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山田 武

偽善者と大湖戦線 その08



 シガンが戻ってきて、わたしたちはやるべきことを決めました。
 メルとの会話も報告して、何か企んでいることも伝えてあります。


「正直、メルが何をしても止める手段が無いわね。そっちに関しては、クラーレに委ねるということでいいわね?」

『異議なし』

「……分かりました。最悪、呼びだしてすぐに拘束しましょう」


 メルとわたしを繋げるパス、とある作品をパクったそれで三回は呼びだせます。
 メル側から拒絶はできませんので、何かするのであれば……それを使いましょう。


「さっきの情報共有、そしてメルの話で決めたわ。ボスの魔族は他の人に任せましょう。死霊術師タイプの相手だけど、アンデッド化はメルが防いでいるし……なんとかなるわ」


 念話の発端となった不思議な歌は、メルが“鎮魂歌レクイエム”を歌っていたものでした。
 歌は止まりましたが、フィールド全体に一定期間のアンデッド化無効が起きています。

 戦っている魔物の中に、アンデッド化した魔物は確認されていました。
 すでにそれらは成仏していますが、未だにボスの周辺にはアンデッドが残っています。


「今回、主導で動いているのは魔族みたいだけど、結構な数の上位種を見つけているわ」

「何体か、位階が7以上の個体が居たわ。気づかれる予感がしたからよくは見れなかったけど、それでも五体以上は確定ね」

「……ってことだから、私たちはそっちをどうにかするわよ。本来の計画なら、それらが死んでもまたアンデッドにするってものなんだろうけど、それも台無しになっているし」


 上位の個体が下位の個体を呼びだす能力は定番です。
 それらもアンデッド化していたなら、状況はより深刻になっていたでしょう。

 魔法でアンデッド化を抑制できるものはよくありますが、大規模に影響を及ぼせるものは効果が薄く、性能が高いモノは数がごく僅かになっています。

 そう考えると、メルの歌は尋常じゃありませんね。
 しかもとっても綺麗で……映像で観る歌手などよりも、耳に入ってきました。

 先ほど語ったアンデッド化無効も、歌い終えても効果が続いています。
 ただ、それでも時間制限は設けられています……それについても話したようですね。


「メルの歌が残っているのはあと1時間……凄いわよね。ともかく、アンデッド化の効果が抑えられているのはそこまで」

「歌ってもらえば、もっと増やしてもらえそうだけど……ダメ、だよね?」


 コパンの問いに、誰も答えません。
 自分たちで理解しています、メルに頼ってばかりではいけないと。

 メルはメルで、その姿を表舞台に可能な限り出してはいけないと言っていました。
 その理由のすべてを知っているわけではありませんが、叶えてあげたいです。


「歌のことは知らないと言っておいたし、イベント用の補正ってことで纏まったわ。歌の発生源も分かっていなかったし、メルだとバレることはないでしょう。あと、同じことができる人は、この場には・・・・・居ないそうよ」

「あはは、そりゃあいないでしょうね……」

「あ~あ~、本当に~忌々しいな~」

「いつもそればっかりよね、プーチは。別にいいじゃない、何かしてきたわけじゃないんだから」


 パーティーのみんなも、メルを庇ってくれていました。
 ……プーチは少しズレていますが、それでもメルのことは秘密にしてくれています。


「さて、そろそろいっせいに動くわ。合図は誰かが上げる花火の魔法。私たちは湖に近づく魔物をまず処理するわ」

『了解!』


 今の内に、長続きする支援魔法を施しておきました。
 また、ストックできる魔法も遅延詠唱などで揃えておきます。

 前払いをしておけば、後で使う際に支払う魔力は呼びだす分だけで済みますので。
 ポーションを何本か空にして、しばらくすると──空に花火が上がりました。


「それじゃあ、出発!」


 配探知のスキルが、他の場所でも同じように動く祈念者たちの姿を捉えます。
 その目的地はほとんどが魔族の居るとされる場所……手柄が欲しいんですね。

 わたしたちを含め、湖の守護に当たろうとするパーティーは数えるほど。
 ゼロでないことが救いだと思いつつ、すぐに魔物たちと接敵しました。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──来ました、“焦光スコーチライト”!」


 身を焦がすほどに眩い光を放つと、それを目晦ましに仲間たちが動きます。
 わたし自身はすぐに回復を行って体を治して、武器を構えて様子を見守りました。

 魔物たちは目をやられた個体がほとんどですが、視覚に頼らない生態をしている種族であればそのまま攻撃をしてきます。

 狙いは先ほど、そして今も魔力を高めているわたしとプーチ。
 ですが、魔物たちが来る前に──


「先には通さない──“挑鳴打盾タウントロアー”!」


 その手に持った大きな盾を打ち鳴らして、ディオンが魔物たちの前に躍り出ます。
 魔物にとっては不快な音が流れ、攻撃は彼女の方へ向かいました。

 時間を得たわたしとプーチは、魔法を完成させて一気に数を減らすことに成功。
 こうして『月の乙女』は、着実に魔物が湖に近づくことを阻止していきました。

 ──そして、この後に起き得るであろう事態に備えていきます。



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