AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と飽くなき徒労 その09



 名も知らぬ神からのお告げもあって、そこから俺は食事を取ることにした。
 だが、問題が一つ……。


「何でもいいって言っただろう。そこにある物全部寄越せばいい」

「なりません! 初めて餓王様がお食べになられる品、決して私たちの食すような物とは同じではいけないのです!」

「……うるせぇな。俺様が食いたい、それだけで理由は充分なんだ。それとも、貴様らは俺様に食わすことのできない物を、これまで並べてきていたのか?」

「そ、そのようなことは……」


 これまで狗妖獣クー・シーたちは食料を捧げ、俺が残した分を食べるという手順を踏んでいた。
 今まではそれでよかった、俺は何も食べないので出した分全部を食べられる。

 しかし、俺が食事を始めるということで、彼らは大いに焦った……俺の考えていたこととは、まったく別の方向で。

 曰く、まだ俺に食べさせる域に辿り着いていないと、そのようなことを言っている。
 なのでこのままだと、今日も餓えることになりそうだ……仕方ないな。


「もういい、料理は貴様らが食え。だが、そこに置いた素材の方は残しておけ」

「ま、まさか……!」

「──俺様が手本を見せてやる。そして、それを超える物をいずれ作れ。これまでのように捧げる必要はもう無い。だが、必ず俺様の舌を唸らせる物を作ると誓え」


 生産神の加護を持つ俺にとって、最高品質の料理を作るのはそれこそ当たり前のこと。
 それに、日々眷属が喜ぶ料理を開発しているので、腕はそれなりだろう。

 狗妖獣たちが、どこまで料理のレベルを挙げられるのかは分からない。
 しかし、こういうことにもアレは機能するのだ……たぶん、どうにかなるだろう。


「お任せください! 必ずや、餓王様の満足の良く品を作り上げてみせましょう!」

「ああ、その域だ。とりあえず、料理をする奴は全員呼べ。やってない奴、向上する気の無い奴は要らん。俺様に料理を献上したい、そう正面から言えるような奴だけでいい」

「お任せください!」


 ピューンと効果音が出そうなほど、物凄い勢いでこの場から去る長。
 ……レベルや生活の質が上がって、かなり健康になったからな。

 しばらく経ってから、俺は空間魔法で狗妖獣たちが使っている厨房に向かう。
 いちおうでも食にこだわる役回りをしていたので、結構高機能の物を揃えてある。


「──集まったな」

『餓王様!』

「……数が多いな。おい、どうなっている」

「ハッ! 見ての通り、餓王様に自分の作り上げた料理を食べてもらいたいという者がこれだけいるのです!」


 集まった狗妖獣たちの瞳は、とてもキラキラとしていた。
 そこまでする必要があるのか? とも思うが、別に悪いことでもないと考え直す。


「まあいいだろう。貴様らの料理の質も上がり、それがいずれ俺様の国の繁栄へ繋がる。今はそれだけを信じ、研鑽し続けろ」

『ハッ!』

「今日は基本からだな。そもそも、料理に技なんて必要ない。基礎を積み重ねれば、自然と上手くなる。それを覚えるところからだ」


 なんで俺、料理の先生になっているんだろうな……そう思いながらも、教導に最適なスキルを起動させ、狗妖獣たちに料理を仕込み始めるのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 餓王様による料理教室は何度も行われ、その度に狗妖獣たちの腕は磨かれていく。
 中には種族名に『調理師コック』が付く個体も出るほど、食文化が上がっている。

 ……普通は種族に付く職業名は、生存に関わる物ばかりらしいんだがな。
 生産職名もあるにはあるらしいが、普通は『鍛冶師ブラックスミス』とからしいから。


「さて、というわけで方針が変わった」

《喰らい続け、大切に……ですか》


 現在、俺はアンと念話で会話をしていた。
 縛りもなんだか有耶無耶にしまっているので、連絡も普通にやっている。


「俺が【暴食】に関する何かをしている、それがあの神には分かったんだろう。それは目の色で判断したことにして、お告げは何を意味しているんだろうな?」

《言葉の通りならば、覚醒に必要なこと。裏はあまり感じられませんね……ただ一つ、気になることがあります》

「何がだ?」

《メルス様が魔法で補助をしなければ、単語のみで先ほどの文面を伝えることになっていたはずです。そのようなことが、できるとお思いですか? メルス様の世界でも、神託の意味を取り間違えることがあったはずです》


 それは……たしかに。
 最初に聞こえてきた間違いなく、単語ごとに区切られた内容だった。

 そしてそれ以降、女神と思わしき存在は会話レベルでこちらと接点を持っている。
 だが、もしそれができなかったら……いったいどのような展開になっていたのだろう。


「……まあ、過ぎたことだからいいけど。曰く、この大陸という環境と祈りがあの神を構成しているらしい。リオンとかにこのことを聞いて、確かめてくれるか?」

《畏まりました》

「そっちはそれでいいとして……これからの方針をどうしようか。縛りは改めて、考え直すべきか?」

《いえ、そのままで大丈夫でしょう。目的が【暴食】の覚醒である以上、食事制限の解除以外はそのままの方がよいかもしれません。喰らうこと、そこにバリエーションがある方が良いかもしれませんので》


 よく分からないが、アンが言うので間違いないだろう。
 とりあえず、それっぽいことをやり続けるしかないな。



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