AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と教育手伝い 中篇



 わけもわからないままに、クランハウスから出ての移動。
 そのまま黙々とついていくと、辿り着いたのは冒険ギルドの地下にある広い空間。

 普段は模擬戦やら訓練に使われているらしいが、貸し切りにでもしたのだろう。
 それが分かる理由はシンプル、見ればすぐに分かるからだ。


「……あのー、ナックルさんや」

「なんですか、メルスさん」

「案内された先に、凄いたくさんの人が並び立っていた場合……どういった反応をするのが適切なのでせうか」

「せうって……ここに居るのは、祈念者の新人たちだ。今回、『ユニーク』や他のクランで教育をすることになってな。いやー、ちょうどお前が来てくれてよかったよ!」


 そりゃあほとんどが初心者の服だし、そうでなくとも安い加工品しか装備していないのでなんとなく分かる……『選ばれし者』の候補は、居ないみたいだな。

 ならば用は無いと逃げようとするが、いつの間にか出口をナックルに防がれていた。
 もちろん、ごり押しで通れば行けるだろうけど……後腐れができるからな。


「お前はいったい、俺に何を望むんだ?」

「たしか、お前は縛りプレイをしてるんだよな? 最近は何を縛ってんだ?」

「特に決めてなかったな。まあ、望まれれば基本的に何でもやる偽善者だ。頼まれごとがあるなら、よしみでやってやる」

「さっきまで帰ろうとしていた奴が、よくもまあ抜け抜けと……いいや、事情を言うぞ」


 需要に供給が追い付いていなかったAFOだが、すでに現実では一年が経過している。
 それだけあればだいぶ追いつき、海外からのログイン勢も増えているそうだ。

 言語系のスキルかアバターの影響か、彼らとの会話もスムーズに行える。
 そうしてどんどん新人が増え……今に至るようだ。


「なあ、そんなに多くの祈念者が全員ここに来ているのか?」

「いや、違うらしいぞ。同一サーバーが売りだから、別サーバーでは無いらしいが……外国からのログイン勢は、どうやら違う大陸にログインしているらしいんだよな」

「……例の大陸で合流したか?」

「あそこは居なかったな。たぶん、お前の眷属の方が見つけているんじゃないか?」


 アマル率いる英雄様御一行に、俺は別大陸の調査をしてもらっている。
 その目的は、眷属のうち追放されたヤツらなどの情報を集めてもらうためだ。

 だがまあ、祈念者ならばそれなりに特徴的なので見つけやすいだろう。
 そもそも、ここと同じ状況なら……初期地点の問題ですぐに見つかるはずだ。


「──とにかく。ここに居るのは日本経由で[ログイン]している祈念者だけ。俺たちは他のクランと協力して、彼らがスタートダッシュできるようにするんだ」

「具体的には何を?」

「まあ、希望に応えるんだが。とりあえず、各ギルドでも初心者に教えていることを、祈念者のマナーと絡めて伝える予定だ」

「ふーん、基本だな……俺、必要か?」


 そもそも、俺が居なくてもやる予定だった企画なんだから当然だ。
 ならば、どうしてナックルが俺を必要とするかが不明である。


「本人が望むことをやらせるんだが……人には向き不向き、良し悪しがあるだろう? そこでお前に二つ、頼みたいことがある」

「二つ……面倒臭そ──」

「一つ目は! 一つ目は、彼らの素質を視てほしい。たしか、鑑定眼とかいうスキルがあるって前に言ってたよな? それで可能な限り、調べてほしい。誰もまだ、習得していないスキルなんだよ」

「……まあ、そりゃそうだろうな」

 それ自体は神眼スキルが無くとも、習得可能なスキルではある。
 しかし、知り得る限り複数の鑑定系スキルが統合に必要なので……難しいだろう。


「まあいいや。それぐらいなら、俺にも利があるし。で、二つ目の方は?」

「二つ目は──」


 ナックルが話す二つ目の提案は、正直なところ予想していた面倒なことだ。
 しかしそれでも、ナックルの熱意に負けたこともあって……引き受けるのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


『──というわけで、全体での説明は以上となる。ここからは自分のやりたいことに合わせて、各ギルドに関する説明をする。各自、自由に移動を始めてくれ』


 ナックルの指示に従い、新人たちは移動を開始する。
 やはり冒険ギルドが一番、次に多いのが生産ギルドだな。

 ちなみにグレーな暗殺ギルドなどは、当然ながら説明を行わない。
 ……が、中継役として狩人ギルドと呼ばれるギルドで説明を聞けばヒントが掴める。

 冒険ギルドと違い、主な狙いは魔物ではなく野生の動物や低位の魔物だ。
 そして、その裏では対人特化の依頼などを受ける暗殺ギルドにもなっているんだとか。


「それで、どうだ?」

「とりあえず、ここに居る奴ら全員の素質は書いておいた。それに一番近いスキルも書いておいたから、そのスキルの成長速度で本人のやる気を確かめればいい」

「お、おお……凄いな。というか、これ新人だけじゃなくて本当に全員分かよ」


 合法的に視れるいい機会なので、全力で調べた結果をナックルに渡した。
 剣の才能があれば剣術、勘が鋭いなら直感か空間把握を、みたいな感じで。

 後者で分かるように、本人が考えているものと若干のズレがある場合も存在する。
 鑑定眼はその辺りのフォローもしてくれるので、本当に助かります。



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