AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と渡航イベント終篇 その04



 シャインとの買い物で、俺はいくつかのお土産を購入した。
 ……元男なのに、ずいぶんとまあ女心を知り尽くしたチョイスだったと思える。

 おまけにどこに行っても、キャーキャー言われているし……なんだろうか、この格差。
 女になろうと、モテる奴はモテるとボディブローをかまされた気分だったよ。


「まあ、お陰様でようやく回復だ。自立歩行ぐらいはできるようになったなっと」


 特に無理はしていないし、俺の状態を逐一チェックしている眷属からもOKサインが出ている。

 これで晴れて、自分の足を使ってこの島をエンジョイすることができるようになった。
 暇な時間に調べてはいたが、まだまだ面白そうな場所がいっぱいなんだよな。

 そうして晴れ晴れしい気持ちで伸びをしている俺を、ジトーっとした目で見つめる少女が一人。


「──僕が居ること、忘れているのかな?」

「いやいや、そんなことないぞ。わざわざここまでのご同行、まことに感謝申し上げる。というわけで、ここで解散ということで」

「あー、はいはい、それじゃあ……ってわけにはいかないって師匠がよく分かっているでしょ? だいたい、師匠から言ってきたことなんだからボケないでよ」

「そんなこと言われてもなー。まあ、ユウだからボケられるんだぞ。ほら、アルカに言ったら無言で魔法を向けられそうだし」


 そう説得してみたが、残念ながらユウの機嫌は回復しなかった。
 こればかりは、魔法を使ってもどうにもならないことだな。

 改めて、ユウのことをジッと見る。
 黒髪黒目のThe・日本人でありながら、アバター補正もあるからか中性的な顔立ちが妙に決まっていた。

 恰好も少女チックにひらひらとした物などは着ておらず、男でも女でも着れるような中性的な白い服を着ている。


「……急にどうしたの、師匠?」

「あんまりファッションにはこだわらない俺だから言うけど、今日の服には何かテーマとかあるのか?」

「…………師匠って、デリカシーとかが欠けているんじゃないかな?」

「仕方ないだろう。似合っているって言いたいけど、ユウ自身がそれをどう思っているのか分からないんだから」


 俺も服は作るが、元ネタがある物だったり下請けとして国民に依頼したり、眷属たちに予めコンセプトを決めてもらっていたり……とデザインに対して手を入れていない。

 要するに、どちらかと言えば服を『装備』として捉えていることが多いのだ。
 服飾系の職業には、その『装備』を服に融合させる能力もあるとかないとか……。

 まあともあれ、ユウに対して失礼なことを言ったのは間違いない。
 それなりのお詫びをする必要が、さっそくできてしまったようだ。


「しょうがない……ユウが案内してくれた店で何か奢るよ。あっ、金額に制限は設けておくけど」

「……そこは、何でもじゃないの?」

「お前が小市民で、ここが安い物しか売っていない場所だったらな。現実は残酷で、昨日見て回っただけでも、ここには金の亡者しか居られないことが分かった」

「ちゃんと安いところもあるからね。それなら……よし、今日は師匠をそこに案内してあげるよ!」


 俺の手を引っ張り、そこへ連れて行こうとするユウ。
 俺はふっと小さく笑い──『土堅』でこの場に留まった。


「重ッ! し、師匠、ここはそのまま場所を変える流れだったでしょ!?」

「いや、行くこと自体になんら拒否感とかは無いぞ。ただなんというか、このまま主導権とかを持っていかれるのもどうかなぁ……みたいな感じだ」

「むっ、酷い言い方じゃないか。僕だって、たまには怒るんだよ?」

「それはそれで見てみたい気がするけど。それならさっきの話、やっぱり無しにした方がいいかもな」


 奢りの件を出すと、うぐっと唸りそのまましばらく時間が経つ。
 そこまで悩むことだろうか……ユウの冒険者としての収入はだいぶあるはずだが。


「……分かったよ、分かりましたよ! もう強引に師匠を連れ出そうとはしません。それなら、これからどうすればいいの?」

「じゃあ、俺をお前が考える最高の場所にでも案内してくれ。その都度、必要経費と俺が判断したら金も出そう」

「はいはい、分かりました……って、これまでの流れ必要だった!? それってほぼ、僕にお任せな流れの観光じゃん!」

「意味ならあるぞ。少なくとも、これでユウはある程度俺の都合を考えてくれる」


 何も言わずとも、最初からその気だったとは思うけど。
 与えたのは【傲慢】なのに、彼女は人一倍他者のことを思いやれるからな。


「……なら、師匠はどんな場所がいいの?」

「さっき言ってた、安い場所かな? むしろこのリゾート地で、よくぞやっていけるなぁという部分を見てみたい」

「悪趣味だよ。でも、そういう場所に行きたいなら、僕が案内するよ。そう、何も教えてくれない師匠の弟子として!」

「わざわざ声高々に言わんでもいいだろ」


 周囲の人がひそひそと話しているし。
 俺たちを具体的に認識できないようにしていても、会話なんてものは聞き取れてしまうからなおのことだぞ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 前回のショッピングセンター(仮)は、一言でいえば豪華絢爛だった。
 だが、目の前に広がる街は……うん、質素倹約といった感じだろうか。


「もっとわかりやすい例えは商店街。いやはや、盛り上がっているな」

「たしかに師匠がシャインと言った場所は人気だけど、こっちも負けてないらしいよ」

「そりゃあ、全員が全員金を散在したいわけじゃないだろうしな。特に、冒険者とか金や権威以外で成り上がった奴は」


 現在、リゾー島は神々の託宣という名のお告げによって、貸し切りになっている。
 従業員以外の自由民は、事前に誰も居ないようになっているのだ。

 まあ、国のお偉い様とかと揉めそうな祈念者も多いからな。
 外交問題とか、自由なこの世界でもやりたくはないだろう。

 なのでここに、祈念者以外の客は居ない。
 それでも「あの冒険者『○○』が!」みたいな宣伝文句が、至る所にあるのでそういうことなのだろう。


「それじゃあ、さっそく案内してもらおうかな? 自慢の弟子が、いったい何を教えてくれるのか……楽しみだよ」

「自慢の弟子、ねぇ……ふっふっふ、いいでしょう。そこまで言われて、本気を出さないわけにはいかないね!」

「お、おう……」


 そんなこんなで、ユウに案内されて俺は商店街(仮)を練り歩き始めたのだった。



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