AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と渡航イベント後篇 その11


 PKたちを船に乗せて、俺は彼らを大海原へと送り返した。
 具体的には操舵輪を破壊し、マストや帆に傷を付けてある。

 しっかりと直せるかどうかは彼ら次第。
 まあ、お金云々で疑心暗鬼に陥っているかもしれないが……俺には関係ないさ。

 彼らとは別れ、俺たちは『アンノウン』号に帰還していた。
 その手にはありったけの財宝、そして俺もペルソナに運んでもらっている。

 ……シャインが自分に運ばせてくれと懇願したが、嫌な予感がしたので黙らせた。
 なので俺は、再びペルソナに自分と宝を運送されている。


「あんまり役に立たない情報だったな。別に金はあったから、それでもいいんだけど」

《何か分かったのですか?》

「スタート地点がな。ここに来るまでのルートを見てみたんだが、変な場所からいきなり航海を始めてたんだ。たぶん、インスタントなスタート地点があるんだと思う」


 ゲームなどでよくある、簡易的に用意された出ると無くなる空間みたいだ。
 少なくとも、全員が同じ[マップ]だったのでこの仮説はほとんど合っているはず。

 訊ねてきたペルソナから、もう一方の彼らの[マップ]情報も共有させてもらう。
 そちらはしっかりとスタート地点である浜辺から出て、先ほどの場所に至っていた。


「これに関しては、どうしようもないさ。それよりこれだな……彼らの船はどうやら、島には着いているみたいだな。しかも、俺たちとは違う場所」

《それって……》

「同じように進んでいたはずなのに、見つけられなかった島。それは俺たちのミスか、それとも他の要因があるのか……まあ、いずれにせよ後戻りはできないし、このまま進んで次の島を目指すけどな」


 すべての祈念者が同時に[ログイン]し、同じ世界でプレイしているのだ。
 出港日をずらしても、やはり他のクランと遭遇する可能性は非常に高い。

 そうなっていないのはひとえに、その島に関する謎が関わっているからか。
 そして、存在しなかった島を知ることで、何か変化が……あっ、来たな。

 脳裏で鳴り響くお知らせの通知音。
 すぐに[ログ]を確かめると、条件達成による島の発見とのこと……まあ、知りたいなら行けるわけだ。


《メルスさんの方にも届きましたか?》

「つまり、受け取りさえすれば誰でも行けるようになるのか。たぶんだが、これはゴールした後のおまけだろうな。俺たちが最初に見つけたのはヒントのある島だったが、ハズレもあるだろうし……」


 事前情報だと、素材や魔物が溢れた島もあるらしいし。
 なので、やることも終わって暇な者同士で情報交換をすれば、楽しめるだろう。


「──シャイン、ペルソナ。急いで戻るか」

「仰せのままに!」
《分かりました》

「……まあ、俺は何もしないけど。すまないが、そのまま頼むぞー」


 ペルソナに運搬されている俺に、指示以上のことはいっさいできない。
 なので頭をフル回転させ、この後の予定を考えるぐらいがせいぜいだろう。

 気になるのはカナの動向。
 どれ程の成績になるのか、正直に言って予測がつかない……俺のように嵐を生み出すことも、ハークが居れば可能だろうし。

 だが彼女の性格上、困っている人を見捨てるということも考えられない。
 移動はそうした障害を避けられず、時間を掛けてのもののはず。

 天候だって、俺たちのようにやっては巻き込まれる者が居ると断念するよな。
 彼女は甘く、優しい……<美徳>なのだが、それが枷になることもある。

 ともあれ、勝つのであれば気を引き締めなければいけない。
 参謀のハークがサポートするので、勝つために必要なことなら多少は割り切るだろう。

 ──負けるわけにはいかないのだ。

 俺はそう、心に刻み付ける。
 そして、無事にアンノウン号へ帰還するのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ころころと変わる俺の決意。
 毎度のことながら、一度決めたことが揺らぐのが速いこと速いこと……。


「オブリ隊員、状況を説明したまえ」

「はいっ、お兄ちゃん隊長! 私たちはあと少しでゴールに着きます!」

「うんうん、それは素晴らしい。だが、我々の船にはトラブルが生じている。それはいったい何かな?」

「はいっ、お兄ちゃん隊長! 私たちのお船が、いろんなお船に囲まれています!」


 さて、天候が悪ければゴール時のタイムに補正が入るというルール。
 俺たちの周辺はそんな天候が固定、つまり常時ボーナスタイムのような物。

 移動の楽とポイント稼ぎの楽、どちらを取るかの両天秤。
 ……結果、多くの祈念者がポイントを得るためにこの場所に集まっている。

 なんというか、よくぞまあできるなと純粋に感動していた。
 俺とアルカ、そしてオブリは船を徹底的に保護している……それが無いのによくぞだ。

 現地点は、ゴールへ辿り着くためには通らなければならない一つの島。
 その地で必要なアイテムを集め、ゴールの島へ向かうという形なのだ。


「そうだな、オブリ隊員。この状況は、正直に言って不味い。仮想敵であるカナ殿に、これでは私たちの行動が丸分かりだ。オブリ隊員、何か案はあるか?」

「うーん、う~~~ん……」

「どんな方法でもいい、私たちにはアルカ大提督が付いているのだ。多少の無茶はごり押ししてもら──」

「誰が大提督よ。もう準備はできているんだから、とっとと準備しなさい」


 とまあ、オブリと暇を潰していたが、茶番はこれにて閉幕。
 実際、カナも……そしてお嬢さんもいるだろうから、気合を引き締めないとな。



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