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山田 武

偽善者と橙色の調査 その12



「──おい、何をやっている!」

「っと、ちょっと待ってろ。クエラムの食事が先だからな……お前らもどうだ?」

「うっ……なんだこの匂いは!」

「なんといいますか、匂いだけで美味しいと分かりますね」


 どうやら料理を作っている間に、少年と姫様の会話は終わっていたようだ。
 だが、優先するのは眷属の頼み事……すでに模倣が終わった以上、少年に用はない。

 それでも、クエラムは誰かと共に食べる方がいいと主張するタイプなので。
 匂いに釣られてきた獣人の二人を、招いて昼食会を開く。


「コースメニューとか、そういうものは期待しないでくれ。そこにパンがあるから、置いてある物を載せて食べてくれ」

「このように食べるのだぞ!」


 クエラムが意気揚々に、具材を敷き詰めたパンにもう一枚パンを重ねる。
 ちなみにイメージとしては、耳を切り落とした食パンだな。

 いわゆるソフト系のパンが指圧で歪むほど抑え込み、豪快に齧り付く。
 とても旨そうに食べるその姿は、品が無いように見えるのに……逆に心を和ませる。


「ちょっと見たことのないヤツもあると思うが、組み合わせさえ間違えなければ美味しいぞ。それぞれ甘いものとしょっぱい物、ぐらいには分けてあるから、その境目だけは絶対に超えるなよ」


 ジャムやピーナッツバターが合う物、マスタードやソースが合う物が特にな。
 獣人には味覚が鋭い者が多いので、注意しなければなるまい。


「それじゃあ、手を合わせて!」

「て、手を?」

「メルスが、料理人がそう言うのだ。お前たちもそれに従え」

「こ、こうか……」
「こうですね」


 ここで故郷だの風習といった単語を挙げると、頭が回りそうな奴もいるので、クエラムにごり押ししてもらった。

 そこまでしてやる理由は特にないが、食べるならやっぱりやりたくなるのが日本人だ。
 パンっと手を鳴らして合わせ、それを周りにも促す。


「いたたきます!」

「「い、「いただきます!」」」


 戸惑う二人を気にも留めず、クエラムは俺に続いて叫ぶ。
 慌てて彼らにとって謎の呪文を唱えて、二人も食事をはじめ──目を輝かせた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 食事を終えた二人の少年少女は、幸福感に満ちた表情を浮かべる。
 眷属にとっては微妙になり得る品質だが、世間一般からすれば普通に高品質。

 クエラムも喜んでくれていたので、現状では最高点が出せたと言えよう。
 そんなクエラムを見ながら食べる食事は、また格別だったことも記しておく。

 姫様からは雇われないかと言われたが、そこは丁重に断っておいた。
 腹黒なのが怖いのと、どの世界でも料理長は頑張れる人まけずぎらいだからである。


「さて、そろそろ作るアイテムをどんな物にするのかを決めよう。何かお前自身、こういう物がいいって要求は?」

「姫様を守れるくらい堅く、姫様をすぐに守れるように速く」

「普通は鎧で両方をやるのは難しいぞ。だからこそ、軽鎧と重鎧ってコンセプトが二種類に分かれているわけだし」


 堅さとは重さであり、速さとは軽さだ。
 だがそれを両立するためには、バランスを考えなければならない。


「まあ、『装華』はそれができる。魔花の素材でも、魔力を籠めると堅くなったりするよな。でも、魔力が足りなくなるんじゃ、守ることも難しくなるだろう」

「どうすればいい」

「過去には層を鎧に纏わせる、なんてアイデアも出たらしいが、それはオススメしない。たしかにそれは丈夫にはなるが、さっきみたいな攻撃を受けたときにどうなってしまうか分かるだろう?」


 消費方法が一つだと、代用ということができなくなってしまう。
 纏っていたものに頼ると、不意を突くような既存概念から外れた攻撃にやられる。


「あくまでも、層は盾だ。鎧じゃなく、構えるために使え。究極的な話、盾で完璧に防げば鎧で身を守る必要は無いからな」

「それは……そう、だけども」

「これからの時代、必要なのはこれまで通りの力じゃない。一工夫も二工夫も重ねて、相手以上の策を費やすための知識だ」


 真っ当な騎士が、考えるようなことじゃないと言われるだろう。
 しかし、幸い少年はある意味シスコンと同じ考え方をしている。


「──お前は、姫様を守りたい。なら、それ以上に惜しむことはなんだ? 騎士としての意地か? それとも自分だけで、これまで通りに守りたいって慢心か? まあ、なんにせよ無駄でしかない」

「っ……!」

「メルス様……」

「だから知識を、誰にも負けられないような策を捻りだすための手札をやる。幸い、お前は知れば知るほど強くなれる。既知を未知と化し、根端を困難にしてやろう」


 姫様の視線を無視して、少年に語った。
 ペンは剣よりも強し──その意味は、言論の力が武力よりも大きい力を持っているということ。

 だが、それは要するに、知識で暴力を超えたという証明。
 ……少々暴論ではあるが、それぐらいじゃないと少年を強くなどできない。


「俺がお前にできるのは、教えることだけ。クエラムはそれを試すための練習台。アイテムも創ってやるけど、それはその知識を前提としたもの……それでもいいか?」

「それで、姫様を守れる?」

「お前には力がある。足りないのは、それをどう生かすかだけ。それを知ったとき……お前は最高の『守護者』になれるさ」


 この後の、少年の選択など言うまでもあるまい。
 俺は(伊達)眼鏡を掛け、授業の準備を始めるのだった。



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