AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とセッスランスの決闘 中篇



 眷属同士でやり合う場合、システム由来の攻撃は無しで模擬戦を行っている。
 要するに武技・魔法のオート実行は禁止、ただし手動ならばOKといった感じだ。

 装備の効果は特に気にせず、本人たちで決着などは任せてもらっている。
 スキルは完全に自由、眷属によってはスキルに依存して戦う奴もいるからな。


「「──疾ッ!」」


 共に相手に向かって駆ける。
 彼女は宝剣を、俺は宝玉を手に。
 毎度お馴染み『模宝玉』ことギーは、すぐさま俺の意思に応じて変形を行った。


「そのような武骨な剣でなくとも、この宝剣でもいいのだぞ!」

「……なんというか、宝剣を使うからどうこうと言われるのもな」

「それは、残念だ!」


 鍔迫り合いのようなことはせず、軽く打ち合っては距離を取る。
 まずは様子見、まだ温まっていない体を少しずつ温め──ギアを上げていく。


「火よ!」

「なんの、水よ!」


 剣身に属性魔力を纏わせ、再びぶつける。
 ぶつかり合って、水蒸気が──ということも起きず、水は一瞬で火に焼き焦がされた。

 赤色の世界は火の理が強い。
 あらゆる相剋よりも、火が万物を燃やすという現象が優先されるのだ。

 それ以上に魔力をごり押せば通常通りの相剋にも、逆に打ち勝つこともできるが……序盤で魔力を無駄遣いするわけにもいかない。
 甘んじて受け入れ、そのまま続行する。


「どうした、貴公には手札がもっとあるはずだろう!」

「オーケーオーケー──身力操作っと」

「ならば私も──“赤丹解放”」


 俺が彼女に渡した指輪から、赤色の気功が溢れ出す。
 体内を巡りそれらは彼女と同一化し、その身に灼熱のオーラを纏わせた。

 単純な身体性能の強化も行われ、おまけに熱ダメージをこちらに与えてくる。
 それを防ぐため、精気力で熱を緩和するような膜を展開しておく。


「その剣のままでいいのか?」

「うーん、そこまで心配されると俺も悪い気がしてくるなー。ギー、頼む」


 彼女の返事を表すように、一瞬ピカッと輝いた後に剣が変形を始める。
 祈念者の眷属にかつて渡した、代償で強くなる騎士剣──『制約誓剣』になった。


「“誓約”──要求:身体強化。対価:武技と魔法の封印」


 そもそも使っていない物を、あえて捧げることで効果的に力を得ることができた。
 底上げにちょうど良かったので、燃える彼女に対抗すべくもう一つ誓う。


「“制約”──実現:水属性の強化。条件:その他の属性封印」


 制約、そして誓約。
 要求に応じた対価を支払う“誓約”に対して、“制約”は条件を宣言して実現したいことを言うだけ。

 絶対に発動しなくてもいいので、維持コストを抑えたいときなどに使う方法だ。
 まあ、相応の条件を提示すれば、“誓約”にも負けず劣らずの効果を発揮できるけど。


「準備良し。第二ラウンドの開始だ」

「ずいぶんと待たせたものだ。その程度で、私を満足させられるのか?」

「さてな。けどまあ、楽しませることぐらいはできると思うぞ。戦いでも、それ以外でもそうしてやるよ」

「ならば、そうさせてもらおう!」


 剣をぶつける、先ほどは火が圧倒だったはずのそれは──水蒸気を生み出す。
 強化によって水属性は同じ出力でも威力が上がり、対抗できるまでになっていた。

 普通にやり合うことができるのであれば、そこからは剣技で競うことができる。
 俺はティル師匠仕込みの剣技で、彼女は自身で磨いた宝剣ありきの剣技を。

 国で継いできたその宝剣は、王が先陣を切り無双できるような仕掛けが施されている。
 そのため、肉を切らせて骨を断つというようなやり方も可能なのだ。

 本気でやると言った以上、そういうやり方でも俺は全然構わない。
 むしろ、好ましいだろう──想いに応えるべく、目を凝らして剣を振るう。

 水蒸気が少しずつ視界を曇らせる。
 彼女自身に届かずとも、その目が映す光景に若干の誤差を生み出すことはできた。

 彼女がそれを嫌がり距離を取ろうとするなら、俺はそれを詰めていく。
 たとえ赤丹で強化されていても、どう動くかは彼女の経験によって決まる。

 その方向を予測し、近づいていくだけ。
 外れればその時間に溜めが行われ、強めに一撃で苦戦する……そうならないためにも、一度として間違えるわけにはいかない。


「綱渡りではないか!」

「はっ、だからこそ盛り上がるんだろう? ここから俺の何が分かるんだ?」

「貴公が私の言葉を、思いを、意図を受け取ろうとしていることだな!」

「……さぁな。けど、だんだん熱くなっているのはよく分かるぜ。なあウィー、このまま盛り上がっていいのか?」


 あることに気づいたからこそ、俺は彼女にそう訊ねる。
 真剣勝負だからこそ、何一つ逃さないようにと気を這っていたからこそ分かった。


「……バレてしまったか。だが、それでも続けよう! メルス、貴公のすべてを私に見せてみろ!」

「はいはい、分かりました分かりました──“限界突破”じゃぁああ!」


 彼女が求める戦いには、より激しい闘争が必要だろう。
 この場を整えてもらったのだから、ありがたく戦わせていただこうじゃないか。



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