AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と渡航イベント後篇 その04
鮫を使って海を渡る。
まったく違うが、どこかの白い兎さんと似たようなことをしているなぁ、と思いながら船に近づいていく。
ちなみに、船はこちらに来ていた物以上に高度な隠蔽をしているため、本来ならば誰も気づくことなどできなかっただろう……が、まあ俺には神眼があるからな。
特に今は[窮霰飛鮫]を使っているため、中に居るであろう『選ばれし者』を的確に感知している。
たとえどれだけ身力などのエネルギーを隠していようと、[窮霰飛鮫]は魂魄の波動を読み取るので無駄だ……魂魄まで偽るのは、眷属でも難しい高度な技術だしな。
「さてさて、道を開けろよ。夢現流武具術刀之型──“異間斬”」
居合の構えのまま結界に鮫を突っ込ませ、ぶつかる直前に抜刀。
夢を現実と化す夢現の武具術、中でも抜刀に特化した一撃によって──道は開かれる。
そこはより強く、歌が鳴り響くメインのステージ。
先へ進むのを阻む精鋭の親衛隊が、武器や魔法を構えて待ち受けていた。
「来たぜ、テメェら。さっさと頭の首、オレと妖刀に寄越せ」
「……何者だ。あの男と、いったいどんな関係がある」
「はっ、そんなどうでもいいこと関係ねぇだろ。テメェらの言うソイツが誰のことかさっぱり知らねぇが、テメェらがオレ様の邪魔をしたことは事実。なら、全力で反撃して何が悪いんだよぉ!」
やはりここに居たリーダーも、俺の正体には気づけないようだ。
周囲の者たちが鮫との戦闘に入っているものの、俺とリーダーは相対して話すだけ。
「それよりいいのか、他の奴らは? お仲間が死んじまうんじゃねぇか?」
「愚問だな。聖女様の歌が届く限り、私たちが死ぬことは無い」
「そりゃあ面倒なこって、ならその聖女様とやらを殺した方が手っ取り早いか」
「……させると思うか? クズが」
周囲に結界が張られ、脱出できなくなる。
しかも空気が抜けていく仕様で、呼吸もできなくなる……リーダー自身は事前に対策でもしたのか、平然としているのだが。
そのリーダーこそが、結界運用の要となっている──極級職【聖櫃王】の就職者。
ついでに、固有スキル【囲目籠愛】の保持者でもある。
確認してみたが、『侵蝕』は……半々ぐらいと言ったところだろうか。
シガンほど歪んではいないが、彼女自身が心のどこかで望んでやっている感じだ。
「少しずつ、ゆっくりと死んで逝け。愚行を後悔し、自殺したくなるように」
「オレは呼吸とか要らねぇんだが?」
「……“結界圧殺”」
体を上下左右から圧し込まれる感覚。
結界魔法の中でも、割と攻撃的なヤツを使われたようだ。
点ではなく面で迫ってきており、少しでも体を動かせばすぐにでも押し込まれる。
なので対抗する──身体強化の性能を高めて、逆に押し返すように力を注いでいく。
「こんな、もんじゃ……死なねぇよ!」
「チッ、普通の奴なら無呼吸状態で抵抗できるはずがないのに……」
「オレ様がそれだけ特別なんだよ! じゃあ今度はこっちから──」
「いいや、そんなものない──『集結』」
リーダーが何かを言った途端、俺の体が思うように動かなくなる。
原因は結界魔法、ただしそれは周囲の親衛隊たちが発動させたもの。
本来彼らの結界など、取るに足らない微々たる硬さ。
しかし力を束ね、歌で高められ、圧縮して特定の部位のみに限定すれば……。
「我々親衛隊は聖女様を守るための剣。そして、防御は最大の攻撃と言うだろう? 結界とて使いよう、貴様のような野蛮な獣を捕らえるための結界も……このように、適切な場所に置くことでこの通りだ」
「チッ、雑魚どもが寄って集って時間稼ぎのつもりかよ」
「時間稼ぎ? いいや、貴様は終わりだ──“切断結界”」
『“切断結界”!!』
声を合わせ、一つの魔法として構築された新たな結界。
極級職の補正もあって、神鉱石でも切り裂ける切断力が感じられた。
俺はそれを避けることなく、向かってくる斬撃を受け入れる。
四肢を断ち、体も微塵切り……やった方がなんだか顔を真っ青にしていた。
「……聖女様には見せられないな。死に戻りのエフェクトを確認後、すぐにケアを──」
「た、隊長! み、見てください!」
「いったい、何を…………化け物め」
彼らが何を見たのかというと──ゆっくりと動き出した俺の体の各パーツだ。
まるで時間を遡るかのように、復元されていく光景。
「そういえば、コイツ……血が一滴も出ていませんでした」
「呼吸も不要と言っていたが……そういう種族なのか? 鑑定はどうだ?」
「あからさまな偽装情報だけで、何も分かりませんでした」
「そうか……なら、可能な限り肉片を結界で閉じ込めろ! そのまま体を再生させないで封印するんだ!」
とまあ、そんなことを言い始める。
嫌なモノには蓋をする、それができる職業に就いているリーダーだからこそ、そんな意見を部下たちに伝えた。
《さて、俺は俺で目的を果たしますか》
肉片は間違いなく俺の物。
しかし、それは体だけ……魂はすでにその場から抜け出しており、目的地を目指して移動を始めている。
《この状態でも、物質に干渉することができるからな──おい、[窮霰飛鮫]。お前も後で呼んだら来いよ》
今は結界に封印されてしまったが、あとで呼べば来るだろう。
俺は幽霊となった体で部屋を通り抜け、船の中へ侵入するのだった。
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