AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と魔族前線基地 その02


 というわけで、再び俺は前日同様に砦の外で戦うことになった。
 軽く準備体操をして体の調子を整え、仕込みのために魔力を周囲に散らしておく。

 死霊術師はアンデッドの使役に負の魔力が必要なので、周囲に瘴気を散らしてその量や質を上げておく必要がある。

 基本的に大規模な闘いなどでは勝手に増えるので、そういう場所だと死霊術師は大活躍なんだよな……だが、それができないからこそ、こうして地道に用意しているのだ。


「準備はいいか、ガイストよ」

「ふっ、望むところ」

「ならば……おい、この場を綺麗にしろ!」


 俺に確認を取った隊長は、なぜか魔族の魔法術師団に声を掛ける。
 何をするのかと思えば……うん、強化魔法と周囲の洗浄をやらせていた。

 うわぁと思っても、俺は悪くない。
 仕込みはすべて消されたし、隊長は強化された……いやはや、ここまで圧倒的に差を見せつけられるとは。


「文句はあるまいな?」

「……いや、あるな。隊長、あの騎士以外であればアンデッドを出しても良いのか?」

「無論だ。貴様自身にバフを施すでも、好きなことをするがいい」

「では──“死体蒐集ゴーストコレクト”」


 亜空間から取り出すのは、同じく魔法系のアンデッドだ。
 そして、いくつかの魔法を発動させ──俺にはデバフ、隊長にはバフを掛けた。


「……何の真似だ?」

「いや、素晴らしい仕込みだと思ってな。私の小さな行いなど、なんてちっぽけなことかと後悔してしまった。ゆえに、こうして新たな仕込みをしただけだ──対等に戦うため、のだがな」


 周囲は大盛り上がり、どこからともなく血祭コールが上がっている。
 うん、目の前の隊長もイケメンフェイスのはずなのに、その目が笑っていないや。


「なかなかに、面白いことを言うな」

「ならば、心の底から笑うが良い。これから起きるそのすべてが、大衆の爆笑を生む名喜劇となるのだからな」

「……なるほど、つまりガイストはこういいたいのか。私が、貴様程度の者に完膚なきまでに叩きのめされると?」

「はて、何を仰っているのか。そのようなことは言っていない──ただ、自然と笑みが零れる、そんな微笑ましい戦いになるだけだ」


 要するに、まるで児戯に等しい戦いになると言っていることになるのか?
 もちろんそれは、俺の闘いが縛りプレイ前提だから言っているわけだが……。


「いいだろう。ならば、こちらも全力で応えてやろうではないか」

「さすがは隊長。いえ、これからは元隊長ですね……覇道の礎、その始まりとして刻んでおきましょう」


 あえて丁寧語に戻して、敬意を表しているはずなんだがな……全然変わらないや。
 これ以上の関係改善は無理だろうなぁと内心思いつつ、決闘の準備を始める。


「改めてルールの確認だ。貴様と私、互いに一撃ずつ攻撃を交わす。戦闘不能になる、もしくはリタイアを自身の口から告げることが勝敗の決定条件だ」

「……いいだろう、いろいろと裏がありそうではあるが、それも含めて満喫してみようではないか」


 というわけで、戦いは始まった。
 一撃を受けるだけでいいというシンプルなルールではあるが、それゆえに先ほど繰り広げられたような仕込みが行いやすい。


「では、互いに一度目だ。準備は良いな?」

「うむ、いつでも」


 静寂が場を支配する。
 共に魔力を高めると、いつでも一撃を放てるようにその状態を維持していた。

 そして、準備を整え終えたそのとき、砦から落ちたナニカの音に合わせて……動く。


「喰らえ、“デス──」

「──『縮地シュクチ』」


「「「「「はっ?」」」」」


 何やら即死しそうな魔法を撃ちそうな隊長だったが、それが発動する前に俺は隊長に向けて──突進していた。

 魔力は高めていたが、別に魔法の準備をしていたわけじゃない。
 ただ単に、身体強化をして突撃する際に耐え得る体作りをしていただけのこと。


「し、死霊術師が……」

「体を鍛えるはずがない、と? 私が偉大なるネロマンテ様に師事を受ける前、ただ何もしていなかったとでも? そして、それ以降もある程度策は整えていた……このように、誰もが愚行に走るからな」


 あくまで演じているだけなので、スキルが無くとも身体強化そのものはできる。
 今回はその死霊術師が肉弾戦をするわけないという、隙を突いただけのこと。


「さて、回復魔法もこのアンデッドは使えるのでな。施しだ、先に治しておくがいい」

「……なんのつもりだ?」

「敗北条件は二つ、戦闘不能か本人の意思による降参。だがしかし、隊長はまだそれを言いそうにないからな。全身全霊、心の底からそれを言わせるためにも、しっかりと回復してもらわねば困るよ」


 魔族たちは、これまた歓声を上げる。
 大番狂わせの展開に加え、俺が送った応援・・に感動しているのだから。

 意識して言ったつもりだが、どうやらこれもしっかりと受け取ってもらえたようで……回復魔法を受けて体を万全な状態に戻した隊長は、一言呟く。


「……ルール変更だ」

「ほぉ、一向に構わないが。いったい、どのようなものとなる?」

「──ここからは、真剣勝負だ!」


 うん、挑発をし過ぎたみたいだな。
 だがまあ、そのルールはこちらとしても好都合だ──さて、こうなれば最初から決めていた通りにやろうじゃないか。



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