AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と大湖戦線 その07



「──はーい、私が来たよー」

「だ、誰だテメ……えぐっ!」「な、何しやが……るぅぎゃ!」「こ、このやろ……うぐわぁ!」

「うんうん、予め音が外に漏れないようにして、強盗するのは良い考えかもね。けど、そこはちゃんと狙う場所を決めた方が良かったかもね……だからこうなっちゃう。あと、私は野郎じゃないからねー」

「──お姉ちゃん、誰?」


 やってきた家屋で、三人組の泥棒を体術で倒したメル。
 いろいろと計画的にやってたようだが……その中には、子供が居た。

 さて、それを救わないのは偽善者とか関係なく人として……な。
 サクッと倒し、子供が恐怖を抱かないように爽快感を混ぜて彼らを倒した。


「ふふーん、私は偽善者だよ」

「……ぎぜんしゃ?」

「えっと、凄い人のことだよ。私はこの人たちをお外に連れていくから、ここでまた隠れているんだよ」

「うん……もう、大丈夫なの?」


 子供は子供なりに、大人が隠している想いに敏感なのだ。
 心配そうな表情を浮かべる子供に……俺はその掌をギュッと触る。


「問題ない、約束するよ──“護光ライトアミュレット”」

「ふわぁ……!」

「この綺麗な光が守ってくれるよ。だから、安心していいんだよ」

「ありがとう、お姉ちゃん!」


 子供の純粋な笑みに、偽善をやったという満足感を覚えた。
 それなりに魔力を籠めておいたので、このイベント中ぐらいは持つはずだ。

 子供に手を振って、家屋を出る。
 一番切羽詰まった状況だった場所の処理は終わったが、まだ他にもやることがあった。

 喚く泥棒たちを引きずり、子供が来ない遠い場所で放り投げる。
 もちろん、そんなことをしたら暴れ出すのだが……事前に魔法で拘束済みだ。


「うーん、私独りでやるのも大変だしな……ねぇ、手伝ってよ?」

「だ、誰が……死ね」

「うんうん、素直になれないんだね。だから私が、手伝ってあげる──“信心喪失ロスト”」

「なっ、これ……ぎゃぁあああああ!」


 子供と違って、わざわざ丁寧に接する必要のない相手だ。
 了承も無く、強引に干渉して精神魔法で彼らの精神を弄る。

 容赦なく、徹底的に、彼らを俺が利用できる手駒にしておく。
 その間の記憶は忘却、終了後は先ほどまでの状態に戻るサービス付き。


「自分たちの同業者を見つけて、しばらく動けないようにしておいて。自分たちが死なないように、そして相手も自分が瀕死にならない限りは殺さずにしておいてね」

『…………』

「はい、それじゃあ解散!」


 俺の指示には絶対服従なので、さっそく都で悪さをする者たちを狙う。
 俺が率先して動くよりも、彼らに業を注ぐ機会を与える……なんて偽善だろうか。


「うーん、次は何をしようかな……よし、代わりも見つけたから、そろそろ遊びに行ってみようか」


 泡沫は至る所に飛んでいき、観測点がどこまでも増えていく。
 ごく一部では、割る者が現れたが……それはそれで、面白い結果だと感じた。

 ──芽生えはそう早くも無い、少しぐらい寄り道をしてもいいだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 SIDE:クラーレ


 メルとの念話を終え、一息吐きます。
 忠告しても、おそらく何かをすること自体は止められないでしょう。

 シガンが他の祈念者と今後の予定を話す間は、まだまだ余裕があります。
 その間にメルと念話をしていましたが……やれやれ、どんなときも変わりません。


「ふふっ。これはもう、あとでじっくりと話し合う必要があるかもしれませんね」


 お菓子と飲み物を用意して、話をしてみましょう。
 いろんなことを、メルの感じたことを訊いてみれば考えが分かるかもしれません。


「ねぇクラーレ、それってアタシたちも参加してイイやつなの?」

「あっ、コパン」

「もしかして、イメージだとメルと二人っきりで話してたんじゃないの?」

「そ、そんなこと……ありませんよ?」


 た、たしかに、メルと笑い合っている光景が浮かびましたが……そ、それはあくまで、まだみんなをイメージしていなかっただけであって。


「それに、メルとメルス、どっちの姿の方でお茶会をしたかったのかな~?」

「それはメルです」

「あっ、そこは迷わないんだね」

「当然です。たとえ中身が同じでも、全然違いますから」


 実際、考えていたのはメルとのお茶会。
 決して、メルスとテーブルを囲うなんて考えていませんでした。

 ですがこの答えでは、コパンは納得してくれません。


「ふーん、全然違うんだ~」

「当然です……な、なんですかその目は?」

「いーや、な~んでも。それよりさ、アタシはあんまりよく分からなくて。クラーレ的にその違いって何なの?」

「そう、ですね……」


 改めて言葉にしようとする……それがすべて伝わるか分かりません。
 ですが、どうにか語彙を駆使して、わたしの感覚を表現してみようと頑張ってみます。


「メルの場合、優先度が少しだけわたしたちに向いています」

「自意識過剰とか、そういうことは?」

「……かも、しれませんが。少なくともわたしたちがメルから受けているサービスは、明らかに普通のレベルではありません」

「まあ、たしかにそれはそうだね。基本、生産関連は頼めば何でもやってくれるし」


 少しずつ生産班のみんなでやっているのですが、メルがやる理由は一番メルがやることが上手いから。

 特に武器や防具は命に関わることなので、妥協はいっさいしていません。
 ……そういったことをやってもらえる点も含めて、サービスが行き届きすぎています。


「メルスの場合は……なんというか、彼の生き方がもっとも優先されています。何でもやりたい放題で、人のことをからかって……」

「うん、それってメルも同じだよね」

「ぜ、全然違います! メルのはこう……そうです、愛情があります! ──ッ!?」

 わ、わたしはいったい何を……。
 コパンがニヤリと笑みを浮かべている姿を見て、わたしはすべてを察しました。


「……わたしをからかいましたね?」

「別にー。ほら、ちょっとだけ素直になった方が──って、なんで攻撃魔法を?」

「これからに向けて、少し練習をしたくて。魔法を壊せるコパンですし、これぐらいは平気ですよね?」

「……む、昔ならともかく、今のクラーレの魔法は難しいかな……なーんて」


 それからわたしは、シガンが戻ってくるまでコパンと魔法の練習をしていました。
 まったく、あんまりからかわないでほしいです。

 ……ただ、思うところはありました。
 改めて、メルとメルスについて考え直す必要がありかもしれませんね。



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