AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と渡航イベント終篇 その09
ノロジーにパワハラ(?)をし、その後は博物館を巡りながら会話をして解散となる。
それ以上のことなど無い、しいて言うなら彼女のことを任せられたことぐらいだ。
目的地はまだ決まっていないので、待ち合わせはすべての祈念者たちが泊っているホテルのロビーにて。
「悪い、待たせたか」
「いいえ、私も今来たところ──」
「ダウト。俺の三十分前に着たつもりなんだが……悪い、一時間前から来てくれていたみたいだな」
「いえ、これはその……私が勝手に待ち過ぎてしまっただけですので」
過去眼で覗いたロビーでは、それほど前から彼女が待ってくれていた姿が残っていた。
外套は[設定]で非表示なので、視える人から見れば目立つ真っ白な衣装で待つ姿が。
「いいか、セイラ。俺という人間に、そこまでしてもらえる価値はない。本来、それは俺の役割だ」
「へっ? え、えっと……」
「さすがに早く待ち過ぎだ。学校と同じだ、速めに行動することを心掛けていても、さすがにそんな前から準備をするのは登校時ぐらいだろ。せいぜい二分、いや五分前ぐらいに着くのがお約束ってもんだ」
「そう……なのですか? 分かりました、覚えておきます」
あとでこの辺は、ノロジーにフォローしてもらうとしよう。
彼女に言われた通り、どうやらセイラは尋常じゃないほどお嬢様らしい。
清廉潔白、というか純粋無垢というか。
言い方はあれだが、出会った頃のクラーレみたいな感じである。
初期勢として、事前に与えられた固有能力が職業の【聖女】だったことからも、そういう役割が担える少女だと思われたのだろう。
「それで、メルスさん。本日はいったい、どちらへ向かうのでしょう?」
「たしか、どこでもいいんだったか?」
「はい、お好きな場所へ」
「……ここ数日、いろんな奴といっしょにここを巡ったけど、絶対に誰も行かなさそうな場所があってな。セイラ、今日はそこに行ってみてもいいか?」
どこなのか分かっていないようだが、俺を信用してか首を縦に振るセイラ。
……そんな彼女の期待に背くことを考えている俺は、少々罪悪感に押し潰された。
◆ □ ◆ □ ◆
周囲では、やかましいほどに音楽が流れている。
それでも、彼女は自分の世界に入って目の前の物に集中していた。
「行きます!」
「おうっ、頑張れ!」
『ッ……!』
セイラは覚悟を決めてボタンを押す。
高速で動いていたソレは、彼女がボタンを押すごとにゆっくりと止まっていく。
「メ、メルスさん! こ、これは……」
「いいぞ、いい流れだ……来い、いやこれは間違いなく来る!」
左、中央に揃った絵柄は数字の7。
そして、残った右側を停止させるボタンをセイラが押したそのとき……変化が起きる。
「こ、これは……!」
「えっ? ど、どうかなされたので……ってあれ、また機械が全部回って!?」
「特殊演出が来た! 来たぞ、これなら間違いなくいけるぞ!」
ここ──リゾー島唯一のカジノにおいて、もっともレートが高いのがスロットだ。
そして、それは一度7を揃えかけなければ出すことのできないジャックポット。
本来の意図は、より当たり率の低い状態にして当たらなくするというもの。
だが、それは外れる……いや、正確には当たるわけだが。
絵柄はジャックポットを示す、このカジノのシンボルマーク。
なんだか遠巻きに、ここの関係者が悲鳴を上げている気がする。
まあ、全然出ていなかったので、溜め込んでいるんだろうな。
知ったことじゃない、そもそも条件を設けて当選率をより下げているのだ……諦めろ。
「あっ、揃いましたよメルスさん!」
「そうだな……とりあえず、まずは換金をしよう。その金をどう使うかは、セイラに任せるよ。もともと、そういう約束だしな」
「はい、ありがとうございます」
多少妨害が入りそうだったが、そこは先んじて手を打つことでどうにかなった。
具体的には、少々の賄賂と逆らうことのできない圧倒的な力による交渉だな。
「セイラ、眷属になってからどうだ?」
「どう……と言われましても、何も変わりありませんよ。ただ、あのときに語ったようにそれを求めていました」
「変わらない平和な時間、だったっけ? 壮大過ぎて、なんか覚えていたよ」
「はい、そうかもしれません。ですが、そんな当たり前を守るために、必要なものが足りませんでした。誰もが笑っていられるためには、ただ祈るだけではなく、その手を振るう行動そのものが必要でした」
そう語るセイラは、とても凛々しかった。
彼女が眷属に求めたもの、それは力ではなかったのだ。
「メルスさんの眷属という繋がりは、それを目に見える形にしてくれました。お陰で、ノロジーさんもとても楽しそうです」
「……質問を変えるぞ。セイラは、眷属になることで決めた目的とかはあるか?」
「目的……ですか。そうですね、私の手が届く範囲の幸せを、守っていきたいです。メルスさんのお陰で、その手もとても広く延ばせるようになりました」
「凄いな、セイラは。とても眩しいよ」
なんというか、本当に【聖女】が居るのであればこういう感じなんだろうか。
彼女を見ていると、そんなことを思ってしまう。
さしずめ、俺はそんな【聖女】を堕落させようとする悪魔ってところか?
「まっ、それでもいっか」
「……どうかされたのですか?」
「いいや、なんでも。そうだな、次はもっと楽しい所に行こうか。絶対に飽きさせない、必ずセイラを満足させてやる」
「はい、どこへでも付いていきます」
将来が心配になりそうなほど、純真な彼女だが……まあ、そこはノロジーにお任せだ。
俺にできるのは、そんな彼女を少しでも楽しませようと誘惑することだけである。
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