。
 アリスが許しているということは、ここに居る間ずっとそう振る舞うのだろう。

 ……ただ、冷静担当のアリスも、アリィと同じ存在である。
 要するに、同じポンコツを秘めているというわけだ。


「ずっとここに居るの?」

「必要に応じるつもりだったが、それを望むのであればそうしてもらおう。転移陣でも施しておくか?」

「それなら、ここの人たちを脱出させた方が速い……と思う」

「ここが安住の地である以上、安易な選択は愚策だぞ。受け入れ先はこちらで用意しておくつもりだが、あくまでも保険の話。貴様の力はヤツらを守るためのものだろう? その誇りを失わず、守護をすれば良いのだ」


 スオーロに奴らが求めるのは、強い想いの発露による覚醒のはず。
 そしてそれは、ギリギリでスオーロが勝てるものよりも、絶望的に勝てない方がいい。

 数と質、どちらで攻めてくるのかはまだ分からないが、推測だと確実なんだとか。
 だからこそ、ここにも眷属を派遣したかった……山人に罪はまったく無いのだから。


「では、我らの助力を受けるということでよろしいか?」

「──よろしいか?」

「えっと……うん、お願いします」

「ふはははっ、この魔王の手を取ったのだ。貴様にを襲う苦難困難すべてが無為となったと思うが良い!」


 犠牲が要るなんて、最初から当てにしなければいいのだ。
 その力が無くてもできるように足掻き、代わりを得るのだ……たとえば偽善者とかな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 スリース王国(N5)


 ネイロ王国を北上し、現実で言うところの寒冷地まで移動する。
 周囲を結界で包み、耐寒スキルで寒さを凌ぐこの国もまた、祈念者の辿り着いた地だ。

 だがその寒さ故に、あまり祈念者が定住しない場所でもある。
 今回のレイドでも、その数の少なさを狙う集団以外はまだ集まっていない。


「──というわけでして。よろしければ、再び私どもを雇ってみてはいかがでしょう?」

「……いきなり現れたと思えば、あのとき同様に唐突なことだ。だが、たしかにその提案は心強い。しかし……」

「あくまで私の求めるのは、偽善だけですのでお構いなく。せいぜい、冒険ギルドへ指名依頼でも出していただければ充分です」


 この国で俺が関係を持っているのは、ギルド長でも裏組織のボスでもなく貴族だった。
 カープチノ公爵家に上がり込み、今回の件で自分を売りこみに来た……というていだ。

 この国の王は幼く、政治判断は大人たちが代わりにやっている。
 俺が偽善をした事件のこともあり、王様はこの公爵をかなり信用していた。

 要するに、この提案は互いに利のある話ということだ。
 俺は偽善を楽しめるし、公爵家は更なる信用と功績を得ることができる。


「……他に何か要望はあるかな? まさか、私の娘を──!」

「いいえ、見ての通り不満はございませんので。それよりも……というのは失礼ですが、娘さんはどちらへ?」


 隣に座る眷属を見ながら答えれば、親バカな公爵も納得の表情。
 顔を出していない彼女がどこに行ったのかなんとなく気になったので、聞いてみる。


「今は学院だな。知っているかい、ライフィア学院を?」

「一度訪れたことがありますよ。学院などには寄れませんでしたが、いずれはあの地で何かをしたいですね」

「ははっ、君が言うと例の偽善に繋がりそうだね。ただまあ、もしもの時は頼むよ?」

「……そうですね、あそこにも用はございましたので。ええ、考えておきましょう」


 学生としてではなく侵略者としての来訪ではあったが、まあ似たようなものだろう。
 それに、いずれと言ったこともあながち嘘では無いしな。


「では、私たちはこれで。侵攻が始まる直前には、こちらを彼女が訪れるでしょう」

「……普通なら、信じられない言葉だよ」

「ですが、貴方ならば信じていただけるはずです。必ずや、この地の民たちを襲い来る脅威より守護してみせましょう」


 公爵家にお世話になると、後々面倒なことになりそうなので止めておいた。
 実際、ある程度兵士たちが戦ってから動く冒険者なども居るのでそれよりマシだろう。

 彼らの経験を奪うと言うのは、それはそれで酷な話だ。
 スオーロの時とは違い、彼らはそうして守ることを対価に金銭を得ているのだから。

 ともあれ、今回のレイドで眷属たちには単独での無双は可能な限り控えてもらう。
 九割以上は祈念者が引き起こした問題ではあるが、発端そのものは自由民だしな。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品