AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と渡航イベント前篇 その11
俺とティンスの関係、それは『主と眷属』という形で固定されている。
本来交わらなかったであろう繋がり、だからこそこれまではさして気にせずにいた。
だが、改めて眷属たちと話す機会を得て考えてみると……案外謎である。
ユウは師弟、アルカはライバル、オブリなら義兄妹という風にある程度定まっていた。
……シャインやクラーレならいちおう主従など、まあそれでも決まっている。
そして、自由民の眷属の場合は全員との関係性をもう互いに了承していた。
祈念者の眷属と違って接する機会が多いからこそ、一人ひとりとじっくり決めている。
だがティンス……そしてイア、ペルソナ、今回はいっしょに行動しないノロジーとセイラなどはそういった関係は築いていない。
……ある意味、必要性を感じていなかったというのもあるだろう。
俺と彼女たちは同じ世界に[ログイン]していながら、その『深度』が違うのだから。
「──私と、メルスの関係?」
だからこそ、せっかくなのでこの機会に決めておきたかった。
きょとんとしているティンスに、もう少しだけ説明する。
「深く考えなくていいぞ。オブリが年下で俺が男だから『お兄ちゃん』って呼んでくれているんだし、それと同じ感じでいいぞ」
「ふーん、ならお兄ちゃんって呼んだ方がいいのかしら?」
「……顔を背けたくなるぐらいなら、最初から言わなくていいだろうに」
俺より年下らしいティンスなので、いちおうの条件は満たしているんだけどな。
だがまあ、お年頃な少女がいきなりその呼び方はきついだろう。
「…………どう呼んでも、怒らない?」
「うーん、ご主人様とかは無しで」
「そういうのじゃなくて……先輩、は?」
「先輩か……まあ、たしかに妥当だな」
現実世界で呼ばれたことは無かったな。
少なくとも俺個人を指定した先輩という呼称は聞いたことが無い気がする。
「ほら、メルスは第一陣だったし、いろんなことを教えてくれた。なら、この呼び方……何を教わったのかしら?」
「正直、何も教えてない気がするぞ。お前もオブリも、眷属にして装備を渡したら指令とか言ってメンバー探しをしてもらったし」
「結局、誰も見つけられなかったけどね」
「そういえばそうだな。まあ、呼び方に関してはそういう先輩もいるかもしれないし……うん、別にいいかもしれないな」
学生生活……なんだか物凄く懐かしい響きだが、後輩に先輩らしいことした経験など一度も無かった。
この世界でもそれは変わらない。
俺は偽善をしているだけなので、そういう間柄が無くとも求める奴には大抵の知識や経験を与えていたからな。
ティンスにとって俺は先輩、俺にとっても彼女は後輩……なんだろうか?
第二陣なのは間違いないし、何より彼女自身が望むなら……応えるのが偽善者だな。
「なら、これからはメルス先輩って呼べばいいのね……なんだか慣れないわ」
「ならやっぱり、メルスでいいよ。先輩を呼び捨てにするところもあるって聞いたことがあるし、そもそも今までの呼び方に慣れてくれているなら、それで構わんよ。過去を否定したかったわけじゃないし」
「心の中ででも、言っておいてあげるわ。改めてよろしく、メルス」
「ああ、こっちこそだよティンス。しかし先輩後輩らしいことか……パシりとかか?」
その後、ティンスがどういった反応をしたかは言うまでもなかろう。
オブリが戻ってこなければ、どうなっていたことやら。
◆ □ ◆ □ ◆
「う~ん、見つからなかったぁ……」
「ははっ、残念だったなオブリ。まあ、ここからは俺たちに任せろ」
オブリを主導として行ったおつかいクエストは、残念ながらギブアップとなった。
ほぼノーヒントだからな、妖精族由来の宝石が付いた指輪、という情報しか無いし。
なので最初から一定時間が経過したら、オブリの正法ではなくありとあらゆる手段を用いて探すことにしていた。
これはオブリとティンスだけのクエストではなく、クラン全体に繋がるものだからな。
理由をしっかりと話すと、オブリも納得したうえで張り切っていた。
「そうね。私は前に出てるから、メルスはオブリと話しながらゆっくり来なさい」
「あいよ、そうしてますよ。オブリ、肩車でもしてやろうか?」
「……どうして?」
「うーん、なんとなくだな。それと、俺が一度やってみたかったというのもある」
八割本当のことを言うと、オブリは屈んだ俺の首に股を乗せる。
……俺の方は【色欲】が倫理コードを無効化しているが、オブリはどうなんだろう?
なんてことを不安に思いながら、何もないことにホッと一息ついてから起き上がった。
「うわぁ……」
「自分で飛ぶのとは、また別の感覚だろ? 現実世界でやったことがあるかは知らないけど、こうふわっとした感じがあるはずだ」
「うん、大きくなったみたい!」
「オブリが飽きるまでは、しばらくこうしていようか。せっかくだし、このまま少しだけ話がしたいし」
その間、黒の魔本を片手で弄り、従魔を街に派遣して指輪を探させている。
そして腕に着けた魔術デバイスを使って、探し物用の魔術を起動した。
「──『失物探索』っと。よし、じゃあ何から話そうか? うーん、ノリで言ったから特に決めてないな……」
「なら、私からいいかな? お兄ちゃんに聞いてもらいたいこと、いーっぱいあるの!」
「そうか……なら、教えてくれ。俺もオブリがどんなことをしたのか知りたい」
「うん! あのね、この間のことなんだけどね──」
まあ、それからオブリの話を肩車をしながら聞くことになる。
とっても楽しそうな彼女の笑みを見て、俺もまたほっこりするのだった。
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