AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と飽くなき徒労 その04



《青色になっていますよ》

「……マジか」


 連絡は俺からしかしないと決めていたが、その例外が一つ──『侵蝕』の報告だ。
 どうせ自分では自覚できない、ならば観測者に伝えてもらえばいい……単純である。


「つまり飲まず食わずがここまで来ないと、本当の飢餓感は始まらないわけか。これまでずいぶんと、【忍耐】に助けられたな」


 何でも食べられる【暴食】は、ある程度食い溜めをすることが可能だ。
 しかしその分能力を使えば使うほど、対価として激しく空腹感を煽る。

 しかし俺には、限界以上に溜め込むことを可能とする【忍耐】がある。
 それによって【暴食】の食い溜めの限界を突破し、無制限の貯蓄を可能とした。


「だからこそ、今まではまったく飢餓感も無かったんだが……そうか、これが飢餓か」

《現在はまだ瞳のみですので、『蝕化』時の飢餓感よりは弱いはずです》

「……たぶん{感情}が働いてなかったら、もうこの時点で発狂しているんだが? おいおい、どんだけヤバいんだよ」


 七つの大罪において、唯一生死に直接関わる罪──【暴食】。
 他の罪はどれだけ犯そうと、それそのもので死ぬことは無い。

 だが【暴食】だけは、しないという選択肢が存在しないのだ。
 だからこそ、体が警鐘を鳴らす──罪を犯せと、生きるために。


《では、わたしはこれで。『蝕化』が確認されましたら、再度お知らせいたします》

「ああ、よろしく頼む」


 アンとの念話が切れて、ほっと一息……張り詰めていた緊張感から解放される。
 そして、あるがままに自分の心を出す──強烈な飢餓感が、内から蝕んできた。


「なのに思考はこんなにクール。純度が高くなり過ぎたから、{感情}の調整機能が逆に働くようになったわけか」


 魔物を解体していると、目の前に肉が大量に並べられる光景が広がる。
 この世界では自分で料理をしているので、いろんなことを考える。

 この肉ならあの料理に、そっちの肉ならああいう料理に……そうしてできた料理を食べて、眷属たちが喜ぶ姿を。

 魔物の数も多かったので、それを考えている時間もまた比例して増える。
 そうしてずっと料理のことを考えれば……当然ながら腹が空く。

 今まではスキルで腹は空かないようにしていたので、全然気にならなかった。
 だが今、そんな物が失われて剥き出しの飢餓感があったため──現在に至るわけだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 目の前にどれだけ食材が並んでいても、今の俺はそれを食べることができない。
 餌を出された状態で、待てと言われたペットとは違う……本当の意味で無理なのだ。

 眷属が施した仕掛けによって、咀嚼もできずに食べようとした食材が消えるからな。
 やるならとことん、徹底的に……我ながら少々やり過ぎた感はあるけど。


「血の臭いは風で拡散、お陰でそれを狙う魔物たちがどんどん来る。けど、さすがにここまでやれば警戒してくれるか」


 解体したアイテムの中で、不要な物をいくつか使って作り上げた無数の仕掛け。
 そしてそれらに殺される魔物の姿を見て、足止めを食らっている。

 ミンチやら焼死、毒で死んだ個体など死に方はさまざま。
 できるだけ食べられないようにしたのは、何かへの当てつけかもな。


「そもそも、この大陸は何のために誕生した場所なんだか……魔物の厳選か?」


 終焉の島は隔離、そして瘴気の中でも邪気のレベルまで濃くなったものが集まる地。
 その影響が漏れているのか、ここはかなり濃い瘴気が発生している。

 魔力もかなり多いため、自然と魔物たちが誕生しては闘争を繰り返しているのだろう。
 なのでレベルが高い魔物が多く生まれ、この地は修羅の世界と化している。


「まあいいや。強い相手と戦えば、その間は飢餓感を紛らわせられる。人型はいないし、思う存分殺り合える──“無限血鎖ディ・エヌ・エー”」


 血を媒介として発動するこの魔法。
 辺りが血の海となっているこの状況においては、かなり有効的だろう。

 勝手に血液が宙に浮かび上がると、それらが絡みつく二本の螺旋を描いていく。
 その螺旋は無限に続く、しかしそれを構成する血液の量が足りない。

 ならばどうするか──ある場所から奪えばいいだけのこと。
 術者である俺を除いたすべてから、血を奪おうと螺旋は突き進む。

 魔物の体内に潜り込むと、直接血液を吸い上げてはその長さを伸ばす。
 同時に本数を増やし、強度を増し──その速度は加速していく。


「オリジナル魔法だから、この後どうするかは決めてないけどな……吸血鬼なら、そのブレンドされた血を吸って云々とか、できただろうけど今はできないし」


 因子を打てばできるだろう。
 しかし結局は、縛りによって血もまた味わうことができずにどこかへ消える。

 ならば無駄なことはしない。
 俺の支配領域に近づこうとする輩を皆殺しにするだけで、他には何も望まないのがいいのだろう。


「……まあ、宝珠にでもして保存。それらの解析はちゃんとやるんだけどな。あーあ、物凄く腹が減るな―」


 減り過ぎて腹も鳴らなくなっている。
 それでも何も摂取しない以上、さらなる飢餓感が俺を襲う。

 いつまでも持つのやら……俺も、この大陸の魔物たちも。



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