AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と渡航イベント終篇 その06



 ユウに関して、大半は眷属たちにお任せである。
 師匠ポジションではあるが、俺に教えられることが全然ないからな。

 新魔法(眷属作)の提供、剣技(ティル師匠)の師事、そしてそれ以外(眷属頼り)。
 残念ながら、俺が力になれることなんて模擬戦ぐらいだろうか。

 しいて挙げるなら、同じ【傲慢】持ちということで相談に乗れるぐらいだな。
 だがまあ、それもゴーやマストの方が、俺以上に熟知しているだろうし。


「結局のところ、俺だけのものってのがたりてないんだよな……ああ、これはカナタにも言われたっけ?」


 チートがどうこう、借り物がどうこうという話をした覚えがある。
 物忘れが激しい俺でも、その後の会話が面白かったので覚えていた。

 そこはイイとして、何度か揺り返しのように感じる自分の足りなさ。
 特出して{感情}が発露しないからこそ、マイナスに傾きやすくなっているのかもな。


「──さて、そろそろ着くか」


 思考を巡らせている間、俺は黙って歩を進めていた。
 その結果辿り着いたのは、大型の劇場みたいな施設だ。

 自由民による演目などはなく、あくまでも祈念者が好きに使っていい場所。
 事実、物好きなクランや個人でいろんなことをやっているためそれなりに人が来る。


「よぉティンス、待たせて悪かったな」

「別にいいわ。こっちこそ、少し早く来過ぎたみたい」


 すました顔でそう語る彼女だが、やはり待たせたのは悪いと思った。
 長時間、大衆の前に晒させていたわけだ、偽装があっても目立っただろうし。

 イア以外の眷属の外套の隠蔽は若干劣り、ある程度容姿を認識されてしまう。
 吸血鬼として、色白の端麗な容姿を見られれば詳細を認識されずとも目立ったはずだ。

 事実、遠目に彼女を観ている祈念者はそれなりにいた。
 それでも近づかなかったのは、彼女のレベルがだいぶ高いからだ。


「この詫びは何かで支払う、絶対にだ」

「……別に、気にしてないわよ」

「俺の気が済まないかな。強硬手段として、主らしく命令してもいいが?」

「そう、そこまで言うなら仕方ないわね。その謝罪、受け取っておくわ。それよりも、速く中に入りましょう」


 劇場へ向かう彼女の顔が、ほんの少しだけ嬉しそうに見える。
 どうやらこの選択は間違っていなかったみたいだな……そう思い、中へ俺も向かった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 本日、劇場で特別な演目などは繰り広げられていなかった。
 だが、練習光景というか、無数の集団が好き勝手に使っている様子が見られる。


「……これ、何が面白いんだ?」

「地道にコツコツ反復して練習した結果、本番があるんだって思うのよ」

「地道にコツコツって……チートで超速レベリングやら無双プレイをしている俺に、絶対似合わない言葉だな」

「それもそうだけど、メルスにもそういう部分があると思うのよ。リョクさんに、メルスがあの世界を創ったばかりの頃の話を聞いたことがあるし」


 ティンスが挙げたその頃は、たしかにいろいろと地道にやっていた。
 魔小鬼デミゴブリンたちに技術を仕込み、彼らがやりたいと思うことを何でもできるように。

 まあ、それも偽善の一環だと思い、やっていたんだが……まさかああなるとはな。
 今では各分野に特化した講師が誕生しているし、俺より上手に教えているよ。

 改めて舞台を見下ろすと、ちょうど新しい集団が入ってきた。
 劇団一座のような者たちで、軽く準備を終えると通しで芝居を始める。

 ファンだったなら、感動する場面なのかもしれないけれども。
 そういったものに対して、全然興味がない俺としては羨ましいものとしか映らない。


「俺さ、演技がクソ下手なんだよ」

「……まあ、だいたい分かるわ」

「称号に『大根役者』があるし、超級までスキルを進化できる能力があるはずなのに、適正が絶無だから上級止まりだ。なんとかしようと、こればかりは頑張ってきたんだが……何も変わってないさ」


 おまけに強引な成長をさせても、俺の才能が無いからか妙に違和感が残る。
 俺が偽善者として丁寧な口調で振る舞っても、誰もがそれに気づくのはそのせいだ。

 ……そう補正があっても、結局分かる人には分かってしまう。
 むしろ隠さない方が隠せるのでは、と演技もクソもない考えに至ることもある。


「それこそ、地道にコツコツやっているんだけどな。眷属となんとかしようとしていた時期もあったんだけど、完全にお手上げだったな……俺もそのとき、アイツらにできないことがあると初めて知ったよ」

「そ、想像以上ね」

「まあな。これに関しては、神様でもどうにもならないらしい。俺も上級で納得して、これ以上は別のことで補うことにした」

「……諦めないのね?」


 一定の結果が出ている以上、諦めるという選択肢もあった。
 実際、眷属からもそれを勧める声もあったぐらいだし。


「偽善者をやるって決めたからな。仮面を着けてやりたい以上、必ず演技は必要になる。素で偽善者なわけでも、ましては善人なわけでもないんだからな」

「そう、とてもいいと思うわ。逃げ出したことのある私が言うことじゃないかもしれないけど……【忍耐】強く、頑張ってほしいわ」

「言われずとも、俺はお前らの主だしな。誰よりもそうあれと足掻き続けてやるさ」


 ちょうど、一通り稽古が終わったようだ。
 お辞儀をする彼らへ、俺とティンスは共に拍手を送るのだった。



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