AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と輸血狩り その17
「──“血幻”」
騎士を地上に誘導しながら、剣を振るいつつ魔法を発動させる。
媒介は先日、帝国中にバラまいた血……このための布石というわけじゃないがな。
だが、どうせすぐにバレる。
騎士が思いのほか強化されたので、計画に土壇場だが組み込んでみる……メィには悪いが、雇用主ということで許してもらおう。
ともあれ、そんな雇用者をも巻き込む追加の計画は、“血幻”が引き起こす集団幻覚。
血に含まれた魔力の濃度が高いほど、その成功率は高い……その血はすべて俺のモノ。
「失敗するわけがない。さて、どっぷり血を浴びせた騎士はどうなるかな?」
まあ、レベル250かつ装備もだいぶ高級品なので、幻覚への抵抗値はかなり高い。
普通なら効かなかったかもしれないが……今の彼は、吸血鬼なのだ。
「うぐぅ……うがぁああ!」
「血を媒介にした魔法である以上、その本能が多くの血を欲する。まして、まだ成ったばかり。それを制御する術はないのに、消費したエネルギーを補給するために取り込まないといけないんだよ」
俺の言ったことはすべて事実、フィレルにも協力してもらって調べ上げている。
吸血鬼は血に関する事象において、通常よりも多くのものを得られるのだ。
だがそれは、すべてがイイことというわけでもない。
実際、フィレルは酔ったらアレだし、今回の件のように……吸血鬼は血で狂うのだ。
だからこそ忌み嫌われ、地球と同じような扱いを受けている。
それこそアンデッドである『吸血飢』と、同列の扱いを受けるという屈辱付きで。
共に聖属性に弱いという弱点はあるが、それは加護とかいろんな理由があるのだ。
それゆえに、同じとか言ったら普通に吸血鬼はキレる……みんな、気を付けてね♪
「とかなんとか言っている間に、完全に夢に堕ちたな……さて、設定を弄ろーっと」
騎士の空腹感を煽り、認識を書き換える。
もっとも重要な部分、つまり皇帝云々さえそのままにしておけば気づかれない。
むしろそこに意識を集中させ、それ以外への思考を騎士自身に排除させる。
そうして作った意図的な認識を、さらに動かし──向ける相手を調整すれば完成だ。
「うぎぎっ、ぐがぁあああ……!」
「ちょっと弄りすぎたかな? 仕方がない、ズルいけど──“認識誘導”」
「ぐぐぐ……吸血鬼、殺す。血、吸い取ってやる!」
「うんうん、その調子その調子。それじゃあさっそく、行ってみよー!」
俺の言葉を引き金に、騎士は動き出す。
彼の意識の中では、それを行うことこそが皇帝陛下のためになる……とかそういう結論に至っているはずだ。
なまじ万全の耐性で挑んでいたからこそ、俺のやったことが上手くいくとは思わない。
そして、それに気づかないまま……すべてが終わるまで暴れ続ける。
「ど、どうしてこちら──ぎゃぁあああ!」「止めてください! 私たちは──カッ!」「な、なぜ……どうして……」
「吸血鬼殺す! 血を寄越せ!」
「「「ぎゃぁああああ!」」」
剣を振るっては血を集め、それを吸い上げていく……まだ牙ではない辺り、完全では無いみたいだが。
それでも血を集め、何度も体内に取り込み続けている。
兵士や騎士を切って斬って、どんどん数を減らしてくれていた。
しばらくすれば、帝国民たちもそれを知っていく……そして、声が聞こえる。
「──様は吸血鬼になった。なぜ、どうしてこんなことに……」「奴らの仕業だ! 奴らが、何か魔法でやったんだ!」「いや、アイツらは吸った相手を吸血鬼にできるんだ!」
様々な情報が錯綜した。
だが、それらすべてを気にする必要などない……これもまた、すべて仕込みだ。
魔導“統括されし狂信の共進”の影響は、情報戦でも役に立つ。
次第に話は変化し、帝国に責を求めるような意見に変わっていく。
「……だが聞いたぞ、これは皇帝陛下が指示したことだと」「吸血鬼を幽閉し、吸血鬼となる技術を得たらしいな」「他にも──」
真実と嘘の情報を交え、それらを洗脳状態にある奴らから流していく。
すべてが嘘ではないことで、その情報をある程度考えに入れてしまう。
少しずつそれは埋伏の毒と化し、ゆっくりと真綿で首を締めるように、帝国を蝕んでいくことになる。
「でも、これはまだ後の話。そろそろ終わりにしようかな」
「血を、血を寄越せ!」
「[血涙]──『搾り取れ』」
「血を──がぁあああああ!」
呪剣を取りだして力を解放。
何度か使っている内に、呪剣も自分が呼ばれた際に何をすればいいのか学んだ。
可能な限りペフリの血を抽出すると、余計な血液は勝手に処理してくれる。
……まあ、それはいずれ何かをするために溜め込んでいるんだとは思うが。
ともあれ、ペフリの血にはいっさい手を付けずにこちらに提供してくれる。
血を奪われた騎士は、飢餓状態を逃れようと足掻くために手をバタつかせていた。
血を奪ってもまだ生きているのだ。
そして、また血を啜れば生き残るだけの可能性を秘めている。
「──さぁ、悲劇を。より藻掻き、この地に最悪をもたらおうとしてくれ……安心してくれ、ちゃんと救いはあるさ」
それからしばらくして、吸血鬼はしっかりと駆除されることに。
ただしその数は一体、綺麗な鎧を血で染め上げた個体のみだった。
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