AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と霧の都市 その19
連続更新です(05/06)
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二階層は白亜の壁や床だった一階層と打って変わり、土くれの壁や床だった。
何より着眼すべきは、そこには無数の檻が広がっていること……そこは独房なのだ。
「ここにはかつて、囚人たちが収められていた……君たちの世界ではどうかな?」
「僕の記憶がたしかなら……はい、そうだったと思います」
あまり海外のことは調べていない俺、昔読書で得た知識を引っ張り出して思い出す。
王族を収容していたこともあるらしいが、それはここなのか別の場所かは不明だ。
「どうやら悪霊の類いはここで生み出されていたのだろう。無垢な子供たちをも巻き込んで、己の復讐に加担させていたわけだ」
「それは……許せませんね」
「死人に倫理を語ることは、愚かだと言われるだろう。それでも、救いはあるとボクは思う。善良な生き方、それをすることもできずに死んでいった者たちもいる……ここで止めなければならない」
俺たち生者の存在は、死人たちにとって恰好の餌。
それゆえに即座に気づかれ、悪霊と化した霊魂が俺たちに襲い掛かって来る。
「ボクが──」
「いえ、先生は温存を。見ての通りかすり傷一つ負っていませんし、先ほど休んだことで充分に戦えます」
「それはボクもなんだが……いや、頼れる助手君にお任せしようか」
「はい、任されました」
構えるのは“武装錬製”で生み出した剣。
休憩中にデバイスから自己での発動に切り替えたので、新しく異なる魔術の行使をできるようにしてある。
「──『斬ノ理』」
俺の持つ魔術の中でも一、二を争うレベルで消費魔力が尋常ではないこの魔術。
理を冠したこの魔術は、ありとあらゆるモノを斬り得る可能性を秘めている。
弱点も無効化も関係ない。
ただ相手がどれだけ魔力を割いて防御するかどうか、防ぐための術はそれだけだ。
霊体と向き合い、俺は力を溜め込む。
身体強化に関するスキルをすべて起動、思考系スキルで身力の制御を済ませ、脱力スキルでそれらを一瞬押し込め──解き放つ。
「夢現流武具術剣之型──『刹那由他』」
準備期間中に得ていた縮地スキルをさらに強化して、霊体たちの間を潜り抜ける。
その際に何でも斬れる剣を動かし、無抵抗の霊体たちを斬り続けた。
途中で縮地が切れたら、格闘術の武技スキルである“縮地”を発動。
それも切れたら歩行スキルで再現し、再使用可能になったスキルを使い、また武技で。
そうして彼女を残したまま進み続け、辿り着いた最奥の間。
何かが発生したと感じた場所に、空間ごと切り裂く刃を振るい──出現を阻止。
結果、二階層に居たであろうすべての霊体たちが核を斬られて消滅。
ゴゴゴッと音を上げ、三階層へと続く道ができたことを確認する。
「ふぅ……これで、よか、った……」
俺はそのことに安堵すると、そのまま前のめりに倒れ込む。
もう少しスマートにやりたかったが、残念ながらこれが俺の限界だ。
夢現流武具術、それは『偽善者』のチートスペックに合わせた武技の盛り合わせ。
結構な時間を掛け、それなりのスキルを得たものの……圧倒的に能力値が足りない。
そんな状態で、強引に再現した武技。
それは名前の通り、刹那の間に那由他の斬撃を放つという頭のおかしい技。
もちろん、実際にはそこまで速い斬撃を行えたわけじゃない。
……まあ、フルスペックの状態ならできないわけでもないけど。
だが相応に速い速度で、しかも未熟な体で限界を超えた動きをすればどうなるか。
それがこの現状──筋線維はズタボロ、体の内外が損壊して大ダメージだ。
「──『癒療』、『無吸』、“息衝”、“超再生”」
魔術、精霊術、武技、スキル。
四つの手段を用いて、彼女がここに来る前までに最低限の回復を済ませておく。
彼女もすぐに気づいてしまうだろうが、そうでもしないとここは突破できなかった。
ごくまれに発生する直感スキルの閃き、それが運よく今回発動したのだ。
「入った時点で増殖、霧は減るけどその分だけボスが強化……しかもそれは本体にまで影響する、なんて告げられたら急ぐよね」
上で休んだのは正解だった。
もしここで時間を掛けていたら、間違いなく面倒なボス戦になっていただろう。
有象無象を相手にしている間に、霧を取り込み強化するボス。
そしてそれをどうにか倒しても、最終的に戦うボスがよりパワーアップしている。
そんな展開を避けるためにも、超高速で倒す必要があった。
時間を短縮し、今後の楽を得るために……俺はこうして代償を身で支払っているのだ。
「──まったく、君は愚かなことをする。君に任せたボクの立場がないよ」
「お姉さん……」
「魔石はボクが回収しておいた。あとはそのボスの魔石だけだよ」
彼女は転がっていた大きめの魔石を拾い、“停滞穴”へと放り込む。
そして小さく溜め息を吐くと、彼女自身の魔術で“癒療”を使ってくれる。
「無茶はしないでほしい。君がそうしないといけないと焦燥感に駆られたように、ボクもまたそうさせた君の下に急がねばと急かされたんだからね」
「……その割には、歩いていましたよね?」
「…………走り続けるよりも、歩いていた方が到着する時間が速いこともあるのさ」
長時間の運動は、現在トレーニング中の彼女なのでそこは仕方がない。
しかしまあ、ツッコまれて顔を背ける辺り自覚はあるようで何より。
そんなほっこりに気づかれたようで、この後俺は長時間のお説教を受ける。
ある意味、普通に戦っていた方が良かったもしれない……そう本気で思うのだった。
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二階層は白亜の壁や床だった一階層と打って変わり、土くれの壁や床だった。
何より着眼すべきは、そこには無数の檻が広がっていること……そこは独房なのだ。
「ここにはかつて、囚人たちが収められていた……君たちの世界ではどうかな?」
「僕の記憶がたしかなら……はい、そうだったと思います」
あまり海外のことは調べていない俺、昔読書で得た知識を引っ張り出して思い出す。
王族を収容していたこともあるらしいが、それはここなのか別の場所かは不明だ。
「どうやら悪霊の類いはここで生み出されていたのだろう。無垢な子供たちをも巻き込んで、己の復讐に加担させていたわけだ」
「それは……許せませんね」
「死人に倫理を語ることは、愚かだと言われるだろう。それでも、救いはあるとボクは思う。善良な生き方、それをすることもできずに死んでいった者たちもいる……ここで止めなければならない」
俺たち生者の存在は、死人たちにとって恰好の餌。
それゆえに即座に気づかれ、悪霊と化した霊魂が俺たちに襲い掛かって来る。
「ボクが──」
「いえ、先生は温存を。見ての通りかすり傷一つ負っていませんし、先ほど休んだことで充分に戦えます」
「それはボクもなんだが……いや、頼れる助手君にお任せしようか」
「はい、任されました」
構えるのは“武装錬製”で生み出した剣。
休憩中にデバイスから自己での発動に切り替えたので、新しく異なる魔術の行使をできるようにしてある。
「──『斬ノ理』」
俺の持つ魔術の中でも一、二を争うレベルで消費魔力が尋常ではないこの魔術。
理を冠したこの魔術は、ありとあらゆるモノを斬り得る可能性を秘めている。
弱点も無効化も関係ない。
ただ相手がどれだけ魔力を割いて防御するかどうか、防ぐための術はそれだけだ。
霊体と向き合い、俺は力を溜め込む。
身体強化に関するスキルをすべて起動、思考系スキルで身力の制御を済ませ、脱力スキルでそれらを一瞬押し込め──解き放つ。
「夢現流武具術剣之型──『刹那由他』」
準備期間中に得ていた縮地スキルをさらに強化して、霊体たちの間を潜り抜ける。
その際に何でも斬れる剣を動かし、無抵抗の霊体たちを斬り続けた。
途中で縮地が切れたら、格闘術の武技スキルである“縮地”を発動。
それも切れたら歩行スキルで再現し、再使用可能になったスキルを使い、また武技で。
そうして彼女を残したまま進み続け、辿り着いた最奥の間。
何かが発生したと感じた場所に、空間ごと切り裂く刃を振るい──出現を阻止。
結果、二階層に居たであろうすべての霊体たちが核を斬られて消滅。
ゴゴゴッと音を上げ、三階層へと続く道ができたことを確認する。
「ふぅ……これで、よか、った……」
俺はそのことに安堵すると、そのまま前のめりに倒れ込む。
もう少しスマートにやりたかったが、残念ながらこれが俺の限界だ。
夢現流武具術、それは『偽善者』のチートスペックに合わせた武技の盛り合わせ。
結構な時間を掛け、それなりのスキルを得たものの……圧倒的に能力値が足りない。
そんな状態で、強引に再現した武技。
それは名前の通り、刹那の間に那由他の斬撃を放つという頭のおかしい技。
もちろん、実際にはそこまで速い斬撃を行えたわけじゃない。
……まあ、フルスペックの状態ならできないわけでもないけど。
だが相応に速い速度で、しかも未熟な体で限界を超えた動きをすればどうなるか。
それがこの現状──筋線維はズタボロ、体の内外が損壊して大ダメージだ。
「──『癒療』、『無吸』、“息衝”、“超再生”」
魔術、精霊術、武技、スキル。
四つの手段を用いて、彼女がここに来る前までに最低限の回復を済ませておく。
彼女もすぐに気づいてしまうだろうが、そうでもしないとここは突破できなかった。
ごくまれに発生する直感スキルの閃き、それが運よく今回発動したのだ。
「入った時点で増殖、霧は減るけどその分だけボスが強化……しかもそれは本体にまで影響する、なんて告げられたら急ぐよね」
上で休んだのは正解だった。
もしここで時間を掛けていたら、間違いなく面倒なボス戦になっていただろう。
有象無象を相手にしている間に、霧を取り込み強化するボス。
そしてそれをどうにか倒しても、最終的に戦うボスがよりパワーアップしている。
そんな展開を避けるためにも、超高速で倒す必要があった。
時間を短縮し、今後の楽を得るために……俺はこうして代償を身で支払っているのだ。
「──まったく、君は愚かなことをする。君に任せたボクの立場がないよ」
「お姉さん……」
「魔石はボクが回収しておいた。あとはそのボスの魔石だけだよ」
彼女は転がっていた大きめの魔石を拾い、“停滞穴”へと放り込む。
そして小さく溜め息を吐くと、彼女自身の魔術で“癒療”を使ってくれる。
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「……その割には、歩いていましたよね?」
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長時間の運動は、現在トレーニング中の彼女なのでそこは仕方がない。
しかしまあ、ツッコまれて顔を背ける辺り自覚はあるようで何より。
そんなほっこりに気づかれたようで、この後俺は長時間のお説教を受ける。
ある意味、普通に戦っていた方が良かったもしれない……そう本気で思うのだった。
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