AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と魔族前線基地 その15
「喰らいなさい──『七魔の虹道』!」
アルカが放ったのは七大属性の魔力。
それぞれに膨大な魔力が籠められており、今の俺が触れたら間違いなく肉体を消滅させられてしまうだろう。
厄介なのはその魔力を、彼女が自在に引き出すことができる点。
要するに魔力は外部のバッテリー、それを好きな形で取り出せるようになっている。
アルカは魔力を武器の形や球体にして、撃ち出すことで俺を殺そうとしていた。
それだけなら、普通の魔法使いでもやるのだが……規模がケタ違いだ。
干上がり、満ち溢れ、吹き荒れ、罅割れ、破壊の限りを尽くしている。
俺はそれらを加速させた思考の中で、ゆっくりと眺めていた。
そして、決断する……一瞬だけ籠めていた力をすべて解除、脱力したうえで動き出す。
「絶対に、死んでたまるかぁあああああ!」
《大声、狂叫、絶叫、我慢、呼吸、発叫、裂孔、声帯強化、身体強化、脚力強化、身力操作、身力制御、妨害、悪知恵、虚言、指示、指令、懇願、加虐、二枚舌、爆音、被虐》
「! その程度で……」
「逃げて、生き延びてやるぅうううう!」
《駆足、駈足、耐久走、持久走、体勢、戦線離脱、軽業、歩行、魔力体、細胞活性、脚力強化、俊足、健脚、調薬、回避、剛筋、自壊耐性、逃走、逃足、暗躍──“直感”》
ここで勝負を決める。
その覚悟で最後の切り札、直感スキルのアクティブ状態を起動した。
すべてを理詰めで来るアルカに対し、なんとなくで対抗する。
そしてそれに任せて動き出す──向かう先は、アルカ一直線。
包丁を構え、そこに魔力付与と身力操作で残ったエネルギーの大半を注ぎ込む。
今の俺は、いちおう武技を使うことができる……一度きりだが、やるしかない。
俺がここで勝敗を着けようとしていると、アルカも分かったのだろう。
より強く杖を握り締め、これまで以上に目や髪色を苛烈に赤く染めて俺を待つ。
「行くぞ、リュキア流獣剣術──“開牙”からの“渡取”!」
絶対に必要な“開牙”で前に剣を向け、そこから放つのは──空間跳躍の斬撃。
ティルが編み出した空間干渉の一撃を、弟子である俺もシステム的に真似できる。
それはアルカの仕掛けた鳥籠を越え、俺を自由な空へと羽ばたかせた。
「……はっ?」
「さすがのアルカも、斬撃で強行突破するところまでは読み切っていなかったか……悪いな、何度も言うけど今の状態で真面目に戦う気は無いんだ」
「~~~~~~ッ!」
「憑依解除……ふぅ。じゃあな、アルカ」
すぐに状況を理解し、俺を捕縛しようとしているのはさすがといったところだ。
しかし叫ぶことで思考能力を奪っていたお陰か、それが間に合うことは無い。
……今の俺は脆弱なアンデッド、勝てるわけがないのだよ。
◆ □ ◆ □ ◆
今回ばかりは、マジで死ぬかと思った。
魔術や魔法が使えれば……そう、何度嘆いたことやら。
まあ、そういった反省は次に生かすことを忘れないことにしよう。
今はやるべきこと……絶対に起き得る惨劇から逃れるための準備をすべきだ。
突然戻ってきた俺に騎士は驚いているようだが、速くしなければすべてが終わってしまうので後回しである。
「……切り上げるぞ。もう間もなく、世界は昏き炎に包まれるであろう」
「どういうことだ?」
「それはすぐに分かる。それよりも、今は可能な限り魔族の被害を収めるべきだ」
『了解いたしました』
俺の指示を受け、『死配者王』はアンデッドを改めて動かす。
それと同時に、街の南の方で激しい火柱が空を焼き焦がす勢いで燃えだした。
「……ああ、アレアレ。見ての通り、アレが本気の魔力よ。人の身でありながら、人ならざる領域へ手を伸ばした娘の」
「あれほどの力を……貴様、よく生きて戻れたな。そのまますべてを焼き焦がされていても、おかしくなかっただろう」
「なんだ、心配してくれているのか? 奴はその強大な力から、自身に制限を課しているからな。今回も、それを決して全解放させぬように立ち振る舞ったからこそ、こうして帰ることができたのさ」
アルカが本当の意味で本気だったなら、それこそ俺は逃げられなかっただろう。
俺が縛り中、かつ憑依プレイをしていたからこそ、あの程度で済んでいた。
「ところで騎士よ、貴様は一度でも行動を示したのか?」
「……このような場所で待機させておいて、何を言うか。例の娘が放った大岩に、対処したくらいだ」
「それだけでも充分な成果だがな……下手に外へ向かうと、あの娘が来るだろう。今は虫の居所が悪いだろうし、このまま魔族の撤退に協力するが吉と見た」
「……了解した」
というわけで、さっそく行動開始。
もともと動かしていたアンデッドだけでなく、伏せていた札──元隊長を動かす。
「西から始めてくれ」
《承知した》
「こちらは東から……そして、可能な限り南に近づかないよう動いてくれ。そこには逆鱗に触れられた竜が居ると思って慎重にな」
《あの魔力であれば、こちらでも把握している。いったい人族は……いや、祈念者とはどこまで厄介な連中なのだ。ともあれ、接触はできた、すぐに移動を開始する》
アンデッドたちは俺と死配者たち、それに元隊長の言うことを聞くようにしてある。
元とはいえ隊長、こういうときに働いてもらわないとな。
──こうして魔族の侵攻作戦は、撤退の流れとなったのだ。
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