AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とセッスランスの決闘 前篇
赤色の世界 セッスランス
この国はすでに滅んでいる。
邪神の眷属による『魔物たちの騒動』で、成す術もなく潰えた地──だがしかし、民が根絶やしになったわけではない。
何より、亡国の姫が生きている。
彼女が諦めない限り、国を愛する民たちもまた諦めなかった。
「その結果生まれたのが紅蓮都市、移住希望だった奴は全員到着したらしいな」
「だいぶ前の話だがな。放蕩の王では、気づくこともできなかっただろう」
「まあな。偽善者だから、一度救った先にあまり目を向けないんだ。そこから先、俺の手なんて借りないんだろう? なら、俺が居る必要もあまりないさ」
事実、緊急時には呼んで欲しいと言っておいたが、そんなことは一度として無かった。
それはこの世界に、俺と言う偽善者の居る場所など無いということなのだろう。
この国に住んでいた者たちは、都市へと移住してそこで生活している。
だが、それでもと願われた──俺はそれに応え、ここへ繋がる転移門を用意した。
それ以降、彼らはこの地を復興しようと励むようになっている。
毎日ではない、だが時に訪れては少しずつ街の形を整えていった。
「何を卑屈なことを。彼の都市は貴公を、真なる王を待ち望んでいる。だが同時に、理解しているのだ。放蕩を謳う王が、いついかなる時も救い手であることを」
「救い手って……なんかもう、昨日グダグダしていた自分を恥じたくなるだろぉ」
「ふっ。王たる者、民に恥じない振る舞いを心掛けることを勧めるぞ。模範……にはなれないだろうが、抱かれているイメージは大切にした方が良い」
「んなことを言われても……俺にそういうのは向いてないんだよ。お前だって、そう思うだろ。なぁ、お姫様なウィーさんよぉ?」
奴隷になっても諦めず、最終的に大都市の主として君臨している成り上がりの女王。
赤色の世界では、新たな伝説として本まで出版されている有名人な彼女。
誰かの手本となる人間というのであれば、まさに彼女こそがそれに値する。
だが当の本人は首を横に振り、それを否定していた。
「いいや、所詮私など小娘に過ぎん。貴公がこの世界に赴いていなければ、あのまま奴隷として身を窶したままだったであろう」
「そんなこと無いと思うがな……人間、持っている奴はいつも引きがイイ。俺が居なくても、何とかなったんじゃないか?」
「曖昧なことを。しかし、他ならぬ貴公が申すことならば、そうなのかもしれない──しかしな、私にとって起きた事実は一つのみ」
近づき、ジッとこちらを見てくるウィー。
少し頬が赤いのは、はたして暑さが原因かそれとも……。
「貴公が現れ、そこからは夢のように過ぎ去りていったよ。今や私は、この世界で伝説の象徴だった『赤王』になっている。そして、その夢は決して悪いモノではない……続きを見たい、続く努力をしたいと思えるほどな」
「そうは言っても、そこまで何か凄いことをしたつもりは無いんだがな。結局、何でも頑張ったからだ。ウィーのその意思が無かったら、『赤王』は誰かの物になっていたよ」
王族の承認を得て、その座に執着していたアンデッドを倒し……この世界で最高の権威が彼女の物となった。
まあ、それは俺が頼んだから彼女が引き受けてくれたのだが……そこは置いておく。
今では形だけの代物だが、その気になれば世界中の人々が彼女に平伏するわけだな。
彼女も彼女で亡き父の遺志を継ぎ、努力したために俺と協力している。
眷属でもある彼女の願いは、俺の願いでもある──フォローはする気満々なのだ。
「この世界の門を開くため、『赤王』の称号は必要だった。あのアンデッドは座には就いていても、条件は満たせていなかったし……遅かれ早かれ、誰かがこの世界を解放したいと願ったら、同じことになっていたはずだ」
「……この世界の者たちは、扉に気づくこともなく邪神の行いに悩まされていたがな。貴公が居なければ、そんな日常が今なお繰り返されていたことだろう。そうした意味でも、感謝されるべきなのだ」
「ウィーは、俺を贔屓目で見てるんじゃないか? ほら、いっしょにやってきたから、そういう風に考えているだけ──」
「貴公のそういった振る舞いは、あまり好ましくは無いな。あまり、こういった手段はとりたくなかったのだが……致し方あるまい」
何やら呟いたウィーは、常に持ち歩いている国宝たる剣[ハバカラズ]を引き抜く。
なぜ、このタイミングで……と思ったが、とりあえず危険そうなので少し距離を取る。
「武を語り合えば分かることもある。それがセッスランスの流儀という物だ。郷に入っては郷に従え、だったか? 貴公にも、ぜひこの地の流儀に従ってもらいたい」
「うーん、それはまあいいけど……せっかくだから本気でやるか」
《──“決戦結界”》
「結界……なるほど、祈念者たちの決闘と同じ物か」
「眷属はみんな、こういうところをすぐに察してくれて助かるよ。俺も俺なりに、全力で行かせてもらおう。ウィーも、それを望んでいるんだろう?」
これ以上の語り合いは要らない。
ウィーは剣を強く握り締め、俺もまた己が武器をその手に呼び出す。
……ルールなどは特に決めていないが、眷属同士でよくやる方式でいいだろうか。
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