AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と渡航イベント後篇 その15



 正直、カナが仲間にしている従魔の数が予想できない。
 彼女に完全勝利をするためには、従魔すべてを倒さないといけないのだ。

 性格的に使わないだろうが、調教師系統の職業であれば使うことのできる能力。
 それは召喚士と違って、限りのある従魔の命によって行われる──命の共有ライフリンク

 なぜか俺は眷属とさせられているが、彼女ほど従魔と絆を結べれば容易く可能なはず。
 そういう能力なので、互いに庇い合うような関係の構築が必須なのだ。

 だが、それを使えば死に近づく以上カナは使わないだろう。
 ……しかし、それを従魔の方から使わないという可能性は低い。

 前回はハークも居たし、緊急時の蘇生などもすぐにできるだろう。
 しかし今回のように俺がそれを阻止する状況ならば、彼女も焦燥に駆られるはず。

 そういったこともあり、俺は徹底的に彼女から従魔を引き剥がしたかった。
 ……だというのに、思った以上に従魔の数が多くて一苦労している。


「はぁ……はぁ……いったい、どれだけの数の従魔が居るのやら」

「けほっ、けほっ……」

「すでに十体、これでもまだ残るのか。やはり、最強の従魔師という売りは本物か」


 双剣、そして透明な槍。
 それらをどうにか捌くカナだったが、やはりハークが居ないというのは致命的なことらしく……少しずつ、従魔が斬られていく。

 見たことも無い新種の魔物が多かったが、それは彼女の導きの影響だろう。
 庇い合い、傷つく従魔を見てカナもひどくダメージを受けていた。


「どうだ、降参するか?」

「…………いいえ、しません」

「まあ良い、それも貴様の選んだ道。だが、いつまで持つのやら……ふむ、ついに衝突が始まったか」

「っ……ハークさん」


 どうやら、ゴールへ向かおうとするハークにアルカが攻撃を始めたようだ。
 他のメンバーは守護獣と戦い、アルカだけでハークをゴールから遠ざけようとする。

 まあ、ゴールされるとカナはその瞬間にある意味ゴールだしな。
 双方向の転移キャスリングも、上位の調教師であれば保有しているだろうし。

 相手は千の魔法を操る魔龍。
 おまけにカナの導きの影響で、いろいろと性能がチートになっている。

 そうなれば、相手取れる者もだいぶ制限されてしまう。
 そして、中でももっとも勝率が高いのがアルカというわけだ。


「案ずるな。向こうの戦いが、直接こちらに影響するわけではない。逆もまた然り、たとえ勝敗が決しようと向こうの戦いが突如終わるわけではない……そういうことだ」

「っ……!」

「先ほどから驚いてばかりだな。会話だけではつまらないだろう、戦闘を再開だ」


 カナを死に戻りさせれば、強制的にハークは退場となる。
 だがそれをしない、俺が遠回しに言っているのはそういうことだった。

 気配を遮断し、転移後に再び剣を振るう。
 同時に槍を動かすが、空間感知系のスキルでそちらは回避される。


 俺自身、これまで一度も気配を誤魔化すスキルを使っていなかった。
 だからこそできる不意打ち、この一撃は確実に当てよう。


「[水月]──“万象皆中”」


 再び振るわれる斬撃。
 二振りの剣の内、分離を行うのはこっちだとカナも分かっているため、より慎重に避けるため空間魔法で転移を行った。


「これなら……なんで!?」

「無駄だ、この一撃は必ずあたる。理屈じゃない、俺が望んだことは絶対だ」

「そんなこと……そんなことって……!」

「知らん。ともあれ、これで……運がいい、二体同時か」


 当たらないと思っていたからか、今回命中した場所は致命的だった。
 カナから分離したのは小さな天使と竜、それらが切り離されて粒子に成りかける。

 まあ、それ自体は俺が[概念再成]を使うので問題ないが、暗黙のルール的にはアウト。
 カナもそれを分かっているので、二体を亜空間に引っ込めて戦闘を継続する。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 何をしても、どう手を費やしても、届かない相手がいる。
 人はそれを『壁』と呼び、対処する方法は大きく分けて二つ。


「一つは諦め、背を向ける。もう一つは立ち向かい、挑む。カナ、お前は後者だ。どこまでも挑み、結果を得る。相手がどれほどに高い壁でも、活路を得る力と才能がある」


 そう、空を飛ぶ従魔すべてを引き剥がされたカナに語る。
 今は空間魔法で座標を固定され、身動きが取れない状況になっていた。

 まだナースと仲のいい虹色の狐が残っているので、魔法でも何でも使って脱出できる。
 しかし、彼女たちにも準備が必要なので俺に好きなだけ話をさせていた。

 ──あるいは、俺の話に少しでも興味を抱いてくれたのかもな。


「…………」

「だが、心が足りない。本来、立ち向かうためにもっとも必要なものだ。無論、力が無ければ超えられぬし、才能が無ければ道は築けない。だが、心が無ければそれらを使おうともしない……まさに本末転倒だ」

「それでも! それでも、チャンスは一度切りです。その場で動かないと、何もできないじゃありませんか!」

「そうだ、たしかにその通りだ。しかしそれは、挑んだ結果が成功であればの話だ。心があろうがなかろうが、直面する危機はある。ただそのとき、三つの内どれかがあれば救いがある……ただそれだけの話だ」


 足掻きに足掻き、結果を出す。
 まさに漫画のような素晴らしい展開だ。
 王道、定番、テンプレ……どんな呼び方でもいいが、世はそんな理想論に溢れている。

 しかし、なぜそれらが好まれるのか。
 それは誰もが何かにおいて、『壁』に挑むことを止めているから。

 人は欲望に忠実ではあるが、そのすべてを解き放つことを抑える理性が存在する。
 それらはしがらみとなり、動きを縛る……人が人であるために、楔が必要だからだ。


「お前は力も才能もある、心もまた時間を掛けて培われていくのだろう。しかし、しかしだ……今のお前には、与えられたものすべてに向き合うだけの心が足りない」

「……まるで、すべてを知っているかのような言動ですね」

「いいや、知らん。ただ、似たような話を俺は知っている。力も才能も無いが、心しか持たなかったただのアホ。挫折し、ただ屍のように生きていただけの愚か者の話をな」

「……それって」


 うん、このタイミングで拘束を外す準備が整ったようだ。
 少しだけ首を横に動かすと、突然生えた九つの尻尾の一本から槍が放たれ通り抜ける。


「続きはまた今度だ。いったい、どれだけの友がこの場を去った? そこまでして、成し遂げたいことは? そもそも──犠牲を出してまで、それは本当にやらねばならないことなのか? 改めて、カナに問おう」

「そ、それは……」

『カナ、だまされちゃだめよ! がんばるっていってたじゃない!』

「ほう、覚悟が必要なことなのか。その程度のことは分かっていたが、その確認ができたな。礼を言おう、狐よ」


 たしか……コルナだったな。
 俺に聞こえないように会話をしているつもりだったのだろうが、俺のスキルはその気になれば、ありとあらゆる存在の声を聴ける。

 意図して遮断しているが、今回の声はあえてしっかりと聴いた。
 その方が彼女は動揺するし、他の従魔たちのパフォーマンスにも影響が出る。


「終わらぬ、まだ先がある。俺が勝つために取る方法は二つ。一つはこのまま、従魔が尽きるまで狩り続けること。もう一つは、その口から降参を告げさせること」

『そんなこと、カナがいうわけないじゃないの!』

「ならば、ゆっくりと終わらせよう。人は挫折を知ることで、成長するという。俺に従順な駒を作るためにも、ぜひともぽっきりと折れてもらいたいものだ」

『あんた……!』


 俺の挑発に対し、カナは沈黙を貫く。
 ある意味、そういう反応の方が恐ろしく感じる……いったい沈黙を止めたとき、彼女はどういった反応を示すのやら。



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