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山田 武

偽善者と渡航イベント中篇 その14



 想像していなかった出会いから十分もせずに、『海賊王の根艦』は沈没した。
 ……この結果は、さすがの俺も想定していなかったものだ。

 三つ首の蛇竜に乗ってやってきた彼女──カナに頼まれた従魔たちが無双していた。
 最後にはその蛇竜ことハークが禁忌魔法をぶちかまし、迷宮を停止させたのだ。


「そうか……クランには所属せず、単独で挑むことにしたのか」

「魔王さんには誘っていただいたのに、申し訳ありません。ただ、自分でどこまで行けるのか知りたくて……それに」

「それに?」

「魔王さんと勝負がしたかったんです。前回は負けてしまいましたが、今回は絶対に勝ってみせますよ!」


 すでに、眷属と裏方チームには沈むことを告げて撤退してもらっている。
 俺とカナはハークに乗って、そんな沈没の様子を見ながら話していた。

 ちなみに彼女、船は小舟を安めに買ったうえで従魔たちに改造させたようだ。
 そのうえで、巨大な泳げる従魔の上に載せるだけなんだとか……いろいろと豪快だよ。


「ふむ……勝負か。なあハークよ、聞いているのであろう?」

『──なんだ?』

「これから俺は、カナと一勝負する。これを賭けとしたいのだが、そちらの方でも何かしら契約をする術を知らんか?」

「魔王さん!?」


 しっかりと訊いたのは、この話をただの口約束で終わらせないため。
 無理難題ではないからこそ、そこに付け入る隙がある。


『……内容によるが、契約自体は可能だ。たとえ祈念者たちの死に戻りであろうと、決して逃れられぬ魂から刻む契約がな』

「ならばそれを所望しよう。ただ、解除は可能にしておけ。まだカナも了承しておらぬ話であり、あくまで俺の宣誓のようなものだ」

「魔王さん……いったい、わたしに何を?」

「今なお無所属というのであれば、ちょうどよい。カナよ、この勝敗次第で貴様を俺のクランに迎え入れたい。無論、拒否をしても構わんが……そうはさせないよう、こちらも景品を用意しよう」


 俺から用意できる物は少ない。
 だが、俺が提供できるモノというのはそれなりにある。


「──他者に移譲できるモノであれば、どのようなモノであろうと増やしてやろう」

『ッ──!?』

「ふっ。ハークであれば、その価値を理解できると信じていたぞ。増やすだけ、と言われては溜まったモノでは無かったからな」


 カナは少し首を傾げていたが、すぐにハークが説明をして驚いた表情を浮かべた。
 ハークもさすがに、<複製魔法>は使えないという証明にもなったな。


「貴様らが理解した通りだ。俺が知らぬどういったものであれ、その所有権を委ねることができるのであれば自在に増やしてやろう。さて、どうだ……この勝負、本気で挑んでみるか?」

「……ます」

「とはいえ、いきなり決めるようなことでもないだろう。まずはあのユニーク種を──」

「受けます。魔王さん、勝負しましょう」


 時間を空けて、覚悟を決めてもらおうとしていたのだが……いきなり受けてしまう。
 えっ、と戸惑う俺を置いて、ハークと真剣な顔つきで話をしている。


「ハークさん、お願いします」

『……たしかにできるであろう。だが、本当に良いのか? これまでも──』

「いいんです。それに、あのとき勧誘されて考えたことがあったんです。もしかして、魔王さんのクランなら……って」

『そうか、ならば何も言うまい。他の者たちは上手く説得しておこう。カナよ、この選択がより良い結果を生むことを祈る』


 なんだか意味深な言葉を残し、それ以降無言を貫くハーク。
 俺は何がなんだか分からないまま、カナと向き合わされる。


「……正気か? 俺はどんな手段でも使い、貴様を配下に加える気でいるが」

「……ぷっ。大丈夫です、大丈夫になりました。だって、そんな心配そうに聞いてくるんですから、魔王さんが変なことを考えているわけがありません」

「まあ、それはそうなのだが……」

「勝負はどちらが速くスタートからゴールまで進めるか、イベントのタイムで測定です。より相手よりも速い記録だった方が勝ちということでいいですか?」


 スラスラと条件を出すカナ。
 これまでも従魔との契約など何度もやってきただろうし、そう考えると従魔師や精霊使いって口が上手いのかもしれない。

 そんなことを考えながらも、思考を巡らせ何か罠が無いかを確認。
 ……そんなことほぼ無いだろうが、すぐに信じられるほど俺は人ができてはいない。


「つまり、いつ出ても関係ない。最終的に運営が決めたタイムが良い方が勝ちだと?」

「はい」

「どれだけ妨害にあったとしても、それは当人の責任。勝つためなら、運営が決めたルール内なら何でもしていいと」

「そう……ですね。今回ばかりは、わたしも全力で行かせていただきますので」


 あからさまないかさま宣言にも関わらず、それを承諾するカナ。
 そのうえ、自分もやると言ってくる……これは本当に、何かあるな。

 この賭け、勝っても負けてもカナに損は無いのだ。
 だからこそ、ここまで強気で言ってくるのかもしれない。

 彼女にとって何かの複製は、それだけの意味があるということ。
 ……『選ばれし者』の本気を出させてしまうとは、少々やり過ぎだったな。



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