AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と霧の都市 その25


 偽善者として、自我無き闇の精霊ジャック・ザ・リッパーを救いたいと願った。
 依頼主として、とっくにどういった形であれ救済したいとは彼女に伝えてある。

 とりあえず気絶させ、すべてが終わるまで隠しておこう……といった頭空っぽな解答をする俺より、数千万倍ほど優れたアンサーを導き出してくれるはずだ。

 ジャック・ザ・リッパー──以降は精霊と呼称──は虚ろな目を俺と彼女に向ける。
 運営に刻まれた命令に従い、殺すための作戦を立てているのだろう。


『──』

「先生、そちらに行きます!」


 精霊の特徴として、詠唱を必要としない魔法の発動が挙げられる。
 人よりも魔法に近しい存在なので、より効果的かつ効率的に使いこなせるのだ。

 闇の精霊であり、霧の性質である火と水属性も扱えるジャック・ザ・リッパー。
 純粋な戦闘力では劣る俺よりも、秘密を暴いた彼女を襲うことを選んだようだ。

 闇が重力を消し、火と水は身体強化などに用いて勢いよくジャンプ。
 同時に霧を操作し、彼女の視界を覆うように濃霧を作り上げる。


「そう来ると思ったよ」

「させるか──『場下隆起アップリフト』!」


 彼女の期待に応えるべく、術式を読み込み地面を媒介に起動。
 ジャック・ザ・リッパーが向かうよりも先に、俺は地面に押し上げられて上空へ到達。

 足に魔力を流し込み、精霊に干渉できるよう仕込みを行い──後頭部を蹴りつける。


「──『流星落脚シューティングスター』!」

『ッ──!?』

「ライダー、キーーーック!」


 精霊には物理攻撃が通じない。
 魔法による攻撃も、弱点属性以外は大して通らないためあまり無意味。

 彼の精霊は闇と霧属性なので、弱点は光と雷属性……そしてもう一つ。
 低スペックな俺は光魔法なんてレアな魔法は未だに習得できておらず、雷もまだ。

 だが最後の一つだけは、他の理由もあってどうにか習得できている。
 その属性の力も借りた影響か、霧に紛れようとした精霊を強引に蹴ることができた。

 そして、そのまま地面に押し付け、脚から魔法を起動。
 地面に干渉し、精霊が彼女の下へ向かわないよう食い止める。


「──“泥拘束マッドバインド”!」


 泥属性、水属性と土属性を複合することで生み出すことができる属性。
 本来の目的を果たす過程で得たこの属性魔法は……なんというか、粘着質だ。


「沈め──“泥沼スワンプ”!」

『──』

「ノゾム君、離れるんだ!」

「“縮地”……うわっ!」


 指示に従い、即座にこの場から離れる。
 その瞬間、精霊を留めるために生みだした沼が、突如として黒く染まった。

 侵食された闇の中から、ゆっくりと精霊が出てくる。
 拘束していたはずの泥の楔は失われ、縛る物が無くなった精霊が──俺を見た。


『──』

「『水鏡反響ミラーカウンター』!」


 言われるまでもなく、この後の展開は否が応でも理解できる。
 瞬きをしたその瞬間、俺の眼前には精霊が居て刃を振るい──相殺されていた。

 たとえ俺が認識できずとも、水鏡に収めることができれば自動的に発動する。
 映りさえすれば起動可能、強制的に攻撃を無効化できる方法を選んで正解だった。

 すぐに視力を強化できるスキルを起動し、改めて精霊を視る。
 少々不思議そうに首を傾げたが、再びこちらへ向かい──再び跳ね返された。


「けど……もう気づくのか!」

『──』

「くっ──“土壁ソイルウォール”!」


 水鏡を媒介にした魔術である以上、その仕組みを知られてしまえば無力化は容易い。
 精霊だからか、それとも本能か……闇で水鏡を覆うことで精霊はそれを突破した。

 水鏡を砕き、とっさに展開した複数枚の土壁を次々と砕いていく。
 そして、最後の一枚を砕いたときに俺と目が合う──反対側に張り付いていた俺と。


「──『奪力吸込ドレインパワー』!」

『──!?』

「からの──“身水脱木ディハイドレードウッド”!」


 魔術もまた、純魔力によって魔力の塊である精霊に干渉できる。
 俺の手が精霊に触れると、そこから凄まじい勢いで魔力を徴収していく。

 同時に、泥魔法を獲得した本来の目的である木魔法による干渉も実行。
 精霊……ではなく、その身に纏う霧から水分を根こそぎ奪っていった。

 二重の強奪には、さすがの精霊も黙ってはいられないようで。
 完全な無詠唱で闇の力を爆発、俺を吹き飛ばしたうえで闇の刃を二本飛ばしてくる。


「──『魔壁マヘキ』」


 だが、それは俺が防ぐまでもなく、彼女が代わりに魔術で防御してくれた。
 余裕ができた俺は、しっかりと回転して勢いを殺し、受け身も取ったうえで着地する。


「先生、この後はどうすれば!?」

「こればかりはどうにも。ただ、答えるだけでは不正解だったか……それとも、まだ答えるべき要素があるのか。いずれにせよ、時間が必要になる。最低限補助はするが、物理的な介入は難しくなるよ」

「構いません。先生は、先生の方法でこの事件の終息を。僕は僕のやり方で、なんとかしてみます」


 彼女にはそう伝え、推理の方に専念してもらうことに。
 偽善者なので正々堂々とは言わず、あくまでも俺のやり方としか言わないでおく。

 先ほど奪った水分は、掌に隠し持っている種に回された。
 魔力もたっぷり吸ったので、すでに発芽の準備は整っている。

 ……チャンスはそう多くない、なんとしても成功しなければ。



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