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山田 武

偽善者と輸血狩り その13



 さて、計画は第三段階まで進んだ。
 最初は情報をバラ撒き、次にそれを事実と認識させ、その後大規模な戦闘を行った。

 大衆は恐怖を抱き、眠れぬ夜を過ごす。
 そこは本当に申し訳ないと思うが、偽善エゴ行うとおすのだからそこは割り切るつもりだ。

 そうしてリラックスのできない日々を過ごしていけば、彼らは次第に心情を変える。
 それが帝国の情勢に、影響を与えるかどうかは……まだ分からないところだ。


「メィ、次は騎士を狙う。有能な奴には血が渡されていて、注入も結構な確率で使われるだろう。だからまず、死んでも蘇る祈念者で試してもらった……どうせ吸血鬼化するし、似たようなものだろう」

「全然違うと思う。でも、あの人の血を使うからには相当強い」

「帝国の騎士で、しかも皇帝に認められるレベルだからな。確実にレベルは250、そこに擬似的な加算が入るわけだから……300ぐらいはあるんじゃないか?」


 俺や眷属からすれば気に留める必要も無い数値だが、それは『超越者』に値する。
 何らかの手段で数値の限界を超え、辿り着く人外の領域……それに血を使うだけでな。

 そして彼らは、間違いなく俺たちの目的の邪魔をしてくる。
 理由や理屈はともあれ、阻まれるならば押し通るだけだ。


「俺はサポートをするが、徹することはできない。今回同様、指示に合わせて魔法を使うのが精々だ。形状さえ指定してくれればどんな物でも出せるし、海水が必要になったらいつでも言ってくれ」

「ありがとう、それなら依頼も達成できる」

「それは心強い。間もなく終盤、俺も可能な限り力を使おう。少なくとも、この俺にできることすべてをな」


 縛りを解除すれば、何でもかんでも思うが儘にやることができる。
 だが今までもやってきたように、あくまで抑えた範囲で偽善をやり遂げるつもりだ。

 ……いやまあ、時々変更とかしていたんだけどさ。
 今回は最初から緩々な縛りなんだから、これ以上の追加とかは控えておこう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 今度は昼ではなく夜に、“極夜ポーラーナイト”を発動して空間を支配する。
 明るさは変わらないが、魔法の気配がするので感知能力が高ければ気づくことが可能。

 当然、お偉い様がたや騎士たちの中には気づける者が居るので、警戒される。
 それでも俺たちは、計画を成功させるために動く──覚悟はとっくに決まっていた。


「魔導解放──“統括せし狂信の共進”」


 緊張感に包まれた夜の街で、告げた魔導は洗脳による騒動。
 抵抗できなかった兵士や騎士が、仲間に向けて攻撃を始める。


「さぁ、踊り狂え──“血陣乱舞ブラッドダンス”」


 血を何滴か地面に落とす。
 その過程で雫は鋭い刃と化し、着地する寸前に浮遊を行い移動を開始する。

 無数の刃は的確に、洗脳されていない者たちの妨害を行う。
 ただし、血を持つ騎士たちは絶対に狙わない……彼女が向かっているからな。


「さて、今宵はいい夜だ……メィも充分に動くことができている」


 海の力を帯びた細剣型の聖剣を振るい、彼女は目的の魔具を持つ騎士に挑んでいく。
 主犯だと認識している騎士もまた、それを受け入れ一対一で戦いを繰り広げている。

 空でのんびりとしている俺には、誰もまだ気づけていなかった。


「──そして、お前たちもな。ここまで派手に騒いでいたら、来ると思ったぞ」

「……この地に在るのだろう? 貴様もそれに気づいたのか。先ほどの鮮やかな血魔法、どうやら同朋のようだな」

「いやいや、そういうことじゃないさ。気づいたも何も、それを気づかせたのは俺。そして、正しくは吸血鬼ヴァンパイアでも……ましてやただの普人族フーマンでもない」


 因子を使っていたわけでもないが、血を無くしていたことで正しい認識をできなかったのだろう……何より存在を偽装している現状なので、気づけなくて当然である。

 真っ先に突っ込んできた吸血鬼の男に続いて、次々と現れる吸血鬼たち。
 彼らが求めるのはペフリの血、それを取り込むことで自身を強化するためだ。


「まあ、落ち着けよ。見ての通り──お前らの求める物は、ここにもあるからさ」

『!』


 俺が“空間収納ボックス”から取り出したのは、試験官に詰められたペフリしんその血。
 吸血鬼たちは直感で気づく、それが自分たちの求めている本物であると。


「とはいえ、これは俺が帝国を相手に集めてきたものだ。わざわざお前たちにタダでくれてやることもないだろう……」

「ならばなぜ、それを見せた……いったいどういうつもりだ」

「もっとも血が残っているのは、あの城の中だ。当然、そんな場所だから警戒されているはず、お前たちが普通に挑んでも奪うこともできないだろう……そろそろ吸血鬼狩りヴァンパイアハンター共も来るだろうからな」

「チッ、忌々しい連中も来ているのか」


 吸血鬼にとって、自分たちに特化した戦い方をする彼らは厄介そのものだろう。
 自分たちのことを知り尽くしているのだ、搦手に出ても封じられるからな。


「お前たちに言っておきたいのは、俺と下で騎士と戦う娘には手を出さないこと。そして例の血を飲まないこと……それさえやってくれるなら、もっといい物をやる」

「なんだ、そのいい物とは……」


 尋ねてくる吸血鬼に、俺はもう一本の試験菅入りの血を取りだす。
 ただしその中身は、ペフリの血ではなく別人の血……まあ、俺のモノだ。


「これ。説明しなくても分かるだろう? これにどれだけの価値があるのか」

「そ、その気配……まさか!」

「飲んだだけで、そいつはあの境地に至ることができる特別な逸品。欲しくない、とは言わせないからな」

「…………分かった、少し話をさせてくれ」


 どうぞご自由に、と言って別の準備を初めておく。
 間違いなく、彼らはこの話に乗るのだ……さっさと次に移る支度をしないとな。



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