AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大規模レイド前篇 その02



 どうやら割と難航しているようで……眷属たちの場所決めには時間が掛かっている。
 なので、俺は俺でできることをやっておくことに。

 一度場所を変え、始まりの街でもっとも安全な場所へ。
 そこで待つ彼らにも、ワールドクエストのことは伝わっているだろうし。


「──前回とは、また違った形での祭りとなるわけだ」


 そう呟くのは、始まりの街でもっとも強いであろう裏社会の頂点である『ボス』。
 用意した菓子折りを食べてもらいながら、これからのことを話し合う。


「そういうことですね。この街にも、当然襲いかかってくることでしょう」

「厄介な話だ。しかし、この街にはアレがある……守り通すのが仁義であろう」

「ありがとうございます。あっ、こちらから一人派遣します。何をすればいいのか、指示の方をお願いできますか?」

「構わない。お前の関係者ならば、どんな者であれ役に立つだろう」


 それなりに信頼は得ているようなので、誰が来ても大丈夫だとは思う。
 ……いちおう、問題児だったら失礼が無いようにさせてはおくけども。


「それで、ここに来た理由は……アレを使うためか?」

「そうですね。一気にやった方が、手っ取り早いと思いまして」

「分かった、すぐに準備する」


 彼女に用意してもらったのは、水晶型の魔道具だ。
 何度か触れて、魔力を流し込むと──水晶が光って何かを投影する。

 そこに映るのは、イケメンと渋メン。
 それぞれが異なる場所で海賊とヤクザ的なことをして、裏社会を牛耳っている人たち。


「リーダー、オジキ、お久しぶりです」

『ええ、真リーダーさんも』
『ついでに、親分もな』

「……どっちもやりませんから、そっちでお願いしますね。それより、今回の件はそちらでも把握している通りです。神々の少々無茶な試練ですが、そちらはどういった対応をされるのでしょうか?」


 一番最初だけは全自由民にアナウンスをしていたらしいが、今の運営神は神官たちに神託を出して指示を行っている。

 クエストも試練とかなんとか言い、重要なものなら協力するように言っているそうだ。
 まあ、そんな優遇はめったにないし、特殊例を除けばほぼ『選ばれし者』のみだがな。


『こちらはドナードと協力して、なんとかしてみる予定だったね。神託によると、どうやら襲ってくるのは海からのようだし』

『こっちはあの皇帝様が、武器を集めようとしているな……どっかの誰かさんが国庫を空にしちまったから、苦労しているみてぇだけどよぉ』

「……空にしたのは隠してあった方で、そっちには手を付けてませんよ。でも、襲ってくる範囲か。それが分かっていれば、対策もしやすくなるよな」

「ちなみにここは、全方位だぞ」


 周囲に何も無い地形が数百メートルは続く街なので、それは仕方ないか。
 何より、一番祈念者が集まりそうな場所なので、それに合わせたのだろう。

 それ以外の場所が制限されているのは、そうでもしないと防ぎきれないから。
 祈念者が居ても居なくても、全方位から同時に攻められるのはな……。


「まあ、それは魔物たちにそうした命令が下りているから……ということにして。俺の方から一人、眷属を派遣します。正確には、そうしないと俺が酷い目に遭います」

『かーっ、尻に敷かれているな親分! 構わねぇよ、早々に蹴りを付けねぇとガキどもが不安がるからな。どれだけ戦力が合っても足りやしねぇさ』

『こちらも大歓迎です。可能であれば、水か土を操れる方を……少々懸念がありまして』

「ん? ……ああ、伝わった。その要望に合わせた眷属がたぶん行くと思う」


 アンが即座に連絡してくれただろうし、対応できる眷属が行くことになるはずだ。
 最悪、眷属なら“能力共有”で俺か他の眷属にできることなら、何でもできるか。

 海からの相手に対応するだけなら、一方向にカマせる眷属の方がいいのだろうか?
 まあ、俺に選択権は無いので、それはそれで楽しみに待っておこう。

 大切なのは、誰を向かわせるかではない。
 誰が行ったとしても、どれだけの結果を出すことができるのかである。


「ともあれ、今回のワールドクエストはかなり厄介です。死傷者数をゼロにするというのは、限りなく困難なはず。それでも、何としてもやり遂げたい。それが俺の決めた偽善だから……頼む、力を貸してください!」

『どうされますか?』
『どうするって言ってもな……決まってる』
「今さらだろう。わざわざ言わずとも、応えるのが仁義というものだ」


 彼らは俺の願いに応えてくれた。
 彼らなりの考えはあろうとも、協力してもらえることに変わりはない。

 偽善者という在り様も否定されない。
 それがどれだけ嬉しいことか、彼らは本当に分かっているのだろうか。


「この礼は必ず……! あ、代表者とかにはならないけどな」

『『チッ』』

「美味しいお菓子でも作りましょう。ついでに料理もたくさん用意して、終わったときにパーティーでも開いて」

「それがいい、ぜひともそうしよう。いや、そうするべきだ」


 お菓子好きのボスも賛同してくれたし、今後のことが決まればあとは速い。
 具体的に何をするのかは後回しにして、俺は次の場所へ転移するのだった。



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