AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と霧の都市 その04



 ──魔法師ギルド。

 自由世界にも存在するギルドだが、そちらは冒険ギルドや探索ギルドよりも数や規模で劣っている街が多い。

 自由民に純粋な魔法師が少なく、また人材が冒険者や探索者に持っていかれるからだ。
 だがこの街には魔物や迷宮が存在しないため、魔法師ギルドが台頭したのだろう。

 より優れた魔法を開発し、己の求めるナニカを追求する集団……それが魔法師ギルド。
 これから起き得る殺人鬼の事件に、彼らが何をするかというと──


「……何もしない、ですか?」

「そうですね。個人の行いは自由ですが、こちらから『霧の殺人鬼』に関する調査などは行いません。現在はその殺人鬼よりも、霧の問題解決を急いでおりますので」


 彼らが気にしているのは、己自身の魔力操作を妨害する霧。
 自分のやりたいことを邪魔されている現状の解決をするため、調べているのだろう。

 阻害の霧は気づかれていないので、殺人鬼に目が向かないはずだ。
 もし知られていたら、間違いなく調査は行われる……それだけの価値があるのだから。


「……分かりました。なら、登録をお願いします」

「では、そちらの水晶に手を……魔力確認、属性は…………登録完了です」


 魔法師ギルドに登録するためには、最低限一定量の魔力が必要になる。
 俺は魔力を持っているので、登録はいちおうできる……が、一つだけ問題があった。


「属性の登録はいががなさいますか?」

「なら、お願いします」

「──土属性の魔法師として、登録が完了しました。ようこそ、魔法師ギルドへ」


 俺が持っている属性魔法のスキルは、無と純と土。
 そう、どうやらここではスキルとして持っている属性しか、登録できないようだ。

 無と純は、最初から登録から除外されているので、俺は土属性にされている。
 無属性系統は、努力さえすれば誰でも使えるため、登録する必要が無いのだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 買えるだけ、最低階級の魔法師でも買える魔法陣を購入してギルドを後にした。
 介入をしてこない、それだけ分かれば充分である。


「情報もある程度集められたし、登録してよかったよ……さて、人探しに戻るかな」

「……うぅ」

「うーん、まずはどこに──」

「……うぅ、うぅぅぅぅ」


 ギルドを出てすぐ、妙な唸り声が強化された耳に入ってきた。
 正直、全然行く気がしないが……溜め息を吐いて、そこへ向かう。


「もし、そこのお姉さん。そんな場所でどうかしたんですか?」

「…………いいかい、少年。ボクら人族が欠かしてはいけないものはなんだと思う?」

「えっ? えっと……睡眠かな? お姉さんはなんだか、寝てないみたいだし」


 なんというか、精気の欠けた女性だった。
 目の下には酷い隈が出来ており、目は閉じてしまえばそのまま熟睡してしまいそうなほどウトウトしている。

 そんな人なので、訊かれた問いにはそう答えたのだが……彼女は首を横に振った。


「欠かしてはいけないもの、それは追求だ。求めるものがあれば追いかけ、それを手に入れたときの感覚は。生まれたての赤子も、死にかけの老人も同様に得ることができる。生きている限り、人はナニカを求めるのさ」

「……えっと、じゃあお姉さんは今何を求めているの?」

「ふっ、いい質問だね。ボクが求めているもの、それは…………食べ物だよ」

「す、睡眠じゃなくて?」


 創作物のように、ここでお腹が鳴ればそうだと思えるが、出会ってから一度として彼女の腹は何も訴えかけてこない。

 いやまあ、たしか鳴らなくなった方が極限状態だと聞いたことがある気はするが。
 だとするとこの人、いったいどれだけ何も食べていないんだか。


「──たしか、一月かな?」

「食べなさすぎだよ……あれ、今声を出したかな?」

「少年の反応は分かりやすかったからね。頬が引き攣っていたよ。なんてことはない、ただ見れば知れることさ」

「凄いお姉さんなんだね。うーん、ならお姉さんにこれをあげる」


 眷属にもよくそう言われるが、顔が引き攣るからバレていたのか……。
 そのことを改めて教えてくれた彼女には、お礼をしてもいいだろう。

 装置で魔術を起動し、空間に穴を開ける。
 魔術名“停滞穴アイテムケース”、内部に溜めておいた食糧をこの場に出した。


「! これは驚いた……少年、君は高位の魔法師なのかな?」

「うん、さっき登録したてだけど。はい、これを食べて元気になってよ」

「パンと紅茶だね。うん、その厚意に甘えさせてもらうよ」


 この世界に無い物を出してもアレなので、事前調査で見たモノを並べてみる。
 彼女はそれらを優雅に、だが物凄い速度で嗜んでいく。


「お姉さん、食べるのが凄い速いね」

「……ああ。ちゃんと味わってはいるんだ。ボクにはなぜか、そういうスキルがあって速く見えるんだ。ただ、ボク自身の時間はゆっくり流れているから、君の用意したパンと紅茶が美味しかったことは分かっているよ」

「あはは。喜んでもらえてよかったよ」

「うん、これで満足だよ……すまないが、ボクは次の追求を始めさせてもらうよ」


 何を追求したいのか、まあこれまでの流れでなんとなく分かっていた俺は、スッと彼女にソレを差し出す。

 少し驚いた様子を見せたが、欲求には逆らえないらしく大人しくそれを受け取る。
 ──そしてそのまま、枕を頭に載せて眠りに着いたのだった。



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