AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と輸血狩り その14



 結局というか当然というか、吸血鬼ヴァンパイアたちは俺の提案に乗った。
 さすがはフィレルの認めた、特殊加工がされた俺の血である。


「お前たちに武器をくれてやる。吸血鬼狩りたちもいるからな、それに対抗できるだけの力が無いとダメだろう──“影保管シャドウストック”」


 影を、そして影を有する存在を保存しておける魔法から取り出すのは、予め移しておいた武器の数々。

 ただ、少しだけ銀や聖なる光に耐性を持っているという代物。
 そしてその効果を、その装備者にも与えるというだけのこと。

 だがそれだけでも、彼らからすれば目から鱗が落ちるほどの逸品。
 何度か、本当にこれをくれるのかと言ってきた……いや、貸すって言っただろ。


「貴様は……いったい、何者なのだ?」

「俺は俺、ただの紛い物。だが、本物以上に力だけは持っている正体不明の存在ってところだ。ほら、もういいだろう。さっさと地上に赴き契約を履行するがよい」

「わ、分かった──よし、行くぞ!」


 代表者の号令で彼らは、いっせいに地上で兵士や騎士たちに攻撃を仕掛ける。
 メィにはいちおう“共血ブラッドリンク”で連絡してあり、誤解はせず訝しむ視線を向けるだけだ。


「ともあれ、このままやっていけばいいか」

《……何をするの?》

「上空で攻撃と支援を行う吸血鬼が居れば、誰かしらが飛んでくるだろう? そいつから魔具を奪い取る」


 変身魔法で前回と同じ姿を取って、魔法で創られた存在だと誤認させる。
 あの時と違って解除しても消えないが、そこは転移で補えばいいさ。


《ねぇ、どうして彼らを使ったの?》

「メィは嫌だったか? 吸血鬼を臨時で雇って、簡単な仕事をさせるのは? 言ってみれば、メィがやっているのは本命の仕事。彼らにやらせるのはそのサポートだな。どうせ払う物は安易な血、気にしなくてもいい」

《──陽光に耐えられるようになる血、それが欲しい吸血鬼は多い。それは日の下でも、暴れることを望んでいるから》

「早計だった、と言いたいわけか。でも、そこは気にしなくてもいい。俺の血はある加工がされているから、そこまで長くは続けられない。曰く、耐性スキルが有っても耐えられない中毒性があるだけなんだとか」


 それを聞いたメィの反応ときたら。
 嫌がり方が尋常じゃなかった……それはそれで、その血の持ち主は結構辛い思いをすると分かってもらいたい。


「まっ、ともかく。そろそろこっちにも誰か来るだろう。メィ、その前に何かやっておきたいこととかあるか?」

《……海水が欲しい》

「了解──“潮吹マリンスパウト”」


 広範囲に塩水を飛ばすという、まあ鯨のアレを再現したような魔法。
 しかし魔力を大量に注ぎ、強化することでまんま海水を飛ばすことに成功した。

 至る所に降り注ぐしょっぱい雨。
 それこそ先日降り注いだ赤い血を、洗い流すかのように膨大な量を。


「そして、これだけ大規模に魔法を使えば、さすがに探知される。これは間違いなく誘いだと思われるが、それでもここに来ざるを得ない……可哀想だな、仕える奴は」


 現在、俺は上空という主導権を確保している……空から攻撃でもやりたい放題だ。
 それを阻止するためには、防がなくてはならない──具体的には敵の排除を行って。


「来たか……吸血鬼化していない。そうか、普通に風魔法か飛行系の魔法を付与されて、ある程度ここで戦えるようにしているのか」

「貴様、いったいここで何をしている!」

「これだけやったのに、まだ気づかないんだね……やれやれ。じゃあ、始めようか──血の舞踏会をね」

「ッ……!」


 吸血鬼の戦闘スタイルは、血での遠隔戦闘と人外の身体能力を用いた近距離戦闘。
 これまでさんざん前者で戦っていたので、今回は後者でやってみる。


「──“血意複写ブルードテプリケート”、“灼熱血流ヒートブルード”」


 ペフリの血を取り込み、重ねて血系統の魔法を行使した。
 それは血を熱くすることで、体自体に熱を帯びさせることができる魔法だ。

 人外の身体能力と相手を焼く熱、これら二つを得たことで準備は整った。
 空で十全に戦えない騎士を相手に、宙を蹴りだして接近する。


「──“鋼鉄爪アイアンクロ―”」

「くっ、“刃防御ブレードガード”!」

「その程度で……無駄だよ、この爪は鋼をも切り裂くんだから!」


 魔力で強度を上げているようだが、血が籠められた魔具でない以上強度は高くない。
 逆に俺は高いステータス値をごり押しし、強行突破──爪で剣を削り切った。


「小癪な……!」

「どれだけカッコイイ言葉が言えたって、そのまま死んだら無様だよね」

「何だと……」

「要するにこういうこと──“猛虎烈爪タイガークロー”」


 先ほどの単発武技とは違う、高速で手を動かして行う連続攻撃。
 虎の名を冠したその猛攻は、騎士の防御を容易く掻い潜り……鎧すら切り裂いた。


「つまりね、もっと強いヤツを連れて来いってこと。ほら、生かしてあるから早く伝えて来てね……こういうのを、生き恥を晒すって言うんだよ」

「きさ……きさまぁああああああああ!」

「あはっ、あはははは! お使いもできないとか、そんな低知能なんて思わせないでね。ほーら、早く行って──“踵落撃アクスキック”」

「がはっ……!」


 踵落としを打ち込み、強引に空から下へ叩き落す。
 ちゃんと加減はしているので、落下ダメージ含めて生き延びているはずだ。


「ちゃんとお願いしたから、これで次は魔具持ちが来てくれる……かな? メィに吸血鬼たち、それに俺。予想外の展開にならないといいんだけど」


 人はそれをフラグという。
 自分でもなんとなくそう思うが……それでも目的を果たしてこそ、偽善者を目指すものに与えられた試練なのだ。



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