AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大湖戦線 その14



 すでに首長竜のアンデッドは討伐されており、アイテムの分配なども済んでいた。
 現在は被害状況の確認や、怪我人の治療などを主にやっている。

 クラーレもまた、そうして怪我人の治療の方に参加していた。
 祈念者の活躍があってもなお、初期の方に自由民たちも被害を受けていたからな。

 また一人、彼女が施した回復魔法によって自由民が傷を癒してもらう。
 ニコリと笑みを浮かべた彼女に、感謝の言葉を伝えて去っていく。


「ますたーたちもお手伝いなんだね」

「メル……いつの間に」

「事情の説明をした方がいいかなって。先にますたーに説明しておくと……『かくかくしかじか』なんだよ」

「……どうして何も教えてもらっていないのに、理解しているんでしょうか? いえ、メルですからおかしくはありませんが」


 八文字に今回行ったことすべてを圧縮し、言霊として発言しただけだ。
 割とネタっぽい効果だが、魔法とかに使うと相性は抜群なんだよな。

 ともあれ、俺の事情をクラーレはある程度把握できただろう。
 彼女にとってはVRの世界、これくらいできても違和感はさほど無いはずだ。


「メルは魔族の味方になるんですね」

「しばらくは分体を派遣して、そっちに活躍してもらうことになるね。私と違って、職業に就いているから。ある程度能力値に制限を設けても、一定の成果は出せるよ」

「普通の分身系能力は、性能が落ちてしまうから使いづらいとのことですが……」

「それは私も同じだけど、スキル使用に制限が無いから問題無しなんだ」


 まあ、実際の多重存在スキルは精気力さえ持てば、能力値をコピーした分体が創造可能ではあるが……無双はさせたくないので、一定値で抑えておくつもりである。

 多重存在スキルは、俺の何枚かある切り札の中でも利便性に長けた代物。
 たとえクラーレであろうと、そのすべてを語る気は無い。


「まあ、私は自分にできる範囲で潜り込んでみるつもりだよ。たしか、祈念者の中にも魔王軍に入っている人は居るんだよね?」

「そういえば……はい、[掲示板]にそんなうわさが挙がっていました」

「祈念者は魔族にもなれるし、後天的な転生だって可能なんだから、決して不可能ってわけじゃないんだよね。うん、大切なことはその人がやってくれるんだから、私は私のやりたいようにやってみるよ」

「……あまり無理は、しないでくださいね」


 クラーレも、俺を止められるとは思っていないだろう。
 止められなかったからこそ、こうして暗躍していたわけだし。

 俺と彼女の関係は、歪な契約の上に成り立つものなので仕方がない。
 究極的に言えば、すべてを俺の匙加減でどうこうできてしまう状態なのだ。

 俺としては、普通という感覚を学べるちょうどいい場所だと思っている。
 ……同じクランでも、『ユニーク』の方はネジが何本か外れているからな、いろいろ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 話を一度戻して、今度はクラーレたちがどうしていたのかを聞くことに。
 今回はガーも力を貸していたし、だいぶ活躍できただろう。

 彼女の眷属武具たる[ベネボレンス]も、相当な威力をアンデッドになる前から叩き出せたわけだし……うん、その気になればワンキルもできたかもな。


「それで、ますたーはあれからどうなったのかな? 私は魔族の方に掛かりきりになっていたから、そこのところはあんまり把握できていないんだよ」

「アンデッドになった首長竜を、祈念者総員で袋叩きにしました。予めメルが抑制していたから、向上した攻撃力でもある程度抑えられましたので、適時回復で支援を行いながら光や聖属性の魔法で攻撃しましたよ」

「アンデッドだからこそ、回復職にも出番ができたわけだね」

「はい。そうして討伐した首長竜からは、いくつかアイテムがドロップしました……そのほとんどがアンデッド版でしたけど」


 死霊術で改めて動かした魔物を倒しても、ドロップアイテムが出せるなら出てくる。
 ただし、アンデッドになった際に生じる瘴気の影響で汚染されている場合が多いが。


「ますたーなら浄化できるよね?」

「そうですね……それを周りも理解しているからこそ、大変なことになりましたよ」


 聖属性で使える浄化系の魔法の中には、そうしたアイテムに残った瘴気の残滓を取り払う魔法なども取り揃えられている。

 それを使うことで、呪われた素材などを使えるようにできるわけだ。
 ……だいぶ腕のいいクラーレだからこそ、そうして頼まれたわけなのか。


「そういえばますたー、[ベネボレンス]はどうなったの?」

「……戦闘終了後に消えました。何も言わずに、ただ無言で」

「ますたーもガーに、とことん気にされているみたいだね。まあ、あの子はとっても優しい子だから、いつか二人で楽しくお喋りできるって信じているよ」

「はい。それはわたしも……楽しみです」


 今はまだクラーレに心を閉ざしているみたいだが、ガーは根が良すぎるので、いずれはクラーレと真剣に向き合うだろう。

 クラーレもクラーレで、親身に付き合えばガーの良さを分かるはず。
 共に【慈愛】を担う者同士、ぜひとも仲良くしてもらいたいな。



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