AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と輸血狩り その07



『~~~~~♪』


 コロシアムの熱狂が突如として遮られる。
 それは上空で奏でられる、澄んだ歌声が耳に入ってきたからだ。

 誰もそれを不快だと思えず、かといって盛り上がるような感覚を出さない。
 響くその歌は、その場にいるすべての者たちを揺さぶっていた。

 五分ほどして、その音は止む。
 いったい何だったのか、それを問うのと同時にそれを歌ったのが誰なのか、イベントなのかと観客たちは盛り上がる。


『魔■■放──“統■さ■し■信の■進”』


 再び、声が人々の耳に入った。
 先ほどまでの声が透き通ったモノならば、今回の声はおどろおどろしいモノ。

 拒もうとも拒み切れず、強制的に浸透させられる……。
 やがて彼らの中には、一つの共通意識が生まれた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──“集血ブラッドギャザー”」


 魔法は無事成功し、俺の掌にはペフリの血が集まってできた水玉が浮かんでいる。
 それらを保管し、安全を確保してからようやく一息吐く。


「普通に参加って……何?」

「参加しただろう? 祈念者の世界だと、こういうのを乱入っていう参加方法と呼ぶんだがな。最初からそうすることを、予め決めたうえでやる奴もいるんだよ」

「どうして?」

「その方が盛り上がるからだ。だから、俺たちは彼らの考え方に則って、参加した。勝手に歌って……洗脳した」


 メィに一曲歌ってもらったのは、意識を上で聞こえてくる声に向けさせるため。
 そしてそれは上手くいき、魔導を場に居る全員に引っ掛けることができた。

 あの魔導──“統括されし狂信の共進”の効果は、完全支配下の状態での洗脳。
 コロシアム全体にそれを施した結果、祈念者も自由民も関係なく洗脳状態にできた。

 ……普通はできないことも、裏を突けばできてしまう。
 歌を聞いて感動を覚えたように、歌でナニカを感じたと認識を弄ればいいだけのこと。


「それで、どうするの?」

「メィが受け入れたのは、歌うところまで。だからここからは俺のやることだ。次の仕込みはできた、すぐに奴らも対応するさ」

「……メル」

「そうだな。さっそく頼む」


 先ほどの歌は、ただ大衆の意識を引っ張るためのモノ。
 しかし彼女が次に歌うのは、傷ついたモノたちを癒す夜想曲ノクターン

 ゆったりとした、落ち着いたテンポで歌が響き渡る。
 観客はそれを黙って聞く、これまでと違い何も感じない無表情で。

 歌を楽しみ、俺の洗脳を受け、異なる状態で聞く歌はどんな感じなのだろうか。
 それでも彼女は、傷に苦しむモノたちを助けるために歌うことを選んだ。


「~~~~♪」

「そうだな……なら──“補助音ビー・ジー・エム”」


 歌を奏でる彼女の隣で、音魔法で作ったオリジナル魔法を使う。
 決して彼女の歌の邪魔にはならず、それこそ歌を楽しむための背景として音を出す。


「! ~~~~♪」

「……結構便利だろう? 前に教えたアイドルってヤツは、基本的にこんな感じで歌に音楽を乗せるんだ。より歌を楽しめるように、合わせた音を出してもらってな」


 歌を支える音を出しながら、俺はメィに問いかける。
 答えは要らない、その歌がよりいっそう周囲を癒すことがその答えになっていた。

 別にこれは楽器でやっても良かったことだが、さすがに情緒が無いからな。
 魔法で音を出しておけば、それらしく聞こえる……ちょうどいいだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 二人の演奏会が終わる頃には、負傷者たちの傷は癒えていた。
 本来の夜想曲は回復速度を向上させる程度だが、そこは彼女の歌の力と言えよう。


「血は集めたし、コロシアムに居る奴らは全員洗脳し終えた。これで問題なく次の作戦に移行できる」

「……なんで地下に来たの?」

「隷属の首輪の回収、そして収容された囚人と魔物を解放しておくためだな。上の奴らで騒動を促すにしても、力で捻じ伏せられる可能性が高いからな」


 かといって、ここに居る奴らもとても強いわけじゃないけど。
 それなら収容されているわけないし、基本的に強い奴らは黒没街の方に居る。


「これでも血はまだ二割。ここまで回収率が低いとなると、皇帝に近い奴らが大部分を保持していることになるんだよな」

「……あの人よりも、強いのかも」

「九割の力を奪っていったんだから、その内の二割でもあれば能力値とかだけなら超えているかもしれない」


 吸血鬼ヴァンパイアの力を擬似的に得ることで、それなりに強い力を有している彼ら。
 前に殴り込んだ時は、それでも一蹴できる奴らが多かった。

 ……あれはおそらく、本当に必要な人材にが使っていなかったからだろう。
 まだすべてを知り尽くしたわけでもない力で、失敗して死なせるわけにはいかない。


「だが前回のこともあるし、ペフリ自身も俺たちで回収した。もう、形振りなんて構っていられないだろうな」

「…………」

「さぁ、次だ次。仕込みはいずれ、本格的に芽吹く。そして、誰も彼もがこの騒動に巻き込まれていくだろう。メィ、自意識過剰かもしれないが、その中心は俺たちだ」

「……うん!」


 偽善一つで国と戦うというのは、いささかやり過ぎと思われるだろう。
 だが、それでもあの二人が今以上の関係になるには……必要なことだ。

 ──第一段階:情報戦を始めよう。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品